2016・5月  定例句会  5・22

当日作品・入選句

 

夏兆す矢立はじめの芭蕉像       ヒタ

白牡丹風をたのまず散りにけり     シミ

柏餅面倒なことあとまわし       シミ

花林檎頂白き岩木山          アノ

卯浪立つ祖父は船頭小三郎       イカ

かんしゃくの泣き声交じる子供の日   ミノ

道端の素焼の鉢の百合の花       ハセ

プラハから絵はがき届く雲の峰     チシ

築地塀崩れしままや鉄線花       コフ

雨もよひ鉄線は白さきがけて      イカ

旧びたる医院の庭や鉄線花       イケ

 

 

◆上記の内、添削してあるもの

 

・原 句 初夏千住矢立はじめの芭蕉像

・添削句 夏兆す矢立はじめの芭蕉像

  

・原 句 かんしゃくの泣き声響く子供の日 

・添削句 かんしゃくの泣き声交じる子供の日

 

・原 句 道の端素焼きの鉢に百合の花

・添削句 道端の素焼の鉢の百合の花

 

・原 句 プラハから絵はがき届き雲の峰

・添削句 プラハから絵はがき届く雲の峰

 

・原 句 旧びたる医院の庭の鉄線花

・添削句 旧びたる医院の庭や鉄線花

 

①矢立はじめの芭蕉像とあるので場所が特定されています。一句の中に入れることで場所の句になり説明になってっています。その場所の初夏にポイントがあるわけですからそれが前面に出るようにしたいところです。

 

②子供の日の臨場感をも表現しましよう。

 

③説明から俳句に変換。季語の百合の花を印象深く。

 

④「届き」と「届く」の使い分けが分からないという声がありましたが…

 

日常会話で「プラハから絵はがき届き」なら「うれしかった」などとという言葉でとつながります。

 

 届きは、「とどき、」ですから次に続く言葉に繋がり、文章のようになりますから、その故に多くは、事柄や物事の説明になります。

 

 ・プラハから絵はがき届き雲の峰

 

なんて日本語はありませんから明らかにおかしな表現と分かるはずです。

 

俳句では、プラハから絵はがき届く。雲の峰。となります。

句読点の「。」は、そこで話題は、終わっています。「や」などと同じ、これが俳句の切れ、というもので「雲の峰」を取り合わせることで成り立つ、二句一章という俳句の表現の形です。

 

「プラハから絵はがき届く」という、これという特別の意味がない措辞が、「雲の峰」と取り合わせられると、具体的なイメージとして共感されます。

従って、どういう季語と取り合わせるとよいのか、そこが作者の力量です。また、読み手の力量でもあります。

 

⑤「医院の庭の鉄線花」では、「の」で「鉄線花」に繋がっていますから、ごくごく分かりやすい説明として完成しております。俳句ではなく散文。

 

「医院の庭や鉄線花」を「の」ではなく、「や」とします。「や」は、切れを担う字で前の例に倣えば、「。」と同じ働きをしますから、「…医院の庭」。で切れて、「鉄線花」。とすると、これも二句一章の句になります。

 

医院の庭と言われると古びた医院の庭が目に浮かぶでしょう。それに「鉄線花」を取り合わせると、鉄庭全体の様子が目に浮かび、鉄線花がひときわ目立って見えてきます。

 

試しに、鉄線花の変りに他の季語を置き換えて見ると、庭の様子がまた、変わった様子に見えてくることでしょう。その中から一番相応しい季語を選べばよいのです。

 

別の言い方をすれば、あまりはっきりとしたイメージが浮かんでこないものに生命を与えるもが「季語」。

この二句、適切な季語によって具体的なイメージの沸く句となることでしょう。

 

季語を季語らしく使うということは、このようなことです。

 

その俳句表現がこの二句一章の技法です。

 

しっかり覚えましょう。変な日本語になっていなければ良いのですから見極め方は簡単でしょう。

 

 

●力まないこと

 

・夏座敷母誕辰の曾孫まで

 

