◎2月定例句会      2015・2・22 

入選作品

寝根足りし目覚に春の立ちにけり     イカ

夫の背の一歩後行く春の雲        ナミ

多喜二忌の海鳴つてゐるばかりかな    イカ

信楽の狸が欲しと夫や春         ヤミ

立春の風呂場の簀の子替えにけり     ハセ

春隣ネイルサロンへ誘われし       イマ

ジョギングの後の牛乳寒明ける      ハセ

壷焼や椅子に敷かれし小座布団      ヤミ

頼朝の忌日知らねど実朝忌        アノ

海荒れを告ぐる予報士実朝忌       チシ

実朝忌みそひと文字に縁なく       シケ

青鬼を孫のつとめる追儺かな       アノ

 

 

添削句(入選句から)

原 句 夫の背に一歩後行く春の雲

原 句 春隣ネイルサロンに誘われし

原 句 実朝忌みそひと文字に縁あらず

 

添削句

原 句 春燈下雨きらめける向う岸

添削句 春燈の雨きらめける向う岸

 ※原句では、自分が春燈の下に居ることになる。向う岸に見かけた景としてみた。

 

原 句 降り出してすぐ止みにけり春の雪

添削句 降り出してすぐに止みたる春の雪

 ※原句には、表現に無理あり。正した。

 

原 句 春待つや時どき測る血圧計

添削句 春待つに時に測れる血圧計

 ※俳句では、時の経過を詠う事には向いていない。

時には、血圧計を使うこともあるとして添削。なお、題材がよくないので好句にはならないでしょう。

 

原 句 手放しで自転車乗る子桃の花

添削句 手を放し自転車乗る子桃の花

 ※不自然な表現を直した。桃の花がこの句に相応しいかどうかは検討を要する。

 

原 句 春光やモーターボートの二人乗り

添削句 春光やモーターボートの二人組

 ※二人乗りでは、単なる報告。

 

原 句 起抜けに仰ぎし富士や冴返る

添削句 起抜けの仰げる富士の冴返る

 ※冴返るは、寒の戻りのことで、外の風光に向けて意識されるものですから、原句には違和感があります。語感をしっかり把握しましょう。

 

◑仮名づかいについて

俳句作品では、 

 

口語表現で遣われている新仮名づかい

 例えば、買う

文語表現に使われている歴史的仮名づかい

 たとえば、買ふ

 

の二通りがあり、その使用は、各人に任せて居ります。自分にふさわしい対応をすればよく、こうで無ければ為らぬということは、ありません。

 

このため、このすべてのサイトでは、この二つをそれぞれ遣っている人が居りますから、混在して出てきております。

そのどちらを採用するのかその時々の気分ではなく、必ず統一して遣ってください。

 

◑季語は、季題のことです。

季題は、これからやってくる季節への挨拶です。

旬のものをことの他大事にし、待ち望み、それを迎える心は、初物を大事にするあれこれからも理解できます。むかし、初鰹に何十両もの大金を支払ってでも手に入れる物でした。

冬は、これからしばらく続く自然の猛威の先に命の蘇りを象徴する春の到来を予祝し、厳しい生活の安泰願うこころをを込めることになるでしょう。

それは、神を迎えるがごとき感覚です。逸早く、季節と同体になることでもあったのでしょう。

床の間の軸や着物の素材や柄などもその心で用意しますが、それと同じです。

 

どうして季語となっているのか。一つづつそれぞれの理由を考えてみることが大事。単なる季節の言葉ではないということです。

 

こんな句がありました。

 

 青饅に春を味わう老夫婦

 ほろ苦さそれも旨味よ蕗の薹

 

・青饅に春を味わう

・ほろ苦さそれも旨

 

と思うのは、先人から現代まで受け継がれた感覚ですから季語の青饅や蕗の薹に含まれています。

 

青饅は、あおぬた、蕗の薹は、ふきのとうと読みます。

云わなくとも分かっていることですから、いかにも安っぽい表現に見えることでしょう。

 

本当は、季語がぴしりと決まると、格調高い句になるはずです。

季語と「吾れ」が同体となるのですから当然のことでしょう。

 

歳時記からいくつか

  ・青饅のひやりとあまき宵の雨   小林一三

  ・青饅や旅の一日の雨もよく    牧野治子

  ・青饅やいつときを濃く父母とゐる 里見美季

  ・青饅や男盛りの喉ぼとけ     白井久雄

 

※蕗の薹の苦味を詠んでもこういう句あり

  

  ・蕗味噌の苦味尊しいのちなが   野池玉代

  

※蕗の薹(ふきのとう)を詠んだ句の例を挙げて

 おきます。

 

  ・蕗の薹食べる空気を汚さずに   細見綾子

  ・こだはりの銘酒一本蕗の薹    米沢久子

  ・蕗味噌や声のまぶしき山の鳥   山崎幹生

 

◑こういう季語の使い方に疑問あり

 

・踏青といへど帰りは近道を

・日が笑ひ風が笑ひて山笑ふ

 

これについては、語るまでもないでしょう。 

 

◎和紙の里小川町、紙漉体験吟行2015・2・7

当日作品抄

          

春浅し終着駅の和紙の里         アノ

腕まくりして紙漉を体験す

楮蒸す釜に蒸気のごぼごぼと

無造作にソーダ灰入れ楮蒸す

紙漉場楮三尺括られて


          

早春やフリー切符をポケットに      アヒ

春寒し鄙びた駅へ降り立てる

木と紙と水の工房冴返る

紙を漉く水ゆすりてはあやしては

茶漬屋の雪見灯篭春浅し


          

早春のグルメを含む乗車券        チヒ

工房へ湯気立ち上る楮蒸

春の日の紙漉遊びきりもなや

紙漉の体験コーナー日脚伸ぶ

春浅し和紙工房の切絵展


          

浅き春伝統守る和紙の里         ミノ

早春の松へまぶしき光射す

腕まくり楮の水の紙を漉く

春ひと日饅頭買へる道の駅

枯芝の日だまりへ皆集まりぬ


          

大釜のふちまで一杯楮蒸す         イア

無造作に楮の大束日脚伸ぶ

腕まくり深くすき舟紙を漉く

笊開けて忠七めしと熱燗と

日脚伸ぶ饅頭食うて一休み


          

駅頭に初春の風や小川町          ヤミ

春淡く名代茶漬も淡かりし

紙漉の町へバス待つ春の昼

細川紙てふ文化遺産や冴返る

楮樹皮束に積まるる二月かな


          

料峭や埼玉比企郡小川町         トンボ

冴返る細川和紙の伝承館

紙漉の体験となむ春の来る

四温晴紙漉工房日の射さず

漉き終へし紙の濡れゐる春の闇