トンボの四苦八句 抄録
司法書士事務所つらなり焼薯屋
花芒小流れむかし国境
秋深む故に鬼平犯科帳
冬隣こころのままにありにけり
筆写せる句集にもらふ露の玉
なれるなら鬼の子がよしアドバルーン
家ごとに順々灯る秋の山
秋思とは今を無縁に遊びけり
晩秋の没日に富士の只黒し
賑やかに笑ひ声立つ小鳥来る
はじめての道を歩みて秋惜しむ
己が影ますます黒し秋惜しむ
白菊やからだに馴染み来し作務衣
月名も町の灯も秋深し
面構へよき秋刀魚よと溺れけり
伝道の二人組来る杜鵑草
水引の花や血糖値の上下
紅葉に旭加はる奥穂高
もの落し音のたちたる秋の暮
觔斗雲などと思うて秋の雲
臭木咲く大人(うし)と書かるる墓石あり
白菊や青眼もつて坐ししゐる
落鮎に面体らしきもののあり
床軋む音を立てゐて秋惜しむ