◎2015・3月定例句会   2015・2・22

入選句

梅まつり偕楽園の臨時駅         ハセ

春雷や湯島妻恋坂を来て         シケ

逆打ちの峠を登る春遍路         コフ

独りの夜八朔柑に刃を入るる       イカ

吊橋の掛け替えられて山笑ふ       アヒ

春嵐安宅の関の弁慶像          イア

水煙に春の三日月かかりけり       イカ

ほこほこと息吹き返す春の土       コフ

鴨帰る銀座にどっと異邦人        アノ

鴨引きて沼の夕焼けはやまれり      シケ


●俳句と落語には、大きな共通点があります。

それは

読みて、また、聞き手の

想像力によって成り立っていることです。

これなくして、成り立ちません。


先ごろ亡くなった桂米朝さんは、

落語は、品がよく、愛嬌があり、上等なのがよろしい。と言っているようです。芸風もまさにこれであったと思います。

そうであれば、俳句もそれが佳いということは、同じと言ってよいでしょう。


 写経紙の錆びる金泥彼岸寺


という句がありました。


博物館で見るように○○納経と云われるものもは、界線が銀泥で引かれたものは、黒くなっていて全体が薄黒い感じ。これを錆びるというのでしょうか。辛夷の花も咲くとすぐ、色が変りはじめます。これを錆びるというように句に詠む人がおりますが、もうそんなありふれた表現をやめてもらいと思うのですが、この句のそれもその類でしょう。

金がそのようになるとは、思えません。仏像を装飾する切金でも銀はすぐに空気に触れ変色して黒くなりますが、金はしっかり金色を保っています。この句は、作者が、ものを見ていないと断言してもいいでしょう。

さらに、「写経紙」といいますと、寺院で浄財を得るために行われる写経会で渡される用紙のように思われます。しかし、金泥と云う語があり、これは、納経された「写経」だろうと推測しましたが、不用意な語を持ってきたものです。この辺の語の斡旋は慎重に行うことです。

作者の発言により、「父が納めた写経が時を経て薄汚れて見えた」事を詠んだものだということと分かりました。


 銀泥の錆びし写経や彼岸寺


という代案が示されましたが、錆びていることよりも父が納めたということで詠むようすべきだと思います。なぜなら、父によってお寺に納められていた写経が時代を経て自分が見る機会を得て、時代がかかっているそれに父とその後の歳月が心に湧いてきたものとおもわれます。それこそが句に詠むべきもの。

代案


 亡き父の納めし写経彼岸寺


読み手は、ここから何を心に浮かべてくれるでしょうか。少なくとも品のよい句にはなりました。愛嬌があるとか、上等の出来には遠いかもしれませんが、心ある相手に読みを任せても心意はつたわることでしょう。


もっともらしい言葉があっても作者の心がどこにあるのか読めない句には、添削の手も入れられません。

先の句にあれこれ検討を加えられたのは、作者の言葉があったからです。きわめて基本的なことを書きましたのでどなたにも適用できる内容です。


桂米朝のことば。頭の隅に入れておきましょう。発明の手掛かりになることでしょう。






◎国分寺崖線、お鷹の道・はけの道。  殿が谷戸庭園吟行  2015・3・7

当日作品抄

春の雨烟る武蔵野国分寺         アノ

文化財残す町中梅真白

落椿湧水の堰越え行けり

かたかごの花や財閥屋敷跡

かわになの育つ小流れ草青む


          

川に沿ふお鷹の道や春の泥        アヒ

池渡る飛び石三個水温む

春泥の筵の匂ふ谷戸の園

湧水の池を眼下に冴返る

武蔵野の昼餉に出合ふ生しらす


          

春の雨募金掛声国分寺          オミ

四十雀一団の居て芽吹く枝

湧水の温さたしかめ春寒し

馬車回し寒緋桜の蕾かな

好まれて育つ木斛春寒し


          

カワニナも川の流れも春寒し       ミノ

そこここの梅の古木の満開に

かたくりの朽葉の中に咲きにけり

雨しづく溜めて木の芽のふくらめり

春の雨竹の小径を濡れながら


          

水温む「お鷹の道」を歩みけり      イフ

片栗に咲けよとばかり鹿おどし

ハケの道振り向く女人春の夢

何動く歪む水面や春の池

寒戻る焼酎お湯割り所望せり


          

武蔵野の国分寺駅春時雨         ヤミ

湧水の道すがらなる梅一樹

崖水の石づみなりし藪椿

ものの芽のハケの斜面へ旗上げす

啓蟄やもぐら掘る子等楽しげな


          

崖下の水湧きつづく余寒かな       トンボ

椿落つ見えぬ迅さの水流へ

水流を濡らしてをれる春の雨

真姿を映す水なり春寒し

料峭や崖から水の生まれゐる