◎トンボの四苦八句

雑詠抄

心映え眼にありし額の花

短夜の更に短き夜なりけり

少年のその日のありし黐の花

蔵書なぞすでに捌きし男梅雨

蝶毛虫蠅も蟻にも梅雨晴間

露坐佛のひざに輝くなめくぢり

沙羅の花掬ひて水のこぼれけり

石段に沙羅の白花五つ六つ

鞘堂の中に宝物夏椿

大浦の西福禅寺夏椿

六月の残雪残す八海山

歌あれば人の生まるる水中花

ただむきの伸び来て鮎を焼きにけり

胡坐してまづは頭と鮎食ぶる

◎なにがなんでも四苦八句

基本的なことでこれだけは絶対に守ってもらいたいことを書いておきます。

 

●鯵刺しの海の光の中に落つ

 

の句です。鯵刺しは、鳥の名ですから、「鯵刺」または、「アジサシ」と書きます。

よくあることですが、その一例、送り仮名、「祭」と「祭り」、これらもきちんと区別しましょう。

 

旅行中の句は、つい気が高ぶってしまいます。そして、こうでした、ああでしたと云う報告になってしまいます。

 

●長門路の旅の一夜の蛍狩

 

この句、典型的の報告の句。せめて「長門路の旅の一夜の蛍かな」として一番印象に残ったことを蛍だったと詠めばよいでしょう。なお、このままでは、「大和路」でも「出羽路」もなりたちます。

または、その土地の特徴を象徴する言葉が欲しくなります。

 

転換が一句を活かします。次の句、

 

●梁に跳ね飛び交う鮎や水しぶき

 

下5の「水しぶき」。こんなにこれでもかと云うように描写をしていますがこの句の失敗はここにあります。そのため報告になってしまいました。

俳句の表現は、ここから離れて別のことを持ってくることです。

 

●梁に跳ね飛び交う鮎やのぼり旗

 

とすると景として浮かび上がってきます。この転換の呼吸を会得しましょう。

 

また、次の句

 

●舌鼓郡上八幡鮎づくし

 

も、まったく上に同じです。

 

●歌聞こゆ」郡上八幡鮎づくし

 

報告から、少しは、ワクワク感がでてきますね。内容の一部を転換させること。この呼吸を

 

次の句

 

●白日傘砂の鳴きゐる日本海

 

ですが、頭に「白日傘」と置かれていますから「白日傘」が大きくイメージされます。

否応なく、切れ字がはたらきますから、意味的には繋がりを持たない文言を持ってきます。つながらないけれどもイメージ的には微妙な関係を持つようにするのがこの形式の作法です。

 

完成品は、白日傘の句になるはずです。簡単にその例を示しましょう。

 

白日傘うちては返す日本海

 

原句の表現では、本人の意思に関わらずどうもそうではなさそうです。日本海が荒波によって寄せては返す波が砂を鳴かせているのでしょうか。「砂の鳴きゐる」?とあります。

多分、日本海の砂浜には「鳴き砂」とよばれる砂浜がありますからその浜のことでしょう。

日傘をさして鳴き砂の浜を歩き砂の鳴くことを感じている句かもしれません。

白日傘をを客観的に見た句なのか、自分を主役とした句なのかその立ち位置を意識して作句されるようにすればよいでしょう。

この形式の例句は、歳時記にも沢山あります。探してみましょう。