今月の雑詠抄
踏青のいつも南へ向ひけり
志少しくはあり椿落つ
春昼の取れば無言の電話かな
抜きんでて馬酔木の花の一屯
末黒野や足の裏側むづむづす
映画ロケかくやなるらん野を焼く火
春の雨三組坂上理髪店
陽炎や行く手を阻む行者道
末黒野や歴史に歿す大空襲
僧房や蠅の生れてゐやうとも
疑ひは人間にあり月おぼろ
年輪の匂ふ丸太や蝶生る
燐寸擦る匂ひ連れくる春の風
ガスの炎の青く真直ぐ春の宵
どうといふことはなけれど春の宵
春風の勝手に本の頁繰る
留石も春の障子も眩しかり
山笑ふ爆笑とでも云ふやうに
椿の葉咥へ行く僧春の宵
その後の消息聞かずしやぼんだま
飛び交へる電波の見えず百千鳥
芽柳のわれのほかには人見えず
芽柳の明るさ得たる蔵の街
芽柳の道へ消えゆく郵便車