◎今月の四苦八句   2016・3月

今月の雑詠抄

踏青のいつも南へ向ひけり

志少しくはあり椿落つ

春昼の取れば無言の電話かな

抜きんでて馬酔木の花の一屯

末黒野や足の裏側むづむづす

映画ロケかくやなるらん野を焼く火

春の雨三組坂上理髪店

陽炎や行く手を阻む行者道

末黒野や歴史に歿す大空襲

僧房や蠅の生れてゐやうとも

疑ひは人間にあり月おぼろ

年輪の匂ふ丸太や蝶生る

燐寸擦る匂ひ連れくる春の風

ガスの炎の青く真直ぐ春の宵

どうといふことはなけれど春の宵

春風の勝手に本の頁繰る

留石も春の障子も眩しかり

山笑ふ爆笑とでも云ふやうに

椿の葉咥へ行く僧春の宵

その後の消息聞かずしやぼんだま

飛び交へる電波の見えず百千鳥

芽柳のわれのほかには人見えず

芽柳の明るさ得たる蔵の街

芽柳の道へ消えゆく郵便車