◆俳句月報・2016・9月号

1. 定例句会報 2016・8・28

            入選句

 

桑の実や日に三度の路線バス      チシ

終戦日餃子二皿食しけり        ヤミ

片づけて二つ並べる籠枕        チシ

秋澄みぬ山頂までの七曲        シケ

新そばを信州五岳の真ん中に      シミ

離れ住むいもうと二人星祭       イカ

二つ三つ良きこと続く秋に入る     アノ

下谷から朝顔届く誕生日        チシ

老いてなお母の領分盆の花       シケ

仏壇の西瓜を次男持ち帰る       イカ

西瓜割家族総出の海の家        チシ

 

●添削句

原 句 新そばや信州五岳の真ん中に

添削句 新そばを信州五岳の真ん中に

 

 ※原句では、作者の立ち位置が不明です。「や」の使い方をしっかり身につけましょう。

 

原 句 二つ三つ良きこと続き秋に入る

添削句 二つ三つ良きこと続く秋に入る

 

 ※原句では、そういうことがありましたという説明です。

添削句では、「二つ三つ良きこと続く」と「秋に入る」は、直接つながっていません。これが俳句の二句一章の俳句表現です。俳句表現の優れた技法です。

「き」と「く」の違いをしっかり味わってください。

 

例えば、映画で言えば、夏の日々に起こっている「…良きこと」が(それをを表わす場面が)すうっと消えてゆき、秋の景色がそれにかぶさるように入れ替わってくるという場面を想像すれば、このたった一字の違いが描く味わいが分かると思います。

 

原 句 仏壇の西瓜を次男提げ帰る

添削句 仏壇の西瓜を次男持ち帰る

 

 ※お盆などで皆が寄り合った時の帰り際、「どうせひとりじゃ蛇べ切れないだろう」といいながら、他の兄弟を差し置いて次男が持ち帰ってしまったという句で、いつでもあいつはちゃっかりしているな、と云ふ意が込められています。丸ごと持って帰ったということが分からないということで、「提げ帰る」にしたということのようですが、いまでも季語の西瓜は、切ったものではなく、まるまる一個。どうも説明しようという配慮が先に立つようですが季語が季語として使われていればその心配は無用です。変な技巧を加えると句を痩せさせます。

ここには挙げませんが、季語が季語ではないような使われ方がしている句が散見されます。

 

原 句 西瓜割家族総出や海の家

添削句 西瓜割家族総出の海の家

 

 ※「西瓜割」「家族総出や」「海の家」と三つに分かれいます。これを三段切れといい、句が言おうとすること、中心が何か?はっきりしません。いうなれば三句三章の句です。

どうすればよいか。何べんもすでに指摘していることですから句を示すにとどめておきます。

 

原 句 老いてなお母の領分花とり日

添削句 老いてなお母の領分盆の花

 

 ※「花とり日」とは、聞き慣れぬ言葉が出てきましたが、盆の花を支度することということでした。時には、造語も必要なこともありますが、むりむりの造語を慎みましょう。多くは造語とはわからぬように自然に句の中に溶け込んでいるものです。

 

 

◆ボツの句から

 

原 句 足止めり四角の西瓜売られいて

 ※珍しいものが売られていれば足が止まる。例えば、丸いはずの西瓜が四角であれば。西瓜である必要はなく、そういう珍しいものであれば、何でもよい。句としての目の付け所としては平凡。旬の食材などを店頭で見かけたとしたのならば、季節の到来を喜ぶ気持ちを描くことになり、俳句として成り立ちます。

この句では、更に「足」止めり」という日本語が使われています。こういう日本語はかって聞いたことがありません。

 

 

原 句 大当り尾花沢産西瓜かな

 ※「大当り」の意がはっきりしません。福引にでもあたったのでしょうか。あまり知られていない尾花沢産の西瓜。これがうまかった!と云う意であるならば、

 

 大当り尾花沢産という西瓜

 

とでもすれば…。意図ははっきりと分かります。

 

 

原 句 蜘蛛の子を散らしたように盆休み

 「蜘蛛の子を散らす」という季語があり、季語でないことをはっきりわかるようにしてみましょう。

 

原 句 雲の峰越えてどこまでビル工事

 ※「雲の峰を超えて」ゆくことなどできないでしょう。この句、

 

  雲の峰めざしどこまでビル工事

 

と云う事なのでしょう。

 

  

2.今月の吟行 2018・8月

吟行は夏休みですが、番外行事を行いました。8月6日・貝殻亭にて

 

