◎今月のトンボの四句八苦 2014・7月

雑詠抄

 

向日葵のゆらりと高し丘の上

向日葵の一本立ちや丘の上

はからずも囮の鮎となりにしか

山と山重なる奥の富士の山

黒南風やいよよ睡魔の迫りくる

万緑や人を渡せる丸木橋

雨の中花火の音のつづきけり

ラジオから島倉千代子昼寝覚め

序の舞の逆さ扇の涼しかり

いま囃子オロシのあたり遠花火

思惟するゆゑにありたる木下闇

たなぞこの砂のこぼるる海開き

蝙蝠の来るとふ橋へ着きにけり

炎天や一日二本のバスの道

瀧音に花火の音の加はりぬ

干されゐる蚊帳の青さを見てをりし

水打て塩置く道へ入りにけり

水馬翠嵐峡の平らなり

流されて元にもどりてあめんばう

櫛比して登記所通り鉄線花

胸合はすやうに山あり鬼やんま

各々の影を引き摺る蟻の列

蝶の翅担ぐも曳くも蟻の列

蓮の花見てゐて見えぬほとけたち

揺れやまず蓮の花あり日照雨くる

白蓮の葉を裏返す戯(そばえ)かな

白南風やラッパ鳴らして豆腐売り

夕凪や海へ走り湯走りゐる

夏の浜行きて走り湯踏み当てる

身辺に急に増えゐる夏薊

蟬のこゑ選手宣誓ラジオから

身体に力満ちくる草いきれ

日傘差すひとと行きあふ橋の上

大勢で集えば馳走泥鰌鍋

蟲養いなどとのたまひ泥鰌鍋

半分はひだる神へと水やうかん

水筒も麦藁帽にもひだる神

炎天や南無八大龍王幟幡

万緑の中へ墜ち込む瀧一本

胸あはすほどに近づき瀧仰ぐ

くりかへしまたくりかへす土用波

土用波当りて日本やや凹む

銭湯に足止めされる白雨かな

夏霧に省略されし奥穂高

雲の峰干物と魚の名の変る

魚数多腹を割かれて雲の峰

潮騒や崖をはみでる黒揚羽

口々に梅雨明けらしと交しけり

雲の峰法螺貝ひとつ置かれあり

黒鯛の跳ね出て砂を巻き上げる

箱庭へ石置き李白これ蘇軾

汐入りの池へ黒鯛住みつけり

ほろぶものあればとうすみとんぼかな