今月の四苦八句  6月   2016・6

抄録

 

夏帽の顔を伏せゐる兜町

麻服の背中の皺と黒鞄

太太としの字痕ある紙魚の本

あるようで話などなし氷水

喫茶去と人に呼ばるる氷水

水馬のABCのそろひけり

半夏雨堂に奪衣婆居られける

今降りし電車の去れば立葵

くちなしの花や三味線稽古処

青竹の背は青竹任せなり

うとうとと竹酔日の過ぎにけり

あぢさゐや列なし見るといふ凡愚

竹植うる日なりしバナナ食うべゐる

そばかすのでてゐるバナナ竹植ゑる

夕星や玄関間に猫のゐる

下闇や犬三匹と乳母車

下闇へ人の寄り合ふ救急車

文楽の頭置かるる五月闇

汗拭ふ郵便局へ銀行へ

松は松竹は竹なり汗拭ふ

割箸を割つて夏の日の暮るる

郭公や闇の深さの拡がれる

五月闇仏の朱唇見えてくる

滴りを両手をついて戴ける

窓からは港の見ゆる鉄砲百合

名にし負ふカサブランカとぞ香りけり

聞こえくるリンゴ追分夏の午後

無常とは蟻の門渡り続きをり

行く蟻の先頭見えず殿も

老鶯や尾上の松の風を聴く

戴いて帰る夏書の一文字

水口の目印どころ半夏生

用のあるわけであらねど半夏雨

嘗てゐし井筒の女半夏生

夏籠や用あるわけではあらねども

累累と蕊を見せゐる夏椿

竜笛の次第の囃子七月へ

日本の青田美し笛の音

水無月の祓なりけり深呼吸

青梅の青の色ます夜となる

青梅の夜のおしやべりぺちやくちやと

涼しさやゴリラ目つむる腕を組む