◎2013・5月 定例句会  5月26日

作品抄

 

スカーフの端飛びたがる青嵐     スミ

漢字とは美しきもの花菖蒲     イマ

式部より清少納言額の花     チシ

日の匂ひ土の匂ひの草むしる     チシ

春の蚊を打ち損うて老いにけり     チシ

定年の夫が懸けたる夏暖簾     イマ

挙手の礼返す門衛夕薄暑     イカ

夏の雲島へ船発つアナウンス     イカ

煮魚の少し辛目や夏に入る     ヤミ

花ミモザ大道芸の人だかり     チト

薬草の薫る風吹く息吹山     イケ

若楓光の君のやうに在り     ヤミ 

媼句来て蕗の荷を解く湯治宿     イカ

山蕗の茹であがりたる香りなりけり     スミ

新茶汲む遺影の母に声かけて     イレ    

 

 

 短 評

式部よりの句…  式部で身近にだれでも名を知っているのは、紫式部と和泉式部。どちらかな?と思わせるところが案外この句の狙いなのかもしれませんね。「分からない」、表現不十分という人が出てくるかもしれません。

 

日の匂いの句原句は、下五が「草むしり」。「我」が俳句の前提ですから「草むしる」ですね。自分の肉体に這入ったものを実感として歌う物。それが俳句。これを「肉体俳句」と呼んで推奨。

 

定年の夫の句… 今日をもって定年という日のこととして鑑賞すると好い味がします。いつもはそんなことをする人ではないのに、これから懸けようとしていた夏の暖簾をふと目にとめ、なんと懸けて出掛けてゆく夫。定年後の何もすることもない夫がそんなことをしたのであればいただけない。そのどちらか?少し分かりにくいので更に工夫がいると思います。もし後者のことであれば、ボツにしましょう。

 

煮魚の少し…の句 味の変化を感じ取ったひとの句。料理の作り手の立場の句であれば、いささか説明がすぎる句になる。

 

薬草のの句… 原句は、「薬草の千年香る息吹山」で無季。薬草の山として名のあるところなので、「千年」は不要なので「薫る風」と添削。

 

若楓光の君のやうに在りの句… 若楓で切れて、光りのやうにと続きますから、「光の君」のような人が目の前に居るという内容になります。それが俳句の解釈の仕方です。切れ字は、「や」「かな」ばかりでなく、このように名詞は、切字の役目をします。若葉光が光の君と云うつもりだというかもしれませんがそれは成立しませんよ。

 

媼来ての句… 下五に「湯治宿」を据えることによって何故来たのか?そのなぞ解きをしています。手品でもなぞ解きをされてしまうと興ざめになります。俳句でもなぞ解きはやめましょう。説明はやめましょう。

<媼来て屈みて蕗の荷を解ける>だったら情景として媼の姿が浮き出てくると思います。それが分かるかな? 

 

 

◎2013・5月 西新井大師吟行         5月4日

花は葉に廃止とありしバス路線       イカ
鳥の恋駅の名大師前といふ
藤の花降る日連衆そろひけり
風五月寺の太鼓の鳴りだしぬ
石像の大師の裾を雀の子

 

風薫る豊山太鼓の轟けり         チシ          
緑蔭や喜捨せし僧に幸貰ふ
鯉のぼり鯉口シャツを売る男
参道をゆつくりと来る春日傘
遅咲きの牡丹にカメラ向けにけり
       

宝前の牡丹崩るる大太鼓         アヒ
栄螺堂の中の暗闇暮の春
軒菖蒲用にと菖蒲売られをり
客を待つ露店帽子屋桜の実
煎餅の音高らかに夏初め

        

水音の権現堂の茂りかな         シケ
ひとり湯となどと思いつ菖蒲買う
夏近し豊山太鼓に迎えられ
葉隠れに瀧音響く奥の院
泥鰌鍋食券売れる六代目

        

鯉幟御大師様の風に乗り         アノ
新緑の風に吹かるる古着店
太鼓打つ青年層に夏近し
風薫る復興支援の大太鼓
桜の実烏賊ののし焼き列なせる

       

椎若葉出世稲荷の赤い旗         ハセ
線香をあげて薄暑の西新井
風薫る願掛けの塩山とあり
大太鼓般若心経ぼたん咲く
藤棚の満開終る大師堂

        

かたくりの山菜として売られおり     オミ
緑蔭に疣とり願う塩地蔵
芍薬の花びらゆれる大太鼓
鯉のぼり尾の垂れている日和なり
草だんご柏餅売る人の声

       

始め居る吟行体験風薫る         イア
風薫る豊山太鼓の響きあり
たらの芽をまず買う露店大師様
見つけたり彼岸桜の実の成るを
芍薬や太鼓に乗りて読経する

       

青葉風連れ立つ人も一人にも       ヤミ
芍薬の仏蘭西名でありにけり
椎若葉賽銭箱に紋二つ
ひと息を吹いて昼餉の泥鰌鍋
水漬きたる山葵の花を家苞に


鯉のぼり般若心経大太鼓        トンボ
鯉幟般若心経観自在
鯉のぼり松鶴家千とせ歌ひをり
芍薬を囲む三十ほど眼
芍薬の莟みるみる堅くなる