雑詠抄
シベリアを発ちしと鶴の第一報
事始相撲の技の猫だまし
あたたかき冬となりたる像老いぬ
無視されて話題となりし炭の尉
山茶花や塩専売商電話1
やりのこすことは残して飾り買ふ
襟立ててコートへ丹田納めけり
北風に一歩一歩を押されける
北風や八郎啄木上野駅
北風や空に動かぬ夜の星
猫が餌ねだる声出す年の暮
今年まだ飾売見ぬ日を重ねけり
よく燃えて炭の香の立つ古本屋
遠出して北風を帰るなり
足許を雀飛び立つ北の風
喜怒哀楽年々淡し龍の玉
懐かしき人が和沢さ龍の玉
歳月の濃淡映る龍の玉
年の瀬やさよならはダンスのあとに
冬帽の飛びだしさうなダムサイト
バーブ佐竹三橋美智也や冬の星
敷松葉左近の桜は見えねども
敷松葉猫の渡りて行きにけり
縁なきと思うてをれど聖夜待つ
鉢二つポインセチアの色違ふ
ポインセチア信用金庫を飾りけり
黄金に輝く馬体冬の朝
遊ぶ子の声こそ宝年の暮
白息を交し合ひゐる鮮魚店
息白く腹像もなく対しをり
どぜう屋の前まで行つて12月
12月なんだか損でもしたやうに
銭湯の話題に冬至及びけり
柚子一個もらつて帰る冬至かな
林檎湯につづきて冬至湯なりしかな
流木の出自うかがふ冬の浜
戸締りの雨戸に消えし息白く
大津絵のへうたんなまず12月
山内へ一歩這入れば笹子鳴く
忘れゐしことに気の付く笹子鳴く
笹鳴や油土塀と花頭窓
食うべゐて徐々にさみしくなる葛湯
恋心さめゆくやうな葛湯かな