今月の四苦八苦 2012・5月

     トンボの句抄

椎若葉恋しきものに青柳町

身辺の人の老いたり桐の花

ひざまづく靴のソムリエクレマチス

明け方の夢から薄暑はじまれり

夏めける板の間すこしつめたくて

余花に遇ふ白髪一本光らせて

通り過ぎ泰山木に返しけり

頭髪の一本光る竹落葉

薔薇園を杖つく人と車椅子

ハンカチの白き花あり太極拳

K-4POP韓流ドラマ夏めける

木下闇大道芸の帽子あり

中空は虻の高さや絵画館

鳥の恋九相図只今展観中

 

 

 

◎ポイント

 

原 句

フラダンス踊る素足や夏来たる

読み方

フラダンス おどるすあしや なつきたる

ポイント

「素足」「夏来たる」は、いずれも夏の季語ですから季語は一つにしましょう。フラダンスでは、季節を問わず素足で踊るものですから「夏来たる」を季語とすればよいでしょう。

添削後

フラダンス踊る素足の夏来たる

 

 

原 句

初夏や辻売り八百屋の人出かな

読み方

はつなつや つじうりやの ひとでかな

ポイント

「や」「かな」は一句の中では、使わぬ事。理由は、添削後の句と比べて経験を重ねればおのずと分かったきます。

添削後

初夏の辻売り八百屋の人出かな

 

 

原 句

路地裏の闇に匂える花蜜柑

読み方

ろじうらの やみににおえる はなみかん

ポイント

もう今時、「路地」と云うアバウトな表現は陳腐です。添削後の句のようにすれば、情景が立ち上がるのではないでしょうか。人さまが使って流行した言葉を無意識にそのまま使う事は、止めると心に決めましょう。

添削後

廂込む闇に匂える花蜜柑 

 

 

原 句

画廊へと蜜柑の花の咲く小路

読み方

がろうへと みかんのはなの さくこうじ

ポイント

蜜柑花咲く画廊への道、佳い題材を得て爽やかな句に、と期待しましたが「小路」と下五をおいたことでつまらない句になってしまいました。場所をこんなにリアルに表現することは、告知のための文章ならともかく、「詩」では、全く無用。添削後の句を味わってもらえれば、それは分かると思います。

添削後

画廊へと蜜柑の花の道を行く

 

 

原 句

ルピナスや薄く紅差す修道女

読み方

ルピナスや うすくべにさす しゅうどうじょ

ポイント

ルピナスは最近注目されてきたインパクト強い花です。季語にはまだなっていないかも知れませんが、いずれ取り上げられるでしょう。それには好い句を量産することです。修道女との取合わせは一つの発見で手柄です。残念なことは、「薄く紅さす」修道女ではどうでしょうか。色が二つに分散して、印象が薄くなってしまいました。黒い修道服とルピナスの取合わせこそこの句は生きると思います。文章ならともかく「薄く紅差す」とは、過剰表現です。意味を伝えるものではないのが俳句の表現です。

添削後

ルピナスや黒衣まとえる修道女

 

 

原 句

滝落ちて緑の山をわかちおり

読み方

たきおちて みどりのやまを わかちおり

ポイント

こういう句は有無を言わせぬ勢いが必要です。

添削後

滝落ちて緑の山を分かちけり

 

 

原 句

母の日に生れし母の裁ちばさみ

読み方

ははのひに うまれしははの たちばさみ

ポイント

母の日は、一定の日にちが決まっているわけではないので不自然です。成り立たないのでは?

添削後

 

次の句などは、よく分かるのですが、「詩」には遠いものです。分かるからと云って真似をしてはいけない世界です。

 

独り居の暮れて卯の花腐しかな

古茶淹れて金環蝕を見る気なし

 

老年になろうとも、生きている喜びを。そんことが感じられる句を生み出して欲しいと思っています。