2013・1月  新年句会

2013・1・12 両国国技館、           初場所・土俵祭 相撲博物館


特選

 

寒の水弁天堂を支へをり     ヤミ

 

佳作

 

母は子に子は母に編む冬帽子   ニヨ

(原句・母は娘に娘は編む毛糸帽)

手をつなぎ福神詣の列にあり   イマ

妹の電話を呉れる雪積む夜    イカ

(原句・雪積む夜妹電話呉れにけり)

蹲踞の今朝の氷柱の太さかな   アノ

冴ゆる夜のスクランブルの交差点 アヒ

女正月昭和の歴史持ち寄りて   ナミ

(原句・女正月昭和の歴史持ち寄れり)

霜柱少年の日のあるやうに    イカ

(原句・霜柱踏む少年の日のやうに) 

軒下の丈の揃わぬ干大根     ハセ

月冴ゆる埠頭にいまも氷川丸   イカ

星冴えて五感目覚す寿(いのちなが) チト

(星冴ゆる五感目覚す寿)

念仏の声がどこかで路地冴ゆる  ハセ

 

 

季語と俳句の形

 

凍鶴や何処を見遣る首高く

 

首高くしていずこかを見ているのは…凍鶴?

そのような内容ですね。

 

季語としての「凍鶴」は、

身じろぎもせず、曲げた首を自分の翼深く埋めて立っている姿のことを云います。この句は、<丹頂の何処を見遣る首高く>という意なのでしょう。

 

「や」を遣った時の俳句の形

 

凩や陶窯に火の音まはる   加藤知世子

木枯や錦をさらす京の店   大須賀尾乙字

 

「や」を遣った先例の句を挙げましたが、

この例で見るように、「木枯や」と頭に置いたら次の七五にあたる部分は、木枯とは関係ないものになっていますね。

これが、この形の俳句の形です。そしてこれが、俳句の表現法です。

  

このように、俳句には形があり、形を活かせば自ずから佳作が得られます。

 

今月は、つぎの中から冒頭に挙げた句を抽出しました。選に洩れた句を自身で検討してみてください。

 

今月の全句

 

降る雪のすぐ溶ける雪残る雪  

おひ様の温み宿りし柚子湯かな
初雪の白さの中を柩ゆく
湯豆腐や自由不自由わずかな差
あらためて失いしもの初鏡
初東風や人間臭き猿の芸     
連凧や空に綴りし祝賀文字
しきたりはときに懐かし三が日
雪折や呻く音立て木が裂ける
小酌に「デンキブラン」を春近し
枯蓮や雷電の墓力石       
川風に雪駄の音や百合鷗
山茶花の咲きつぐほとり柳橋
寒の水弁天堂を支へをり
菜箸の先で押さへて売るおでん
朝日射す雪折れ笹の青青と    
蹲踞の今朝の氷柱の太さかな
写生する臘梅の香に噎せびけり
雪掻きをねぎらう人の滑りけり
追い書きにこれを限りとある賀状
軒下の丈の揃わぬ干大根    
いたずらを大目に見やるお正月
初春の遊覧船行く隅田川
テレビ観て笑って泣いてお正月
初詣地元しばられ地蔵尊
テロ憎し遥か故郷の梅散りぬ   
凛といふ音のひびけり冬薔薇
ツタンカーメン見し昂りの目に臥龍梅
子が泣いて親が笑つて獅子頭
しやきしやきと水菜のサラダ春を噛む
しんにょうの少しかすれて筆始め 
手をつなぎ福神詣の列にあり
初春の風を追い越したすき武者
黒豆を追いかける子や祝箸
今さらの雅にときめく歌かるた
丹頂の何処を見遣る首高く(原句・凍鶴や何処を見遣る首高く)    
寒忍ぶ花鳥草木仏菩薩
燗冷まし煮凝御免腹の虫
勝敗は扨も笹持て初恵比寿
寒雀ふくらみ弾ずむ鬼瓦
平成の四半世紀の息白し     
常住の安けき朝や福寿草
年新た忘れ去るもの数え年
女として時に生きたや寒の紅
金箔を浮かして婿と年酒かな

