◎今月の四苦八句      2016・4月

雑詠抄

 

麦の秋関東平野を飛行船

生き急ぐことにあらねど夏の雲

発掘の村のすみれの咲き競ふ

ふらついて手つきし土にすみれかな

他人事も私事も蛇の衣

自づから満ちくるものも夏の来る

四肢すでに満ち満ちてをり夏の来る

もののけの見えなくなりし四月尽

のこぎりの売り買ひ無言牡丹寺

兎の子ひよこ売りゐて夏めける

竹細工売りのはみ出る牡丹寺

くちなはの蛇身の消えて残る芝

風薫る大黒柱なき家も

自転車のやがて坂なり風薫る

黙殺も微笑も言葉百合の花

街道の空き地のあれば罌粟の花

蝌蚪生る池面一面黒くして

蝶の昼いづれのベンチ人占める

春疾風足取り鶏のゆくごとく

遅桜竹の簾の筒井筒

くちなはや住む人見えぬ目白台

震災の報道写真春のゆく

残る花のこさぬ風となりにけり

黒塀の旧武家屋敷枝垂れ花

この世なり残り人と残り鴨

余花に逢ふ面影橋といふあたり

余花に遭う旧細川藩下屋敷

箒目をつけて掃きゐる別れ霜

鞦韆や未来あまたや保育園

しやぼん玉鳩も雀も車椅子

池黒くなりて蝌蚪の子生れけり

春愁の甘美の世界へ落ちにけり

薔薇の刺確かなものとしてありぬ

たけのこの三つの重さ抱きけり

ばつてんといふをりて夏の来る

けふは過去明日は未来蠅生る

高尾山薬王院の瑠璃の声

頂上にまだ雪見える五月来る

行くも退くもまくなぎの中なりし

めまとひに行く手阻まる古刹かな

不意に来て衣収める天道虫

真昼間の湯殿にひとり春惜む

ワイン蔵蝶の止まれる蝶番

東武線ホームの下の諸葛菜

柔肌に触れもせでとや春惜む

夜店にて暗算どうも役立たず