当日入選句
片陰り日本橋にて落合ぬ イケ
うたた寝の母のかたえの水中花 シケ
はまなすの日本海なり良寛像 イフ
教室の魚あずかる夏休み オミ
ありがとうとメール一行梅雨明ける イフ
風鈴や一日人と話しせず ワユ
水打って歩道の人の和みけり アノ
跡取りの経の声好し施餓鬼寺 アノ
母の忌のひとりの逮夜青葉木菟 イカ
向日葵の迷路に母を探す声 アノ
向日葵や午後休診の札下がる イカ
向日葵や小さき机の分教場 イア
向日葵の明るさ時に虚無の影 イフ
●添削し、入選句とした句
原 句 うたた寝の母のかたえの日日草
添削句 うたた寝の母のかたえの水中花
原 句 向日葵や迷路に母を探す声
添削句 向日葵の迷路に母を探す声
原 句 「ありがとう」一行メール梅雨明ける
添削句 ありがとうとメール一行梅雨明ける
原 句 向日葵や明るさ時に虚無の影
添削句 向日葵の明るさ時に虚無の影
原 句 夏日陰日本橋にて落ち合いぬ
添削句 片陰り日本橋にて落ち合いぬ
原 句 はまなすや良寛像と日本海
添削句 はまなすの日本海なり良寛像
●選外句を添削
原 句 亡き夫の九年たちたる梅酒かな
添削句 亡き夫とともに九年の梅酒かな
原 句 向日葵や吾れに戦中戦後あり
添削句 向日葵や我に戦後の六〇年
原 句 大勝負一瞬止まる夏扇
添削句 夏扇一瞬止まる大勝負
原 句 花火果ていとこ同志の別れ道
添削句 花火果ていとこ同士の別れ道
原 句 梅雨荒れや波耐え忍ぶマリア像
添削句 梅雨荒れの波耐え忍ぶマリア像
原 句 ほうたるの少しだけ寄る道の駅
添削句 ほうたるや少しだけ寄る道の駅
原 句 生き様を誉めて回忌や夏日陰
添削句 生き様を誉めて回忌や水羊羹
※以上には、季語を置き替え主題を明確にしたもの。「や」を「の」に変え、またその逆のものを正して主題を明確にしたもの。不適切と思われる用字をかえたもの、語順を入れかえ臨場感をもりこんだもの。特に、初めの二句は、制作意図を類推しての添削です。何れの添削も、原句をできるだけそのまま生かしたままですから別の解もあることでしょう。
●理解に苦しむ句を取り上げます
その1
・夏帽子人の名前をまた忘れ
・街に出て若さを貰ふ夏帽子-[季] 夏。
この一句目…この夏帽子、また忘れたという人と、どう関わっているのでしょうか?情景が読み取れません。
この二句目…夏帽子が若さをもらったのですか?ところで若さは貰うものでしょうか?
その2
・紙魚一つ青春の門駆け抜ける
青春の門は、書名?、そうすると「」をつけて「青春の門」とすべきという説がありました。たしかに、五木寛之が1969年から『週刊現代』に断続的に連載している大河小説がそれです。のちに単行本にもなり沢山売れた本です。
紙魚は、夏の季語で「和紙・衣料・穀類などを食害する。しみむし。 」です。同書は洋紙を使った本ですから紙魚はつきません。在り得ない句です。
その3
・岩清水母の手盆のニッキ水
「手盆」は、「てぼん」と読み、「手を盆代りにすること」。使用例として、箸からこぼれそうになる時、もう一方の手を添え受けるることなど手盆と言うようですが、和食の時は、懐紙をつかうのが本来なので手盆は、「はしたない」といわれています。
また、お茶などを供する時に、淹れたお茶をお盆に載せて相手に供しますがお盆を使わずそのまま供することなども手盆と言うようです。これもはしたない行いです。
この句、先に記した「手盆」の意から「母の手盆のニッキ水」とありますから母親がこぼさぬようにニッキ水を供しているところでしょうか。そうすると何故、「岩清水」が出てくるの。
「岩清水」とありますから、もしかして岩清水を両手で掬っていることを「手盆」と言ったのでしょうか。そうすると何故、「ニッキ水」。両手でニッキ水は掬うなんて、どうやってするのでしょう。
はっきりとした自信にあふれた句のようですが、句意が読みとれません。
作品抄
猿橋の駅を縦横夏つばめ イカ
青梅雨の猿橋縁起拾ひ読む
猿橋の丹塗りの祠梅雨深き
猿橋の淵覗き込む梅雨の隙
橋の茶屋むかし旅籠屋額の花
青雫猿橋ゆきつもどりつつ チシ
ハイキングコースに出会ふ濃紫陽花
梅雨晴間電車待つ間のお八つかな
家苞に買ふ大蒜を選りにけり
雨上る特急甲斐路通過せり
立ちのぼる夏霧四方の甲斐の山 シケ
仰ぎいる甲斐の猿橋青しぐれ
雨の道毛虫なめくじ道祖神
七月の心満ち来る瀬音かな
一行に遅れて涼し旧街道
川音の甲斐の猿橋梅雨の中 オミ
滴りの数の威勢や桂川
身心の青葉の色に浸り居る
渓谷の深さ覗くや青楓
空合いの現れ出でし夏の山
猿橋の駅舎の軒や巣立ち鳥 ハセ
猿橋の話しを佛に語りけり
猿橋の遊歩道沿い額の花
八ツ沢の水路猿橋夏もみじ
猿橋の甲州街道夏つばめ
万緑の甲斐の猿橋小さくて ミノ
夏霧の山肌沿いに登りゆく
満開の紫陽花の群色の濃し
かたつむりとつてくれろとすねてをり
滴りぬ崖の地層を剝き出しに
萬緑や旧トンネルの出入口 アヒ
冷酒も地のもの馬肉鮎うるか
青梅雨や宿場旅籠の出桁軒
一枚の窪地に青田五、六枚
夏霧や甲斐の山並高からず
沢音を殻にこもりて蝸牛 アノ
雨上がる猿橋駅の夏燕
街道の酒屋燕の巣の四個
渓谷の空に一閃岩燕
山深き甲州街道道茂る
雨の中甲斐の猿橋四葩咲く イフ
緑さす雨の猿橋沢の音
梅雨最中酒の猿橋忠治そば
富士見えぬ岩殿山も夏の霧
雨止んで親を急かせる燕の子
かたつぶり甲斐猿橋に雨止みぬ ヤミ
猿橋の雫ぽたぽた青葉かな
夏蝶の渡る猿橋見上げをり
猿橋をまた返しけり鴨足草
鈍行を待つ間まんぢゅう夏燕
万緑や雲立ち騒ぐ山の際 トンボ
猿橋の負へる歳月蝸牛
滴りや鏑懸魚もつ山王社
猿橋も岩も滴りをれるなり
茂る中濡れるレンガの廃隧道