雑詠抄
火の色や背中に寒さ集まれる
眼球へ目薬寒く墜ちにけり
空っ風前方後円墳これにあり
縒りすすむ注連縄の尾の反転す
雪吊のハープのごとく音立てる
風あれば雪吊ははたヨットの帆
初雪の渋谷の街の三千里
初雪のハチ公前に人を待つ
初雪や渋谷NHKホールまで
山茶花の垣根回りて遭える人
家建てる音の聞こゆる冬の雨
寝坊して十二月八日過ぎにけり
未知の日へ彼の山の眠りけり
寒き日へ鯛もオコゼも揃ひけり
もののふの幾人眠る枯野かな
短日や小栗判官説経節
うとうとと小春日和の過ぎ去れり
葱一本下げるをとこと出遭いけり
銭湯へ持ち来る寒き顔ばかり
霜降りる気配に更ける吉野葛
葛湯溶く夜の沈黙更けにけり
冬至の日日射しの深く雑木山
日の光雑木林へ冬至来る
冬の日の日矢の遍し露座仏
大根煮る匂ひ満ちくる夕べかな
似顔画く人の深深冬帽子
カテドラル教会寒し靴の音
暖炉よく燃えるモナリザモジリアニ
湯豆腐へ達者の顔を持ち寄れる
いつの間に羽子板市の中にゐる
はらいそと云う語飛び出る龍の玉
冬の日のすつかり暮れて影もなし
三三五五落葉残して掃きにけり
柚子の棘あることも一壺天
怒れるは愚かなりけり石蕗の花
松毬を三つ拾うて年の暮れ
歳月の色を映せる龍の玉