◎俳句月報  2017・01月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・日比谷公園散策

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

 

◎1.定例句会報  2016・12月  2016・12・18

入選句

 

・二十歳にて逝きし子のあり寒昴     シケ

 

・冬うららゆずり受けたる江戸小紋    チシ

 ※ゆずりは、譲りと漢字で書く

 

・多摩武蔵御陵の落葉しぐれかな     シケ

 

・クリスマスツリーの下の独奏者     チシ

 

・冬紅葉紬織る音路地の奥        アノ

 

・暖炉燃ゆ話し上手を囲みいて      シケ

 ※話題で盛り上がっていることが「暖炉燃ゆ」の季語で生きてきます。

 

・一週間早まる句会十二月        オミ

 

・底冷やティラノサウルス展示館     アヒ

 ※「底冷や」と云う季語。自ら感じた感覚ですから通常の設備の行き届いた暖房の利いた展示室では   ないことになるのでしょうから、そんな場所があるのと?やや実感に欠けます。

 

・龍馬忌やぽっぺん吹きてひとり居る   ナミ

 ※坂本龍馬の人生とぽっぺんが響き合っています

 

・白足袋を脱ぎて両足伸ばしけり     ハセ

 ※雑な句ですが雑の良さが生きているように思えます

 

・室の花母の寝息に耳寄せる       シケ

 ※原句は、「耳寄せり」。自らの行動ですから「耳寄せる」です

 

・こがらしや寄木細工の土産店      チシ

 ※原句は、季語が「山茶花」でした。句の内容が変わっていることに留意してください。季語が作者の感情を代弁してくれます。添削でこれは、普通やりませんが、発想の転換、そのための指摘です

 

・数え日の中に未来を足してみる     ナミ

 ※龍馬忌の句と同じ作者です。今までの句から、少し抜け出したように思います。ただし、このような句は、歯止めがかからなくなりますので抑えていきましょう

 

 

◎2.今月の吟行 2016・12月… 2016・12・3 日比谷公園散策

作品抄

 

冬の朝見覚えありしソフト帽         イカ
霞門より菰巻の松見ゆる
銀杏散る日当たりながら地に池に
冬麗や啼きつぐ鳥の名を知らず
霜月の松本樓と見て過ぎぬ
          
石蕗と公孫樹の黄色競い合う         ミノ
紅葉狩カメラ持つ人持たぬ人
紅葉の池面にできるさざなみよ
金色の銀杏散る様小鳥めく
音楽堂公会堂も冬ざれて

          
紅葉の今日の盛りを見せて居り        オミ
ビルの窓黄落の庭映しおり
雀たち落葉の中に見え隠れ
移ろいの最終章や落葉散る
暖色の公園巡り冬うらら
          
藪蘭の黒き実ふたつ付けており        ハセ
初冬の日比谷公園人多し
タウンバス冬寒むの道走りゆく
公園の絨毯なりし銀杏黄葉
デッキにてコーヒー飲めば黄落す
          
総玻璃のビルに映りし冬の雲         アヒ
銀杏黄葉かつ散る朝の官庁街
冬麗や唐金の鶴水を噴く
ひと処木立の展け石蕗明り
日の当たる落葉に雀まろびゐる
          
公園も官庁街も黄落す            アノ
落葉掃く箒の音の官庁街
伊豆の踊子と名付けられいし冬薔薇
銀杏散る官庁街にひと気無く
冬晴やテニスラリーの続きおり
          
冬うらら挙式はじまる松本樓         イケ
日石濠比谷見附跡の散紅葉
ふゆううらら芝生へ親子乳母車
落葉掻く園丁の背のやや丸し
柔らかき落葉に遊ぶ雀たち
          
大銀杏影を写して池面は黄          タリ
黄葉を見降ろす懐し公会堂
紅黄に取り囲まれる心字池
小春日の紅葉公園空青し
紅葉の梢を越してビル林立
          
石畳へ影を映せる冬日かな          ヤミ
日向ぼこ二人ベンチの一人掛け
イベントは鍋まつりらし十二月
散策や首かけの名の銀杏散る
冬の日の霞門より入り出る
         
