◎今月の四句八苦      2014・10月

雑詠抄

枝折戸のまた半開き返り花

今話柄邯鄲の夢残る虫

消息の久しくなりぬ小鳥来る

小鳥たちこぼれ落ちるなピラカンサス

成行はなり行きまかせ龍の玉

閻王と対してきたる紅葉かな

通称を閻魔堂なり柿紅葉

その昔よりの櫻の紅葉かな

襟元に風の集まる冬となる

草草の枯れゆくそんなに急ぐなよ

がらくたを大事に冬を迎へけり

影を濃くひとのいのちや秋の暮

けふの日の山影黒し冬に入る

人よりも大きく犬の来る暮秋

短日の犬三匹の鳴きあはす

秋深む川へ響かすトロンボーン

短日の知らぬ間に止む機の音

秋深む小紋工房人見えず

初霜の報を聞きゐる味噌ラーメン

広め屋のクラリネットの秋の暮

境界を攫む形に蔦枯るる

中空に落葉一片日の暮るる

踏切の音する暮秋向島

いにしへへ心を置けば菊かをる

鎌倉や釣瓶落しの露座仏

菊の香や結跏趺坐吉祥座

色鳥の一瞬見えし露座仏

作務僧のための紅葉となりにけり

腕を組む人が遠くに木の葉降る

行く秋の鼻の白髪の残りゐる

木曾谷の檜の桶や暮の秋

燈明の火勢変らぬ秋の風

音立てて落葉を踏める青い鳥

恃む事鳴くはなけれど秋の行く

船箪笥展覧会に暮の秋

眠りゐるものを覚めよと落葉掻く

四の五のと言われてをりし松手入

暮の秋新聞読みて手を汚す

息吐きて細胞五億鵙の声

凛と秋鎌倉市雪の下

秋風とともに追い抜き行けるもの

足あとを攫つて行ける秋の風