とは、また、大変、力強い感じの句になっていますが、この句は、

 

・夏座敷母を祝うて四世代

 

とすれば、良いでしょう。

 

季語の「夏座敷」は、夏の設え(しつらえ)を終えた料亭などの一室でしょう。このことがこの句の味わうべきところですが、

  

    母誕辰の曾孫まで 

 

などと、「誕辰」は、誕生日も事ですが、そんな難しい漢語を使わなくとも、長寿を祝う会であることは、大方は見当がつくことでしょう。

 

「誕生日」の句は、どうしても佳句にはならず甘い句となりますから「誕辰」などと言葉を持ち出すこともありそうですが、誕辰などは、ごく限られた人物には、よし、ということもあるでしょうが、母親に使うことがふさわしいか、それをよく吟味してほしいと思います。

 

気持のよい、夏座敷でのひと時、それが母親を祝う、その雰囲気がでれば成功です。そういう句こそ好感をもって読むことができるのだと思います。

 

  

2016・5月 吟行会      千駄ヶ谷鳩森八幡神社   5月7日

当日作品・抄録

 

          
連衆の三々五々や花は葉に        イカ
箒目や花橘のこぼれつぐ
青葉風絵馬の打ち合ふ音すなり
富士塚の紫つつじ白つつじ
黄菖蒲や富士塚を風下ろし来る


          
青葉風鳥居大小将棋堂          ハセ
葉桜の八重紅しだれ風の吹く
竹林たけのこ一本首を出す
神楽殿かたまり咲けるぼたんかな
今年竹皮つけ空へ伸びゆけり


          
産皮を風に散らして今年竹        オミ
若者に紛れてランチ夏近し
一局の静寂かとも花は葉に
街薄暑オリンピックは四年先
芍薬を前に咲かせる神楽殿

 

         
若葉風奥の宮まで続きをり        チシ
紫陽花の蕾びつしり神の庭
参道へ梅の実一つこぼれ落つ
風薫るテラス満席レストラン
薫風や外国人のウエートレス


          
富士塚の険しき道を夏の蝶        チシ
夏めくやシャツに残せしうす湿り
木下闇露店の椅子の位置交える
雲去りてマロニエの花光りけり
地下道を抜けて目に染む若葉かな


         
新緑や鳩森神社将棋堂          ミノ
神官の絵馬の点検風薫る
木々の葉を抜けて薫風渡る音
大都会喧噪よそに風薫る
赤信号待つ人々や夏兆す  


          
狛犬の迎える社緑さす          イア
富士塚の高き石段薄暑かな
沿線の釣堀に人夏兆す
緑陰や稲荷に続く赤鳥居
薫風や名人の名ある将棋堂 


        
富士塚の尖る頂夏兆す          アヒ
富士塚の麓にそよぐ夏の草
散り敷ける蜜柑の花のひとところ
都心にてみやこ忘れといへる花
初夏やテラスに白き椅子机

 


青梅や棋力向上願う絵馬         アノ
天道虫飛び来て止まる掌
神官の袴水色夏はじめ
神域の暗みに青き今年竹
夏はじめ話の弾む始発駅


          
一礼しふみ入る杜の薄暑かな       イケ
風薫る六根清浄富士の山
神木のいてう大樹や初夏の風
開運の名高き杜や揚羽蝶
竹林をわたる薫風将棋堂 


          
青葉洩る初夏の陽光や狛犬像       タリ
富士塚の登山道脇躑躅咲く
富士塚の金銀明水青葉映ゆ
黄菖蒲の富士塚裾に咲きにけり
駅に待つこのときめきや風薫る


         
薫風や昔五輪の千駄ヶ谷         ヤミ
合掌す青菜若葉の鳩の森
富士塚の裏に道あり白つつじ
緑陰や出番を待てる御輿倉
通り過ぎて強き香りや椎の花


          
千駄ヶ谷富士の麓や風薫る       トンボ
富士塚と云へる奥宮五月来る
風薫る金明水と銀明水
若人の屯してゐる薄暑かな
富士塚も体育館も夏めける