春愁ひ回転木馬廻りゐる
遊園地春の愁ひをひろげゐる
恋猫のひそめる闇を地震(なゐ)走る
囀や谿を深める水の音
囀や川の向うに草野球
囀や花瓶の硝子掌に
春愁の剥かれて白きゆでたまご
線香の煙り不規則彼岸寒
三人の庭師はたらく彼岸寺
三月へまたも加はる悲哀の日
何事もなきかのごとく霞けり
原 句
空の蒼一糸まとはぬ花辛夷
読み方
そらのあお いっしまとわぬ はなこぶし
ポイント
辛夷の花の咲く頃の空の青さを強調した句なのでしょう。そこで、「そらの蒼」と「蒼」の字を遣いました。そのためかえって、空の色がイメージが損なわれてしまいました。肝心のことは云わずに読者に任せればよい、それが俳句の表現方なのです。
大空へ一糸まとはぬ花辛夷
原 句
春寒や芋銭の河童膝を抱く
読み方
はるざむや うせんのかっぱ ひざをだく
ポイント
芋銭は、小川芋銭という河童をモチーフとした絵を描く画家として知られています。
その描かれた河童が春寒で膝を抱いているという句になっています。絵の河童のことであって、そこには、作者不在のように思えますが…。
俳句は、われであって欲しいと思っています。その絵を見て「春寒」を感じたのでしょう。
春寒や膝抱く芋銭の河童の図
原 句
春の昼白寿の人のカレーそば
読み方
はるのひる はくじゅのひとの かれーそば
ポイント
それがどうなの?という感じがしますね。これも、われが抜けています。
春の昼白寿の人とカレーそば
「の」を「と」に替えるだけで、二人の関係が分かるようになり、その人へのある種の感嘆ぶりが感じられるようになります。