◎トンボの四句八苦・抄  2014・2月

木の股の向うに現るる春の月

八百もある嘘楽し雪間草

春潮や赤煉瓦倉庫群

つくばひへ春泥の邪魔ありし

白魚やライトアップの清洲橋

春寒の闇を濃くする隅田川

立春の大河流るる音もなく

風の来てびびびびびびと薄氷

とどまるもゆくもかへるも春の虹

目刺焼く炭の火色の美しく

其の上の合戦の地なり青き踏む

明日といふ遠き日透ける薄氷

薄氷の笑へば水となりにけり

梅が香を辿りて出遭う岐れ道

覚へては忘るる寿限無春の雪

地虫出づ見上げてごらん夜の星

自転車を寝かせて横に山笑ふ

壺の口二つ上向く春の雪

日輪のこぼしてゆきし蕗のたう

跳ね馬をどうどどどうと蕗の薹

一瞬の光なりけり猫柳

春泥の靴もて踏める庭の雪

春寒のドライブインへ着きにけり

春水の加速急なる石の上

鶯やうぐひす餅にさきがけて

大方は聞き洩らしゐる初音かな

三宅坂登りきったる初音かな

松は松竹は竹なり朧月

立春の過ぎて雪降る百貫目

たそがれに人の消えゆく沈丁花

古隅田川に鳥ゐる猫柳

立春のトワイライトの灯のともる

蝶生る双体道祖神の辻

早春の林に風の粗々し