◎今月の四苦八句    2015・10月

雑詠抄


食みこぼすことの多くて秋の暮

晩秋や遠くを音もなく電車

晩秋の人馬共に見えず昼

水流の二つに割れて秋の行く

取り戻すことなく秋の日の行けり

濁世とも浮世とも柿の実の熟す

木守柿残し村落捨てらるる

けふの日の始めを告ぐる鵙の声

鵙高音朝の食卓ゆで玉子

艱難も辛苦も夢のレモンかな

敗荷の敗れつぷりを愛でにけり

破芭蕉レンガ造りの写真館

こころにも鬼の棲む場所鵙の声

久々の晴着となりし残る虫

足音のあとからついてくる暮秋

矜羯羅も制吒迦童子も菊日和

逆行の中を人来る菊日和

鶴翼の陣形組んで七五三

こどもより親の真顔も七五三

渋柿の熟すを待てる月日かな

渋柿や伝うべきこと伝はらず

渋柿の渋のごとくに齢過ぐ

末枯るる一本大樹くろぐろと

自らの己の影の末枯るる

天野原ふりさけみれば末枯るる

噴水もブロンズ像も末枯るる

時々は忘れてしまふ一の酉

露じめり背負うてをれり交差点

なんやかや摑みかねゐる秋の暮

露じめりつれて外での浮き浮きと

十ほどは喰はねど柿を食うべけり

鰻屋の呼び込む声の菊日和

子の遊ぶやうにころころ芋の露

梅雨しぐれポルシェの形残しけり

晩秋の山野の深くたそがるる