◎今月の四苦八句    2016・2月

雑詠抄

 

かつてありし絵踏の日和といふべかり

聞こえねど声をあげゐる蕗の薹

大石を背負うて蕗の薹の出づ

大地より抓み出さるる蕗の薹

隠れ切支丹館から冴返る

春泥をもろうて山の帰り道

熱湯をくぐりて若布緑色

曳きずりつ若布担ふを見て過ぎし

行くほどに春光撥ねる忘れ潮

おぼろ夜の下戸には下戸の壺中天

門内の沈丁の香の恐ろしき

沈丁花擦り傷傷確かに樞孔

秘宝館と言ふには言へど沈丁花

石ころも木の根もありて青き踏む

生ぜしも死するも独り青き踏む

溜息か微笑の形(なり)かうすらへる

薄氷のなりなりてなりたらず

一生をたとえて言はばうすらへる

しつかりと石を咥へて薄氷

青き踏む極楽などへ行くやうに

踊るならキューバンルンバ春の月

青き踏む確かに地球足の下

胴回り四尋の杉の孫生える

小面の瞳の☐冴返る

離見の見などと言いつつ青き踏む

鉛筆を削てをれば春の風

胸襟を拡げてみれば春の風

春光を猫と分かちて鼻すする

春燈下出でます豆腐ぶるるるる

八朔柑雀も目白も来るなり

行く先を雀わらわら山笑ふ

身の回り片付け了る春の風

蔵本の始末し終へる地虫出づ

沈丁花鬼籍の人と逢う如く

半生を刻める一句地虫出づ

地虫出づ知恵の泉を連れて来よ

八朔柑どこから皮をむきだそか

予感あるままに余寒の日なりけり

浜焼の店の余寒の床の上

御仏の周りを巡る余寒かな

転座らの顔寄せ合へる余寒かな

鎌倉へ行く日の朝の冴返る

百幹の竹の微光の冴返る

冴返るものに竹林日の射せる