◆俳句月報 2016・11月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・東京拘置所矯正展

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

 

1.定例句会報・     2016・10・23

当日入選句

 

満月や足にまつはる猫ほしき      ヤミ

黒々となりし峭壁秋の暮        コフ

鰯雲茜に染まる瀬戸の海        アノ

秋桜丘の向かうは鹿島灘        チシ

草紅葉甲府聯隊駐屯地         アヒ

草紅葉廃線跡行くハイキング      シミ

石けりの石の外れゆく草紅葉      ミノ

輪を作り小昼を摂れる草紅葉      シケ

 

 

 添削句

 原 句 峭壁の黒々となり秋の暮

 添削句 黒々となりし峭壁秋の暮

 

 原 句 廃線を行くハイキング草紅葉

 添削句 草紅葉配線跡行くハイキング

 

 原 句 石けりの石の飛ぶ先草紅葉

 添削句 石けりの石の外れたる草紅葉

 

 原 句 草紅葉小昼の人ら輪をなして

 添削句 輪を作り小昼の摂れる草紅葉

 

 原 句 草紅葉甲府聯隊駐屯碑

 添削句 草紅葉甲府聯隊駐屯地

 

今月は、採れる句がなく残念でした。

  

その他の句から

 

 原 句 鰯雲茜に染まり瀬戸の海

 添削句 鰯雲茜に染まる瀬戸の海

 

 原 句 病み犬の足とられけりやぶからし

 添削句 病む犬の足をとれるやぶからし

 

 原 句 銀髪の増えずとも伸ぶ暮の秋

 添削句 銀髪の増えずに伸びる暮の秋

 

 原 句 そばの花信濃なまりの慣れし姉

 添削句 そばの花信濃なまりの姉なりき

 

 原 句 伝馬町べったら市なる夜灯り

 添削句 見えてくるべったら市の夜の明り

 ※恵比寿講のべったら市が立つのは、日本橋大伝馬町・小伝馬町辺りです。

  

 原 句 自転車に落葉からまる裏の道

 添削句 自転車に落葉からま裏通り

 

 原 句 萩模様着物の架かる蔵の店

 添削句 萩の花着物の掛かる蔵の店

 

 ● 適切な用語の選択

 

●室戸への龍馬の目線秋高し

「目線」は、業界用語で特別なことばで、撮影などの時、モデルに対し目の位置をカメラを見るように指示を出すときに、「カメラ目線で」というように使われているようです。

桂浜の龍馬像を詠んでいるようですが、そうであれば、龍馬のまなざし、「視線」でしょう。

いずれにしてもこの龍馬は銅像です。銅像には、その銅像の作者の思いが入っていますから、その思いをなぞってみたところで、その銅像の鑑賞するであれば意義がありますが、俳句としての独自性は得られぬでしょう。 

 俳句は、作者の視線をもって詠むべき。

 

●若振りて皮のまま食むりんごかな

「広辞苑」では、「若ぶる」とありますから、「若振りて」は、「若ぶりて」がよいでしょう。

 

●垣間見る川の斜面草紅葉

これも、「広辞苑」を見れば、「物の透き間からこっそりとのぞき見る」とあります。川の斜面にある草紅葉であれば、誤用と言ってよいでしょう。

 

●訃へ急ぐ夕べの西を雁渡る

「訃」は、「人の死を知らせること」と「広辞苑」にあります。この意でこの句を読むと句意がよくわかりません。

あるいは、弔いのこととしてつかっているようにも思え、作者が急いでいるという句かなとも思えますが、「訃」には、弔いを表す言葉にはならないと思います。

「西」は、西方浄土を表わすことを暗示させますが、一句全体が何か言葉に酔っているようで、いい傾向とは思えません。

こういうことを好む向きもありますが、「実意」のこもった句を期待します。

 

●納棺の叔母に紅差す夜寒かな

「納棺」とは、広辞苑には、「死体を棺に納めること」と書いてあります。ですからこの句のような「納棺」という使い方では、意味が極めて曖昧になってしまい、情景が浮かんできません。

有体に言えば、「棺桶の叔母に紅差す夜寒かな」という意の句なのでしょう。

「夜寒」をもって悲しみの気持ちとするのは安易。なにか他人事のようです。なんでもない言葉を持ってくることで悲しみを表現できることにも気気付いてほしいのです。このような句は、過去に多くつくられています。それらしいムードが先行し類句が沢山あります。故人とのつながりが深ければそれを生かした独自の句の誕生を期待してます。

