当日作品抄

 

クリーン作戦告げる回覧薄暑かな   アノ

夏兆す雨の匂ひの雑木山       ミノ

灯台へ白き日傘の開かるる      イカ

さよならのいつもの角の白牡丹    コフ

門柱を薔薇で飾れる老夫婦      イフ

露天湯へ卯の花垣を辿りつつ     コフ

予定なき今日の始まる豆御飯     イフ

サングラス昨日の自分にさようなら  シケ

御蚕に様までつけて夏来たる     オミ

髪刈つて貰へば三社祭かな      イカ

一面の雛罌粟の丘雲一つ       イア

目印は雛罌粟の家訪ねたり      ナミ

雛罌粟と書きて頬杖つきにけり    コフ

 

 

添 削

 

・原 句 夏兆す雨の匂へる雑木山

・添削句 夏兆す雨の匂ひの雑木山

 

・原 句 さよならはいつものあの角白牡丹

・添削句 さよならのいつもの角の白牡丹

 

・原 句 古き家薔薇で飾るや老夫婦

・添削句 門柱を薔薇で飾れる老夫婦

 

・原 句 露天風呂卯の花垣を辿りつつ

・添削句 露天湯へ卯の花垣を辿りつつ

 

・原 句 予定なき今日の始まり豆御飯

・添削句 予定なき今日の始まる豆御飯

 

・原 句 御蚕に様までつけて夏来たる

・添削句 御蚕に様までつける夏来たる

 

・原 句 目印は雛罌粟の庭訪ねたり

・添削句 目印の雛罌粟の庭訪ねたり

 

・原 句 雛罌粟と書いて頬杖小半時

・添削句 雛罌粟と書きて頬杖つきにけり

 

入選句以外について

 

・原 句 辿り来て弓手(ゆんで)右手(めて)ある躑躅かな

・添削句 辿り来て弓手馬手(めて)なる躑躅かな

 

・原 句 列なして谷千根巡り夏帽子

・添削句 列なして谷千根巡る夏帽子

 

・原 句 名も知らぬ山登る夢明易き

・添削句 名を知らぬ山登る夢明易き

 

・原 句 新調の物干し竿に初夏きたる

・添削句 新調の物干し竿に夏来たる

 

・原 句 見はるかす五重塔や植田澄み

・添削句 見はるかす五重塔や植田澄む

 

・原 句 桐咲けり山並み低き奥久慈路

・添削句 桐咲ける山並み低き奥久慈路

・添削句 桐の花山並み低き奥久慈路

 

※この中には、一見するとどこを添削してあるのか分からないように見えますが、一字が変わっています。

 

この一字を持って俳句か俳句でないかが分かれる大事な一字です。

文章と俳句との違いです。

 

俳句では、大事な切れ字として「や」「かな」「けり」がありますが、そのほか「切れ」の働きをするすべてのもの。これも切れ字です。

 

原 句 御蚕に様までつけて夏来たる

添削句 御蚕に様までつける夏来たる

 

この句で言えば、 御蚕に様までつけ夏来たる

と、何々したから夏が来た、という意になりますが、何か言い漏らしているような中途半端な文章です。このような表現は文章の筆法です。しかし、素直な、いい文章にはならないでしょう。

 

」をもって「夏来たる」を意味的につなげようとしているからです。 

 

御蚕に様までつけ夏来たる

と、すると、御蚕に様までつけ人達、と意味が一端切れて、その人たちに「夏が来た」

と、言う意になります。「」と「」の一字の違いです。

 

「る」にすると、ここで「夏来たる」が意味がつながらないように思えます。

ここで意味を分断しているから当然です。これが「切れ字」で「切れ字」の効果。読者の想像力を刺激して、夏の到来を待ちかねていた養蚕農家の意気ごみなどあれこれが目に浮かんできます。

表現しないで表現する俳句特有の表現法です。

 

俳句とは、こう解し、こう詠むむものです。この基本がわからないと俳句の本当の楽しさは分からないでしょう。

 

歳時記の例句をこういう視点から読んでみましょう。

 

その際に、気をつけるポイントは下記です

 

一例 ◇◇◇◇◇○○○○○○○○○○○○ 

 ◇は、季語または名詞で五文字

 ●は、切れ字の意。  

 ○は、叙述十二文字(季語の説明ではない)

 これで十七文字

 

 

または、 ○○○○○○○○○○○○●◇◇◇◇◇

 という形

 

があることに気をつけてみましょう。

 

切れ字と季語と韻律(リズム)の三つが俳句の基本です。

今回は、切れ字について書きました。

 

 

 

 

◎東京駅丸の内界隈吟行             2014・5月3日

 当日作品抄

 

ビストロの開くを新樹の辺に待てる     イカ

街五月オープンバスの二階より

葉桜の千鳥ケ淵を風わたる

風薫るバス議事堂を返しけり

マロニエの花のこぼるるカフェテラス

 

地下鉄を出でて行きあう若葉風       オミ

其の上の三菱村や花は葉に

赤いバス赤い制服栃の花

丸の内皇居銀座の街薄暑

手の届きそうな若葉の二階バス

 

ビル街の椅子とテーブル橡の花       アヒ

大理石の床に牡丹の二、三片

白壁の城門越しの桐の花

旗立てて若葉の中の大使館

緑さす大内銀座丸の内

 

新緑や三菱歴史資料館           ミノ

寄せ植の中に芍薬咲きにけり

青空や官庁街の鯉のぼり

久々に日の丸見見ゆ若葉風

五月なり日の丸揚げるビル谷間

 

薫風の遊覧バスの二階席          チシ

ケーキ屋に長き行列風五月

葉桜のトンネル抜けて北の丸

薫る風吊り花籠を揺らしけり

風薫るビルの谷間の花の店

    

日の丸の青葉若葉の風の中         イフ

叡智込め建ちしビル街夏近し

木洩れ日に老若集う夏近し

文庫本木陰に開き春惜しむ

マロニエの花を見あげてレモンティー

 

足早に過ぎるウインドー夏近し       ヤミ

白薔薇や中庭のある煉瓦館

二重橋見える憲法記念の日

橡の花立番を置く警視庁

鯉のぼりビルの間に動きをり

 

含みゐる肉桂の飴や五月くる       トンボ

つつじ燃ゆビジネス街の休みの日

マロニエの花や三菱一号館

青嵐桜田門へ三宅坂

つばくらや右手には最高裁判所