雑詠抄
へうたんの形に己見てをりぬ
穴に入るものの残しし水引草
夕されば萩女郎花豆腐笛
桐一葉落ちてし未来始まれる
桐一葉落ちて気ままに風のまま
ひぐらしややよ胎内に居るごとし
キリシタン灯籠萩の乱れ咲き
また黄泉へひとりの行きし黒葡萄
首きゆくきゆくと鳴らして秋の立ちにけり
三秋の始めの一歩にまろびけり
色のなき風に山野の色増しぬ
門前に作務僧ふたり秋の立つ
温顔のきびしき姿虫の声
雛僧のつむりのそろふ木槿かな
九体仏まします色のなき風に
阿字池の平橋反橋赤とんぼ
枯山水九山八海赤とんぼ
桔梗や陶のテーブル陶の椅子
石ころの一つづつ影秋の風
鬼やんま後ろへ戻ることのなし
丸木橋渡る三歩へ鬼やんま
のら猫と顔を見合す木槿かな
萩叢に入りて己を隠しけり
飴細工仕上げまたるる遠花火
竹を伐る切なき音のつづきけり
新涼の鶴頸白磁と対しけり
施餓鬼会の五色の幡に風荒れる
一席の噺のありて御施餓鬼会
釣鐘の高さに秋の風の鳴る
門冠松の手入の腰手拭
近づけば松の手入の屈まる背
松手入地面に倒れラジオ鳴る
初秋のものの壊れる音ひびく
DVD三枚ほどの盆休
鯉の池けふから糸瓜加はれり
茣蓙敷きて糸瓜の棚の下もよし
曖昧に訃報のとどく糸瓜かな