◎今月の句会報 12月 2013・12・15

雑詠抄(入選句)

 

停車場の落葉に埋まる士幌線       イア

石畳四角四面の寒さかな         ワユ

一人逝く黙祷からの年忘れ        イフ

太平洋望む浜菊枯ゆけり         アヒ

冴ゆる夜や星には王子月に姫       アヒ

冬凪や五浦天心六角堂          アヒ

庭石を一つ動かす年用意         ワユ

つむぎ出す言葉貧しき冬菫        ナミ

字余りも字足らずもあり年惜しむ     ミノ

 

今月は、16名、96句の中から入選句は、以上という絶不調の月でした。

 

●太平洋望む浜菊枯ゆけり  

 原句、太平洋望み浜菊枯ゆけり

「望み」ですと太平洋を見ているのは、作者になります。技術的な指摘として、浜菊が太平洋に向いている句だというので、それでは、

    太平洋望む浜菊枯ゆけり

になります。浜菊は、北茨城地方に自生している菊を思わせる黄色い花。

この句は、その景の一端を表現しておりますが、太平洋に向いて咲いているなどと、如何にも瑣末的な感じします。実は、ここのままでは、事柄を述べているだけで季語の「枯れ」が縦横に生きておりません。

季語が季語としての働きをしておりません。季語を意識してもうひとつ進めてみましょう。

 

    太平洋浜菊枯れを見せゆけり

としてみましょう。

躍動を続けている太平洋の波と、生あるものの「枯れ」てゆく現実。この二つの対比により、浜菊の「枯れ」が強調され、枯れていく浜菊の黄が眼に見えてきます。事柄を述べた原句とは、発想が違った句となりました。

そして季語が生きている俳句は、自ずから格調がが備わってきます。

   

●入選できないという句。多くの中からいくつか例示しておきます。 

 

着ぶくれてペダル漕ぐなり向い風

年の瀬の話決まりし築地行き

冬帽子目深にかぶり忍者めく

バリバリと子の踏み渡る初氷

はしゃぐ声響いて重なる餅の音

湯豆腐夜柱時計のせかせかと

行き場無き夜の凩路地屋台

妻の忌を暦にしるし12月

みちのくの便りは雪のことばかり

いつからか少女無口に冬桜

ゆく年の茶の間に飾る干支馬

寄せ植の冬の花々嬉々として

野水仙斜面日当り独り占め

日だまりの八つ手の花に何か虫

空間に揺れるモビール冬館

個展見る銀座のギャラリー落葉して

 

など、

まともすぎる事柄を、まともすぎる表現、あるいは、それも出来ていない句が、この中にはあるように思われます…。

この中にはベテランの句も含まれていますが、だれもがうっかりすると陥るもの。

 

その人なりの、そのひとでなければ、という把握を、まだ、捉える事が出来ていない段階、または忘れているものと思われます。

 

いや、独自の視点などとんでもない事で、誰でもが、そうだと納得できる事柄を述べることがよいと思っているのかもしれません。

 

誰それが思っていることを繰り返すことは、俳句では、と云うよりも表現を志す人としては、一番避けねばならないことです。

 

(常に独自の視点をもって…)

 

季語を季語としてつかう事。

 

常に心がけることは、俳句のリズムや、形を覚える。「憶える」ではなく、「覚える」です。自覚すること。

 

先人の優れた句を沢山覚えましょう。それを口に出して、繰り返し繰り返し口ずさみ体得しましょう。

 

技術的なことの指摘は出来ますが、発想は教えることが出来ないことですから、職人が目で見てそこから覚えていくことと同じように、各自が自覚し、会得するよりほかに方法はありません。一例として、前述の「太平洋の句」を示しました。ここから何かを感じ取ってください。

また、喫茶店などで、コーヒーを飲みながら、雑談の中から…

 

 

◎上野・国立東京博物館と        特別公開の庭園吟行  2013・12・7

           
真あたらしき冬日浴びつつ博物館     チシ
あるなしの風にひとひら落葉かな
池に映ゆ紅葉にカメラ向けてをり
冬うらら少女五人のセーラ服
短日の茶室の庭に憩ひけり
           

寛永寺ありし跡なり落葉踏む       アノ
公園の散る葉残る葉黄金色
冬晴や物産展の伊賀上野
青空のスターバックスに悴める
冬すすき池の水面をそよがせる

 

          
黄千両元寛永寺御廟なり         シケ
小春日の金魚椿に遊びけり
水鳥の水脈を延ばして日の射せる
築山の枯枝越しの五重塔
閉ざされし門の丈越す花八手
          
天を突くメタセコイアの枯葉色      イア
蹲踞にしきりに枯葉落ちてくる
日を受けて水面に映ゆる紅葉かな
枯葉落つ大き沓石躙り口
枝折戸を抜けて行く手の黄千両
          
さくさくと落葉踏みゆく人ありし     イケ
冬紅葉苔むす灯籠点在す
入口に仙蓼赤黄茶室あり
声ありて四十雀なり冬木立
手袋をはずして這入る博物館
          
黄落の上野の山や観楓図         オミ
榠樝 の実二つ貰うて家苞に
枝折戸の開いて居りけり庭の冬
落葉踏み近づき行けば英世像
枯蓮の池に一陣鴨の群

          
冬の日を透かして紅の濃かりけり     ミノ
大木の洞を埋める落葉かな
飛行船真上にありし冬紅葉
かさかさと落葉の音を聞きたくて
つくばひを水あふれをり冬芒
           
小春日の上野の森に着きにけり      イフ 
小春日の園を巡りて昼の酒
映りつつ池に落ちゆく冬紅葉
燈籠の頭を飾る散紅葉
遠き日の戦いの跡落葉踏む
           
年歩む蹲踞の音と石佛          ハセ
冬日背に飛び石渡るどっこいしょ
落花梨蟻の一家を見つけたり
兼六園菊桜へと冬日射す
冬木立野口英世の像のあり
           
冬めける庭へと這入り行きにけり     トンボ 
幾度の冬へと移築後六窓庵
冬紅葉水面の反射騒がしく
つくばひに滾滾と水冬景色
靴音も博物館も冬めける