図書館も公会堂も十二月           トンボ
十二月セルフサービスレストラン
冬の日のきらきらきらと水ふぶく
わらび餅焼栗売も冬の空
石蕗の道行けば灯ともるレストラン

◎3.俳句の語句の読み

・半生に移徒知らず秋深む

…移徒は、「わたまし」。転居。引越。渡座とも書く。神輿の渡御の意もある。

 

・秋風やあの大髻の眼裏に

…御髻は、「おおもとどり」。この「大」は、髻と訓読みなので「おお」と読む。この句には、悼横綱千代の富士の前書きがついている。

 

・満月の闇の色濃し興福寺

…興福寺は、「こうふくじ」。古くは、「こうぶくじ」と濁って読んでいた。

 

・輪をつくり摂れる小昼や草紅葉

…小昼、「こびる」。飯時の中間にする食事。

 

・朝寒の瓦斯の口火の青き色

…瓦斯は、「ガス」。

 

・通草笑む傾聴というボランティア

…通草は、「あけび」。

 

・鬼の子の萩に宿れば萩の蓑

…鬼の子は、「おにのこ」。ミノムシの異称。

 

・七八六段登る象頭山うす紅葉

…象頭山は、「ぞずさん」。正確には、「ぞうずさん」。四国琴平町にある琴平山の事。

 

・通天橋スマホを閉じて見よ紅葉

…通天橋は、「つうてんきょう」。京都東福寺の通天橋は紅葉の名所として知られている。東大寺、興福寺を範とした壮大な伽藍を持つ臨済宗東福寺派の大本山。寺名は、両寺から一字をとって名づけられている。

 

・袋耳師の説く歴史千の秋

…袋耳は、「ふくろみみ」。一度聞いたことは忘れないこと。またその人。

 

・不忍池の黒き水面や敗れ荷

…不忍池は、「しのばず」。
…敗れ荷は、「やれはちす」。「敗荷」。「荷」は、「はす」「はちす」。茎が葉を担っているようにも見えるところから「担う」の意もある。

 

・重き荷の秋の恵みの畑つ物

…畑つ物は、「はたつもの」。

 

・黒々となりし峭壁秋の暮

…峭壁は、「しょうへき」。山の細くとがったさま。

 

◎4.今月の四苦八句   2016・12

雑詠抄

 

山茶花の花を散らして美しき

冬の日のまた新しき日の出かな

笹鳴や蓬莱橋は風の中

見も知ら人たちばかりクリスマス

中空に昼の月あり冬の百舌

禿頭の光り輝く虎落笛

寸言の叱咤の欲しき虎落笛

数へ日の蓬莱橋の橋の上

数へ日や前売切符手に入るる

数へ日のランチクルーズ乗船す

事始めなれども何にもせぬ日かな

何となく羽子板市へ来てをれる

閑中の忙となりたる返り花

野良猫へ勝手な名前青木の実

配達の人と行き交ふ年の市

引越の経験知らぬ龍の玉

宇宙へと背伸びしてみる龍の玉

蝶凍てて美しき日を残しけり

砥部焼の触れ合ふ音も冬なりし

冬帝の位に付きにけり毘沙門天

虎落笛十二神将うち揃ふ

手に取れる蕪一個の重さかな

一声や鶴の羽搏く息白し

冬銀河ひとには云はぬ誤算あり

綿虫や昼月掛る寺甍

雪螢ゆゑあるひとのゐるごとく

昼の月まとひ放れぬ雪螢

雑炊に腹の膨るるあはれかな

河豚の面弱みのありし心持

思はざる力もて撃つ冬の蠅

火の色のあな美しき十二月

冬帝や暑くて甘き白湯一碗

短日の電波時計の受信中

一瞬に見えて見えざる返り花

この辺に確かに蛇屋十二月

十二月八日は疾うに過ぎてをり

いただきし乾鮭一つ囲みけり

今年又お飾り売の立たざりし

昼月や満目枯るる大井川

あたたかき冬の日和の大井川

刃の入りて蕪の膚の潤みけり

大根煮る匂ひの中へ帰りけり

銭湯の裸の友も十二月

師走とは為果つことなり事始め