◎今月の四苦八句         2015・5月

たどり着く室の八嶋や麦の秋

十薬を抜きこしままの中にゐる

股立ちを高くあげゐる羽抜鶏

ランドセル左に右へ走り梅雨

美術館搬入口の姫女菀

茹で卵剝きて艶鱒六月へ

抱へゐるコントラバスや青嵐

野見宿禰社沈黙五月尽

旧暦を味はい居れる笹粽

須佐之男命の踏める竹落葉

須佐之男命食うべさくらんぼ

仏法僧遇ふは久しき真の闇

炭の火を熾して鮎を待ちゐたる

鮎を焼く炭火の炎美しく

石の上水の越え行く夏椿

飛鮎や越後三山八海山

わが家に居つきの蟇として望む

あひる連れ歩きく来る子や花菖蒲

泳ぎゐる鳥の間に間に花菖蒲

花菖蒲畝間に鳥の泳ぎゐる

若竹や鎌倉こゑの沸き上がる

大瑠璃のこゑのひとつの高尾山

明易し日月急ぐことのなし

高配当出でしと競馬明易し

荊も薔薇も悲しみ白く見せにけり

光悦寺垣を二分け竹落葉

竹落葉おとなき音を立てにけり

一本にはじまる白髪荊白き

紫陽花の中に甘茶の花の咲く

津軽には花咲くころか五月来る

亡き母の居られるごとし更衣

更衣人も変えゆくごときなる

牡丹の蕋のうごける夜の帳

麦秋や飛び交うものの目に見えず

はるかなる声のきこゆる蚊の生まる

いつの間に都忘れの花終る

風くれば風のままなる鉄線花

天守閣を支えて白き花菖蒲

その先に留石のあり花菖蒲

芍薬も牡丹も薔薇も夜の帳

白き薔薇ラフカディオハーン旧居跡

芍薬の莟の固し修道院

麦の秋埃を連れて車来る

旧国名下総あたり麦の秋

有耶無耶に訃報のとどく柿若葉

鼻先へ黒南風の来るなり

一刹那づつを重ねる柿若葉


今月見るべきものなし、自戒…