トンボ雑詠抄
枯れ落ちて桐の一葉の倒れたる
枯蓮女を追へる男見し
見せられてオコゼの寒さもらひたる
さざ波の一つ一つの冬日影
聖護院大根愛でて暮れゆけり
宝くじ売場の列の果てぬ冬
洗はれて一個づつ蕪白光す
冬空へ背伸びしたとて冬の空
冬至湯を内湯外湯と通ひけり
耳掻きの三本ありて年の暮
ロードショー武士の家計簿師走来る
読み方雑感
原 句
きぶくれの捉へどころの無き子抱く
読み方
きぶくれの とらえどころの なきこだく
ポイント
「捉えどころのない子」と云えば、思春期のころ、何を言っても「別に…」と云って何を考えているのか分からない子供。または、生れたばかりで、首が据わらず、おくるみにくるまれたような赤ん坊などが想像される。抱くということからおそらく赤ん坊のことであろう。おくるみにくるまれているような赤ん坊を着ぶくれているというのは、どうであろう。着ぶくれている小さな子がいないわけではありませんが、それでは捉えどころがないということには違和感が出てしまう。
おくるみにくるまれた赤ん坊を抱くのは大変で、「捉えどころもない」と云う把握は優れた感覚。このまま、着ぶくれているのは作者、ということにして、
着脹れて捉へどころ無き子抱く
「きぶくれ」を、仮名で書くことの効果は感じられない。
原 句
大空にタワー一本師走かな
読み方
おおぞらに タワーいっぽん しわすかな
ポイント
「かな」は、詠嘆の切れ字です。この状景にはどうでしょうか。
大空にタワー一本師走来る
今年の年末の新しい景色の誕生。