 

 

●復興の海浜公園カンナ燃ゆ

「復興の海浜公園」とは、復興完了?の意でしょうか。「復興の」と言っても復興には、色々とその段階があるはずです。復興に取り掛からねばという段階。復興の途中、完了。と、各段階がある筈。このどの段階なのか。それを意識して作句することが大事です。「復興」などと、なんとなくありあわせの言葉をそのまま使うことには心しなければなりません。想像ではなく、実景に直面すれば、「復興」などと言葉を使わずに、復興のその状態がどうであるかをを描くこと、それで表現できると思います。

 実景を見ながら絵空事と言われるような句になってしまうことが多いのですが、十分に心して作句に当たりましょう

 

● 俳句の表現は、複雑の事柄を、適切に、単純化して、さし示すことです。

 

そのためには、題材をしっかり理解することが第一です。この理解なくして適切に、単純化することは難しいと思います。

このことは逆に、五七五にまとめる工夫の中から題材の本質がしっかり理解することが出来るとも言えます

 

この訓練こそが大事です。

 

 

◎2.今月の吟行・東京拘置所矯正展 2016・10・1


この行事がどのようなものか、世間で定着しているとは言えないように思えます。

「まちとともに」とあるのでそこから考えればよいのでしょう。

 

また、なぜ、東京拘置所が会場になっているのかも今一つ説得力がないように思えます。

 

メインは、各刑務所の「刑務作業製品展示即売ブース」でしょう。そこに意義があるのでしょう。展示広報と物品などの販売や飲食品ブースなどがあり、上の写真の右側にその詳細が窺えます。

 

広大な敷地があるこの地、どういうところだったのでしょうか。

 

敷地の廻りに区史跡として、その案内板が立っていてその説明を抜き出してみます。以下です。

 

現在の東京拘置所一帯は、江戸時代前期に幕府直轄地を支配する関東郡代・伊奈忠治の下屋敷が置かれ、将軍鷹狩りや鹿狩りの際の休憩所である御膳所となりました。その後、元文元年(1736)7月、伊奈氏屋敷内に小菅御殿(千住御殿)が建てられました。

 

 寛政4年(1792)小菅御殿は伊奈忠尊の失脚とともに廃止され、跡地は幕府所有地の小菅御囲地となりました。御囲地の一部は、江戸町会所の籾蔵や銭座となり、明治時代に入ると、小菅県庁・小菅煉瓦製造所・小菅監獄が置かれました。

 

 

とあります。飛騨高山が天領になったときこの伊奈氏が兼務して治めていたことは高山陣屋跡の案内に書かれています。

 

小菅監獄・刑務所時代に10メートルにも及ぶとも言われるコンクリートの塀が新しい拘置所を作るにあたって取り壊され、完全にクローズされた高層の拘置所の建物が出来、その周りにいくつもの高層の官舎棟と500台にも及ぶ車の駐車スペース、幾面かの広場が作られています。

 

その広場の一部が矯正展の会場になっていました。

 

つまり、この「矯正展」は、矯正は、町と共にあるということがこの催しの本質なのでしょう。

 

そのことを俳句に詠むことは、俳句の一番苦手とすることです。

 

俳句では、嘱目即吟で詠むことになり、事実そういうことがが、多いのですが、それだけでは、この地を詠むことは難しいでしょう。

 

この場所を詠むには、以上のような吟行地であることを念頭(腹)にいれて作句することになりますが、大方は、上辺だけの眼に見えるものをそのまま詠んだものが多くなります。

もしそうだとしても、この行事の意義を理解することは有益ではないでしょうか。

 

 

●その場所を詠むのではなく

●そこに立って詠む  

 

ことが吟行の心得。

 

特に、●そこに立って詠む。その意味をしっかり身に着けるいい機会だったはずです。

 

思い出してみてください。

 

前置きが長くなりました。

 

作品は以下に。

 

当日作品

 

木犀や矯正展といふ人出       イカ
拘置所に入口幾つ榠櫨の実
秋の雲拘置所いまは高層に
刑務所の製品バザー秋深き
ヘリポート置く拘置所や冬隣

          

 

