◎2013・2・24 2月 定例句会 

◎2013・2・2  夢の島熱帯植物館と第五福竜丸記念館吟行


当日句会抄

 

芽吹き待つ新宿御苑静かなり     イア

ボール蹴る少年の脚春立ちぬ     イマ

貝塚に土竜の山や春近し     イア

恋の猫城址の闇にひそみをり     ヤミ

日の射せる窓辺の母とヒヤシンス     シケ

ユーミンを口ずさみいる二月かな     イマ

鳥帰る内にいふとなく胸さわぐ     チシ

うららかや青春キップの老夫婦     ワユ

あの雲と巡る街道菜の花忌     ナミ

ぬか漬の白き蕪の盛られけり     ハセ

白魚や佃育ちの芸子さん     スミ

 

 

今月の兼題は、「白魚」。その中から一句だけ。あとは、シロウオやあるいはシラスを思わせる句があり、白魚を把握できていないように思われました。

 

採った句

 

白魚や佃育ちの芸子さん

 

この句を読みむと「白魚」のあれこれが思い出されます。

 

黙阿弥の通称「三人吉三」、「大川端庚申塚の場」のあのセリフ。

 

節分の夜、大川端庚申塚で、ひょんなことから夜鷹を川に突き落とし小判百両を奪ったお嬢吉三。そこで朗々とまるで唄いあげるかのように…。

 

月も朧(おぼろ)に 白魚の
(かがり)も霞(かす)む 春の空
冷てえ風も ほろ酔いに
心持ちよく うかうかと
浮かれ烏(からす)の ただ一羽
ねぐらへ帰る 川端で
竿(さお)の雫(しずく)か 濡れ手で粟(あわ)
思いがけなく 手に入る(いる)百両
(舞台上手より呼び声)御厄払いましょう、厄落とし!
ほんに今夜は 節分か
西の海より 川の中
落ちた夜鷹は 厄落とし
豆だくさんに 一文の
銭と違って 金包み
こいつぁ春から 縁起がいいわえ

 江戸では、隅田川下流で篝火を焚いて、白魚漁が行われていましたことがこれで分かりますね。

白魚は、成魚でも体長10cmに満たない小さな魚、水からあがるとすぐに色が白くなってしまうところから「白魚」と呼ばれました。とても足が早く、昼に漁をして翌朝売ったのでは腐ってしまいます。そこで夜のうちに漁をして、早朝出荷した、というわけです。

 

獲ることができるのは佃島の漁師しか許されず、しかも、徳川家康が存命の間は、「御止魚(おとめうお)」といって、献上魚以外は漁も売買も禁じられ、庶民は口にできなかったということです。

 

家康亡き後、解禁になった白魚は高額ながらももてはやされ、夜、篝火に誘われて集まってくる白魚を、四手網《よつであみ》ですくって獲る白魚漁は、江戸の風物詩。

 

漁場に芸者を連れて小舟を出し、獲れたての白魚づくしを海の上でいただく、という贅沢な遊びもありました。

 

この一句、こんなことまで想像させてくれます。

 

ちなみに、白魚の献上は現在まで続いており、毎年、佃島漁業協同組合の代表者たちが、徳川宗家に白魚を届けているということです。

 

出詠の白魚全句を以下に。

 

白魚や佃育ちの芸子さん        

白魚の寄せ集まりて目の黒し      

白魚の命いろいろ枡一合        
朝とれの白魚ピザに斯く並ぶ      

白魚飯誘える旅のメール来る      

白魚をおまけと升に大盛りに     
白魚の重なり白き椀なりし       
白魚や指美しき姉の居る        
白魚や代表作の句を遺す        

江の島を巡り疲れて白魚丼       
江の島に売るや白魚皿に盛り      
掬はるる白魚に背鰭尾鰭かな      
白魚のふわふわふわと蕩けけり     
白魚の光る眼や踊り食ひ        
白魚を啜りハーンの話など        
日替りの限定メニュー白魚丼      
一の膳二の膳ときて白魚汁       
白魚の湯気の中から現るる

 

季語としての「白魚」を詠むことは、いままであれこれ思い出してきたと書いてきたこと、そのイメージ、文化的なことどもを踏まえて詠むことです。

ただ単に、即物的に詠むことも大事ですが、以上は、鉄則です。

 

季語には、このような過去の遺産が集約されていて、いちいち言わなくともそれが自ずから染み出して一句を豊かにしてくれるからです。

トンボの句は、それを期待して次のようにしました。

 

<白魚の湯気の中から現るる>

 

読み手にも、以上の心得が求められ、そのやり取りが俳句を楽しくしてくれるのです。

 

 

シロウオのこと

 

似たような名前で、シロウオと云われものがあります。素魚と書くのですが、よく云われるところの、「白魚の踊り食い」というのが、この魚のことで、素魚と書くべきところを間違えているわけで、又、間違いと感じていない人が多いようです。

 

福岡県の西部に室見川という川がありそこが、季節になると賑わうようです。

 

バブルのころ、福岡空港から飛行機に乗って、元気に泳ぎながらその店へ到来したというシロウオの踊り食いを体験したことがあります。何条(匹)か泳いでいるそれを網ですくって酢醤油に。踊り狂うそれを箸でつまんで口へ。という鬼か夜叉のような体験でした。

 

一般的には、このシロウオの踊り食いが映像的によく知られているようですからこの映像の影響が感じられる句が散見されます。 

当日作品

 

昨夜の雨上れり冬もあと二日        イカ
まるはちは木の羊歯二月はじまりぬ
蛸の木の気根に日脚伸びにけり
象竹も金明竹も春近し
菜の花や福竜丸へ道とれば

         

風光る玻璃のドームの植物園        アヒ
チューリップ日差し遍し夢の島
ガジュマルの気根に力春近し
如月や忘れられゆく福竜丸
観覧車指呼にバス停あたたかし

         

あたたかし雨上りたる夢の島        アノ
温室へ上着小脇に入りにけり
外は春中は熱帯植物館
春近し平和祈願の千羽鶴
木造の福竜丸や冬終わる

         

菜の花に並び歩きぬ夢の島         チシ
春隣熱帯ドームに着きにけり
羊歯のあり熱帯植物館の中
紅紐の木となむ温室ガイド言ふ
室に咲きマンゴパパイア匂ひけり

         

重ね着を脱がす温室水の音         オミ

菜の花や福竜丸の伝え言
ユーカリの葉擦れの音の二月かな
冬晴れや夕日を受けし観覧車
バスの来るまでと決めこむ日向ぼこ

         

猫の赤い尾(レッドキャットテイル)てふ花の二月かな ヤミ
二月かな陸に置かれし被爆船
陽だまりと陽かげりを来て春近し
まぶしかり大王椰子と四温光
この奥にみつばちいます日脚伸ぶ

         
低く咲き高きに咲きて室の花        シケ
物腰のやさしきガイド春隣
室の花この世に名あり極楽鳥花
死の灰を小瓶に残し冬終わる
二月かな潮風抜ける貯木場

 

トンボは、風邪で欠席