ナニワイバラの花に覆われた貝殻亭・写真

 

3. 俳句の語句の読み方

・竹植うる日なりしバナナ食うべゐる

…竹植うる日は、「たけううるひ」。夏の季語で陰暦五月十三日を竹酔日という。この日に竹を植えると枯れないで根付くという。
…食うべゐるは、「とうべいる」。

 

・六月のつづくくつさめ埒もなし

…くつさめは、歴的仮名遣い。新仮名遣いなら、「くっさめ」。くしゃみ。

 

・足袋小鉤外して休む祭髪

…小鉤は、「こはぜ」。

 

・初蟬や室の八嶋の日の光

…室の八嶋は、「むろのやしま」。「煙立つ」に掛る歌枕として比定され、そう呼ばれているところ。栃木市、大神神社の一角にある。

 

・願い込め抱きつき柱初夏の寺…抱きつき柱は、「だきつきばしら」。会津中田観音にある世に言われている抱きつき柱のこと。この柱にすがれば、死の床に際しても苦しまずに成仏でき、家族に余計な負担をかけずにすむということで知られる。会津三観音の一つとして参拝者が多い。

 

・たたら踏むおばけ階段木下闇

…たたら踏むは、「たたらふむ」。この句では、から足を踏む意の「たたらを踏むの意」として使われているようです。
…おばけ階段は、「おばけかいだん」。根津駅近くの住宅街にある「のぼりとくだりで段数が異なる、世にも奇妙な階段」。急な曲がり角などもあったりとか…。

 

・汗の噴く鞨鼓をたたく体験す

…鞨鼓は、「かっこ」。

 

・試し打つ鉦鼓涼しく響きけり

…鉦鼓は、「しょうこ」。

 

・ひちりきを吹きて鳴らせる玉の汗

…ひちりきは、「篳篥」。

 

・ロビー夏烏帽子直垂行き交える

…烏帽子直垂は、「えぼしひたたれ」。烏帽子をつけ直垂を着けた人の意。

 

・龍笛の調べ沁みゐて涼しかり

…龍笛は、「りゅうてき」。

 

4. 今月の四苦八句

雑詠抄

 

 床の間の大名坐りの西瓜かな

 吾亦紅泪橋とふ名の残る

 口ついて守子唄出づ吾亦紅

 源家紋笹竜胆の盛りなる

 竜胆や帆の山々の峠口

 銜(食み)咬ませられる馬ゐる濃竜胆

 ボールペン色出し渋る秋思かな

 鉛筆の芯折れゐる秋思かな

 口ぐちに話飛び出る牛膝

 音の無き午後となりたる鰡跳ねる

 子供らの山車の来るぞよ秋祭

 鰡跳ねて祭の頃となりにけり

 行くごとに秋の祭の町のあり

 八千草や太鼓の鳴つて笛の鳴る

 鈍重を長所の一つ牛膝

 持つてきて邪魔になりたる猫じやらし

 天主閣色なき風に染まりけり

 色のなき風を描いてをりにけり

 とくとくと秋の雲行く飛行船

 秋草の中に埋もる遭難碑

 馬追をつかむいのちの緑色

 朝顔の中に隠るる家なりき

 雷の三つ鳴つたらなんとせう

 極楽も地獄も楽し盆灯籠

 面白う世過ぎをなさむ秋の雲

 犬の来て猫の引込む盆踊

 足許へ波の寄せくる盆踊

 太鼓打つ人の変れる盆踊

 秋出水白髪頭を寄りあへる

 秋出水役には立たぬ竜吐水

 台風の置きて行きたる無聊かな

 辻褄の合ふもあはぬもつくつくし

 見しことは無けれど蛇の穴に入る

 秋晴や博多献上帯の露

 一語づつ確かなりけり露の玉

 靴音の響けば博物館の秋

 鶴首の青磁手にする秋の風

 面相筆燈下親しくなりにけり

 披き見て燈下親しも関防印

 秋の夜のよよと傳七捕物帳

 晩節の秋の風くる一刹那

 パソコンと仲よく遊ぶ秋の風

 萩の花分けて巨漢の現るる

 いうなれば不立文字の秋の風

 鬼才とふ高き呼び名も秋の雲

 蜩や戸口に置かる回覧版

 終戦日にに曝される竜吐水

 つくつくし荒縄束子置かれある

 赤ん坊の声のつんざく大施餓鬼