◎今月の四苦八句        2015・2月

雑詠抄

啓蟄や中学校の下校時

木彫の一刀ごとの香り飛ぶ

踏青の一歩一歩の月日かな

春寒のひと日の暮れて行きにけり

地震のくる椿の花の落ちてから

薄氷となりて彼世の人の来る

なつかしきひとのくるごとうすらへる

ぼうぼうと煙の目刺食うべけり

見るべきは見つとは言へず藪椿

薄氷はりりと生身釈迦御堂

春眠の救世観音の御前に

伝言に入院の報春の雷

エジプトの木乃伊や余寒博物館

山笑ふ腹を突き出す布袋尊

薄墨の春の雨降る二重橋

一つ三つ四つ五つと蕗のたう

東西に南北に道下萌ゆる

普請場へ出前の届く下萌ゆる

春寒の音するばかり家普請

急流へ落ちる椿の浮き上がる

急流に取り残されし猫柳

春泥を靴に持込む丸の内

大石忌折しも雨になりにけり

うぐひすや雪見障子を開けてみる

黄水仙歪みて透ける戸の硝子

湯の町の落合橋の椿かな

大津絵のへうたんなまづ冴返る

春寒の眼鏡の曇るバニラの木

蕗味噌に一番箸をおろしけり

宅配の声してとどく蕗の薹

結露生む春の寒さとなりにけり

春寒しなかなか出来ぬ観世縒

松風や浄土庭園梅の花

汐汲の人形のケース冴返る

啓蟄や津波予報の出てをり

春雷を確め合へる顔一つ

径徐々に暗くなりゆく椿山

魚鼓叩く音のしてゐる梅の花

白梅や藪に隠れし筒井筒

泣く子には泣かせておこう風車

漉き終へし紙の濡れゐる春の闇

啓蟄や芝居の跳ねし人通り

風船のしの字に伸びし空の青

五つ玉算盤のあり冴返る

松風の音色変れり実朝忌

けふからは春水なりし船着場

春寒の顔の寄りくる交差点

をちに人こちにも人や春寒し

をちこちに人増え来る梅の山

引算に少し手を焼く涅槃西風