◎今月の四苦八句   2016・5月

抄録

若人の屯してゐる薄暑かな

富士塚も体育館も夏めける

風雲急晶子忌も多佳子忌も

新緑や誇るものなどまるでなし

緑さす八十歳にならむとす

流れゐる水を踏んばるあめんばう

あめんばう足下を水の流れゐる

うすもののひとこそ好けれ椿山荘

夏浅し浅き夢見じ酔ひもせず

白玉の喉過ぎるたびに過去

八橋を車いす行く菖蒲園

過去にまた一つを送るかきつばた

咲かぬなら咲まで待とう未草

未草間もなく咲くを待つてゐる

傘雨忌の雨の浅草芋やうかん

銭湯へ通ふも日課傘雨の忌

雨降らぬ三社祭のやや寂し

蕎麦食うて三社祭の音を聞く

二つ三つあまり苗ある道の端

卯浪立つ卯浪詠める人ぞ亡し

をみならのかたまりながら来る五月

浴身を五月の風の吹き抜ける

羽抜鶏寄れば高足走りして

老鶯や蕎麦の来るまでいつまでも

まづ風の起こりて暗む走り梅雨

蛇の衣動物園へ残しをり

目の玉を残せる蛇の衣なりし

夢殿へ蛇の衣裂残しけり

夏百日凹面鏡にはじまれり

萍やよんどころ無きこと起こる

萍やよくは分からぬ男女かな

いつの間に光り輝く蜷の道

残すべきことなどのなし蜷の道

かたつむり槍出せなどと云はれても

十薬や話のいつかすれ違ふ

十薬の十日みぬまの賑はいに

ぼうふりや黙殺などに合ひにける

ぼうふりの沈むは平仮名散るやうに

ぼうふりの水や一斉顔を出す

風鎮に相ふれあへる鉄線花

虞美人草無用の用もて訪へる

朝からの用件詰まる走り梅雨

鉄線花無用の用とぞ応へて来

映画には物故者ばかり麦の秋

卓袱台を囲める写真麦の秋

物置に卓袱台のある麦の秋

この辺りむかし下総麦の秋