今月の四苦八句   2015・3月

雑詠抄

おほきにと言われてからの春愁ひ

毎年のことよ彼岸の前の忌は

戦災忌震災忌経たる彼岸かな

大和から風に乗り来し沈丁花

木々芽ぐむ喜怒哀楽を生みながら

春愁やキリンの首の長さまで

てふてふの蓬莱島へ亙り行く

佐保姫との夜となりし一壺天

虚と実の間をくらす春愁ひ

春風の壺の天へ入りにけり

白魚や俳号忘八名乗る人

春眠の有耶無耶に果てにけり

春愁のまさに有耶無耶一壺天

池波と表札残る余寒かな

春風や二股大根歓喜天

囀や秘されてをれる歓喜天

踏青を終へて投げだす土不踏

猫のゐる大涅槃図の御開帳

釈迦牟尼の足跡の石落椿

山笑ふ常の顔して摩崖仏

一山へ一歩を踏めば芽吹きけり

一山の芽吹きの音や瀧の前

春愁の始めとなりし忘れ潮

春愁の身の内さはぐ手毬唄

山尊像三幅対も春の闇

武蔵野の起伏も川も春の雨

春眠の覚めて新橋演舞場

紅梅の囲める家の鬼瓦

崖下の水湧きつづく余寒かな

椿落つ見えぬ迅さの水流へ

混迷も混沌もなく鴨帰る

水流を濡らしてをれる春の雨

国分寺跡へとつづき水温む

白梅も紅梅も老かくれなし

真姿を映す水あり春寒し

春寒の水行く道の水と行く

料峭や崖から水の生まれゐる