◎俳句月報  2016・12月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・旧中山道・板橋宿

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

◎1.定例句会報  2016・11・27

入選句

 

着ぶくれてホームの列の長くなる     シミ

太陽の西に傾く大根引          チシ

亥の子餅母とのひと日始まりぬ      ヤミ

秋惜しむ佐渡の土産のおけさ節      チシ

借りしまま母の形見となるマフラー    シミ

半島の小さき社神の留守         オミ

電飾の十一月の欅かな          アノ

小春日の乙女峠に来て居りぬ       イケ

小春日や団地の中の滑り台        チシ

朝ぼらけささら電車の雪催        アノ

老いてなお人の出合や大根引       ナミ

思い切りつきし尻餅大根引        イケ

 

 

◎2.今月の吟行 2016・11・5 旧中山道板橋宿

※「志村坂上一里塚」は、この地図の上(北)へ約2㎞程先にある。ここへは、板橋区役所前駅から電車に乗って「志村坂上」駅で降りてすぐのところにある。

 

作品抄

 

          
小春日や昔を遺す一里塚      チシ
秋深し文殊菩薩に詣でけり
秋風や戦国武士の供養塔
寄り道の馬頭観音返り花
程のよい道巾の街小六月

 

         
そぞろ寒縁切榎人絶えず      オミ
鶏頭や遊女の墓の真新し
行く秋の寄贈赤門あるが儘
秋の日の志村坂上一里塚
旧街道高速道も冬近し

 

         
小春日和板橋宿を散策す      イア
晩秋の縁切榎絵馬を読む
問屋場跡馬頭観音末枯るる
文字薄る遊女供養碑菊香る
上宿をのぼれば板橋枯桜

 

          
小春日和馬頭観音猫昼寝      ミノ
小春日の箒目揃う文珠院
街道の交差する街冬ぬくし
天高し上り下りの一里塚
煙突の見える景色や小春空


          
菊日和列の前後に案内人     アヒ
身に入むや縁切の絵馬新しく
中宿の脇本陣跡花八つ手
秋日和猫と馬頭観音と
山茶花や色の褪せたる朱塗り門

 

          
暮の秋板橋宿は坂の町      アノ
身に沁むや縁切望む絵馬の数
寺跡に愛馬の碑あり柿紅葉
今もなお賑う街や神の留守
今マンション本陣跡の銀杏黄葉

 

         
川に橋ひとに町あり小六月   トンボ
板橋の櫻紅葉に埋もるる
銭湯の煙突煙る冬隣
箒目の広がるは海百舌の声
和菓子屋と米屋と八百屋暮の秋

 

◎3.俳句の語句の読み

・月光の光り普し芒原

 

…普しは、「あまねし」

 

・とみこうみして竹を伐る斧谺

 

…とみこうみは、「と見こう見」。「左見右見」は当て字。

 

・絲瓜忌や父の命日雨の朝

 

…絲瓜忌は、「へちまき」。正岡子規の命日。

 

・有の実や明日打たるる造影剤

 

…有の実は、「ありのみ」。梨のこと。

 

・龍淵に潜み遠野の空深し

 

…龍淵に潜みは、「りゅうふちにひそみ」。秋の季語。

 

・あまたなる大内の濠水澄めり

 

…大内は、「おおうち」。皇居のこと。

 

・浅鉢の志野の写しに衣被

 

…志野の写しは、「しののうつし」。「写し」とは、現品になぞらえて造った模造品。この句では、名のある志野焼の名品の写しという意。

 

・盆の月時には夫へ独り言

 

…盆の月は、「ぼんのつき」。陰暦八月十五日の一か月前、すなわち陰暦七月十五日の月のこと。

 

・秋暑し昇降機の乳母車

 

…昇降機は、「エレベーター」。

 

・電車待つ法面被う葛かずら

 

…法面は、「のりめん」。切取り盛り土などでできた人工的な斜面。
…葛かずらは、「くずかずら」。クズの別称。

 

・白秋や地蔵門はた邪宗門

 

…白秋は、「はくしゅう」。五行説で白を秋に配するところから秋の異称。北原白秋の白秋は、ここから。春は、青、夏は、赤。、冬は、黒です。

 

・秋光や言挙げさるる美術館

 

…言挙げは、「ことあげ」。言葉に出して特に言い立てること。万葉集巻13・3250)に「あきづ島大和の国は神がらと言挙げせぬ国…」(大和の国は神意のままに、人は自分の考えを言葉に出してはっきり言うことをしない国である)。「あきづ島」は「大和」にかかる枕詞。古代では、「言挙げ」は不吉なものとされていた。巻18・4124に「我が欲りし雨は降り来ぬかくしあらば言挙げせずとも年は栄えむ」とあります。

 

◎4.今月の四苦八句   2016・11

作品抄

 

御門跡門にはじまる敷松葉

こがらしや松の騒げる行在所

白鳥の一羽ゐるとき美しき

磨き得ぬものに感性白鳥来

野にも出よ天上天下末枯るる

十二月細胞変異つづけゐる

一枚の仕切る障子の白光す

剃刀を咥へし母の障子張

眼下いま光の撥ねる十二月

鬼の子やをじさんなどと声かかる

蓑虫のことしの貌にと出会ひけり

蚯蚓鳴くよくは分からず首肯する

雪吊の綱のしゅるしゅる飛んでくる

年相応などと云はるる返り花

円相の窓の向うの冬紅葉

餌乞へる猫のすり寄る冬隣

餌を乞うて猫の寄り来る三の酉

行くほどに庚申塔や草紅葉

鵙の声猫も雀も来てゐたる

箒目や山茶花ほろほろほろほろと

洋館の蔦枯れ絡む一家かな

短日や幸も不幸も胸の内

緞通に靴の沈める冬薔薇

銭湯の煙もくもく返り花

猫不意に飛び出てきたる返り花

大悲閣殿を出で来し返り花

四肢張れる赤子を抱く返り花

玉砂利の一つ一つの冬の光(かげ)

雪ぼたる明眸皓歯かくれなし

化粧(けはい)濃きひとにまつはる雪ぼたる

日月の動ける冬となりにけり

冬の日や日月星辰たしかなり

夜の更ける落葉しぐれの音の中

喉(のみど)いま酢牡蠣の通り過ぎてゆく

牡蠣剝きのいまもむかしも燈が一つ

枯野から還りて仰ぐ街灯り

膝がしら確かに冬に入りにけり

日向ぼこAさんそしてBさんも