当月抄
ベーカリー前に人垣春疾風
畳屋の在りて見てゐる春の風
踏みたるはさみせん草の花なりし
彼岸会へ靴を揃へて上がりけり
初花や山門不幸の門構へ
鳥雲に紙の袋に菓子貰ふ
釣竿を担ぎてみたき春の雲
葦焼きの煙立つ見ゆ麦畠
春燈の込みてあふるる東武線
三月や剃刀傷へ風当たる
糸遊を抜けてこの世へ人と犬
春光や目の前麦の勢ぞろひ
花桃や段々物憂くなりにける
春昼の物憂き手足生れける
春昼や語るごとくに独り言
初蝶や石ころなれど仏さま
芹を食ぶ眼も耳も歯も使ひ
露坐物のむらさき匂ふ朧かな
夕去りて朧の中の露坐仏
川音に人声交る朧かな