夢語る瞳の円し成人式      
野遊びにシャベルと鋏と竹かごを
風邪薬飲むを嫌がる幼かな
母は娘に娘は母に編む毛糸帽
路地急ぐ人の声して雪明り
ジム帰り熱る頬刺す寒の入    
また一人増えて囲むや正月膳
人混みを抜けて近道初詣で
「新年」の看板下ろす神主さん
口濯ぎ正月晴れや深呼吸
初空の雲百態と詣でけり     

女正月昭和の歴史持寄れり
初護摩や家内安全鐘太鼓
蕎麦掻はふるさとの味父ありて
帯上げの母なるぬくみ日脚伸ぶ
雪明り地蔵尊堂千羽鶴     
耳鳴りと時計の音と冬籠
初句会選句するにも居る力
冴ゆる日の扇挿す帯締めにけり
初雪や力士のすきな白積もる
福笑あの顔欲しき老いの春   
松の内過ぐれば常の齢なり(原句・松の内過ぐれば常の八十路かな)
三日なり年玉勘定男の子
紅さしてあられかき餅寒の餅
ちゅんちゅんと日向ぼこかよ寒雀

魂のまだ抜けきらぬ捨案山子
割箸に絡む水飴風邪の児へ
日向ぼこ乳の匂へる嬰を抱く
着ぶくれし善男善女銭洗ふ
貸し借りはご破算にして大嚏

年明けて松は松なり竹は竹
雪女雪の匂ひの和菓子好き
老漢の詩吟はるかに雪の富士
好奇心まだまだあるぞちやんちやんこ
うとうとと無欲極楽日向ぼこ

霜柱踏む少年の日のやうに
墨磨れば墨の香の立つ淑気かな

冴ゆる夜やスクランブルの交差点
冴ゆる夜や海を風車の立ちつくす

念仏の声がどこかで路地冴ゆる   
最終のバス遠のきて風冴ゆる    
妹の消えゆきし夜の星冴ゆる    

柏手と鈴の音冴ゆる社かな     

動くもの月光ばかり街冴ゆる    
月冴ゆる百観音を窟に抱き     

冴ゆる夜の猛る火柱護摩勤行    
山冴えて野猿目を閉じ野天風呂   

冴ゆる夜のスープの灰汁を掬ひをり 

山山の奥の奥山寒冴ゆる      
鐘冴ゆる五臓六腑膝正す      
喪の家に向う夜の鼻冴ゆるなり   
星冴ゆる五感目覚す寿      
冴ゆる夜の路地につまづき諸手つく
月冴ゆる埠頭にいまも氷川丸   

箒目に来てゐるふくら雀かな
午の鐘毘沙門天は七福め
雪の夜妹電話呉にけり

 

※添削をしている句があります。別項で採り上げているもののみ、原句を示しました

寒晴や川筋を行く触太鼓        イカ
前相撲らしきがたむろ寒日和
初場所の贔屓の幟探しけり
初場所の方屋開の柝の入りぬ
飾られし行司装束松過ぎぬ

        

出しっ幣を見あぐる朝の寒さかな    チシ
小寒や土俵祭へ急ぎをり
土俵祭枡席に座し冬ぬくし
初場所の幟の数の贔屓かな
初場所の前の白鵬松凰山

        
松明けの両国駅に人待ちぬ       シケ
冬空に出しっ幣揚げる国技館
触れ太鼓土俵を三度冴ゆるなり
熱燗や知りし昭乗松花堂
煮凝や故郷に古りし石竈

        
二つ三つ咳の交じりし土俵祭      アノ
外套の琴欧州とすれ違う
初春や駅近ビルのちゃんこ店
冬ぬくし力士手形に手を重ね
蒼天に一際高く冬鷗

        
冴ゆる柝の入りて始まる土俵祭     アヒ
手袋を脱ぎて桟敷に神事待つ
初春や土俵鎮める槌の音
冷たさのつのる土俵や神事終ゆ
両国や男の帽子インパネス

        

国技館柝の入りたる淑気かな      ヤミ
初場所へ土俵清しく祀られぬ
四方に四神のおりて淑気立つ
土俵祭親方衆の足袋履いて
出しっ幣の風になびける寒の空

        
正月も十と二日の晴なりし       トンボ
初場所を迎へる幟松花堂
冬ぬくし力士手型の銅光
冬ぬくし白鵬関とふと並ぶ
冴ゆるなり土俵へ埋める鎮め物