雑詠抄
枝折戸のまた半開き返り花
今話柄邯鄲の夢残る虫
消息の久しくなりぬ小鳥来る
小鳥たちこぼれ落ちるなピラカンサス
成行はなり行きまかせ龍の玉
閻王と対してきたる紅葉かな
通称を閻魔堂なり柿紅葉
その昔よりの櫻の紅葉かな
襟元に風の集まる冬となる
草草の枯れゆくそんなに急ぐなよ
がらくたを大事に冬を迎へけり
影を濃くひとのいのちや秋の暮
けふの日の山影黒し冬に入る
人よりも大きく犬の来る暮秋
短日の犬三匹の鳴きあはす
秋深む川へ響かすトロンボーン
短日の知らぬ間に止む機の音
秋深む小紋工房人見えず
初霜の報を聞きゐる味噌ラーメン
広め屋のクラリネットの秋の暮
境界を攫む形に蔦枯るる
中空に落葉一片日の暮るる
踏切の音する暮秋向島
いにしへへ心を置けば菊かをる
鎌倉や釣瓶落しの露座仏
菊の香や結跏趺坐吉祥座
色鳥の一瞬見えし露座仏
作務僧のための紅葉となりにけり
腕を組む人が遠くに木の葉降る
行く秋の鼻の白髪の残りゐる
木曾谷の檜の桶や暮の秋
燈明の火勢変らぬ秋の風
音立てて落葉を踏める青い鳥
恃む事鳴くはなけれど秋の行く
船箪笥展覧会に暮の秋
眠りゐるものを覚めよと落葉掻く
四の五のと言われてをりし松手入
暮の秋新聞読みて手を汚す
息吐きて細胞五億鵙の声
凛と秋鎌倉市雪の下
秋風とともに追い抜き行けるもの
足あとを攫つて行ける秋の風