爽やかや手荷物検査矯正展      ハセ
土手路に庚申塚や草紅葉
綾瀬川なつかし土手の猫じゃらし
遠き日を土手に遊びし赤まんま
綾瀬川土手路行けるそぞろ寒

          

 

金木犀三三五五に矯正展      オミ
矯正展手荷物検査薄紅葉
新生姜求める人も矯正展
梯子車の梯子秋の空を突く
木犀や今日は休みの差入屋

         

 

爽やかや友から貰うマドレーヌ   イア
金木犀土産の財布刑務所製
秋めく日刑務所製の靴を買う
自衛官募集のテント八重木槿
機動車に乗っている児や秋の風


          
区境の道の蛇行や草の花      アヒ
拘置所の無色無音や秋あはれ
天高し羽根より軽き靴を買ふ
日を返しもう隠れなき榠櫨の実
秋ともし黄金に焼けしマドレーヌ

          

 

菊香る拘置所前の差入屋      アノ
マンションとも東京拘置所秋の雲
拘置所の広さに一驚天高し
草紅葉歩道に代わる塀の跡
この角度撮影禁止くわりんの実

          

 

金木犀匂ひてきたる官舎棟     トンボ
芙蓉咲くこの世を分かつ門ありき
賑うはこの世の沙汰や花梨の実
金木犀刑務所発の家具売場
立ち騒ぐ地元のブース藷を焼く

 

◎3.俳句の語句の読み

●鈍重を一つの長所牛膝

 

…牛膝は、「いのこずち」。乾燥させて漢方薬に。「ごしつ」とも。夏の季語。

 

●きはちすに触れて柩の舁かれ行く

 

…きはちすは、「木槿」の別称。季語。
…舁かれ行くは、「かかれゆく」。

 

●桔梗や淡淡と立つ芸者衆

 

…桔梗は、「きちこう」。俳句で使われる特別のよみかた。

 

●西瓜浮く筧にて引く山の水

 

…筧は、「かけい」。 

 

●盆終えてカジュアルシャツの若和尚

 

…若和尚は、「わかおしょう」。和尚の読み方は、「おしょう」のほかに、「わじょう」「かしょう」などとも読まれます。

 

●秋涼しすめろぎの言聴き入りて

 

…すめろぎは、「天皇」。

 

●たそがれや大川をゆく施餓鬼船

 

…施餓鬼船は、「せがきぶね」。

 

●蓴菜のゼラチン質が通過せり

 

…蓴菜は、「じゅんさい」。

●夕まぐれ矢羽芒とその影と

 

…矢羽芒は、「やばねすすき」。
     
⇔ 矢羽芒。葉に鷹の羽や矢の羽根の模様を持っている。

◎4.今月の四苦八句   2016・10

みささぎへ続ける道の秋の暮

をちこちの鹿の声する夕べかな

物落ちる音にふり向く暮の秋

行く先の二股路や水引草

水よりも風の冷たき秋の暮

名画座の前へ立寄る秋の暮

人影の絶ゆる大路の暮の秋

秋雨を車の轢きてゆける音

音の出るものみな叩運動会

川端の櫻のもみぢ木のベンチ

水の面を雨の濡らせる暮の秋

その先へ踏み込み難き草紅葉

小学校照る山紅葉背負けり

鬼女に遇うことのたのしも紅葉山

右筑波左は富士や水引草

飛火野の果ての末枯れ始まれり

礎石から礎石を繋ぐ草紅葉

どんぐりと一緒に子らの跳ね回る

名をつけてどんぐりころころかくれんぼ

小鳥来るその日のためにある立木

小鳥来る日々の平安いただきぬ

わたましは引越しのこと小鳥来る

生れし地に八十年目小鳥来る

半生に移徒(わたまし)知らず秋深む

赤き実の枝を揺らせる小鳥来る

松手入なれば已む無し迂回路

路地塞ぎ音するばかり松手入

松手入路地を塞ぎてをりにけり

兵庫小路などと呼ぶ地の松手入

草紅葉全裸の黒きブロンズ像

中空の枯葉の前後左右から

角乗の大波小波水の秋

新橋に新内流し秋刀魚食ぶ

仏像も枯蟷螂も動かざる

金輪際動かぬ形枯蟷螂

枯蟷螂筑波を富士を見てゐるか

干柿の干場は風の行き止り

干柿の旨さの風の頻りなる

秋深む虚空蔵さんも子供らも

秋深む鼻緒のゆるき庭の下駄