◎俳句月報  2017・02月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・小石川七福神めぐり

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

◎1.定例句会報  2017・1月  2017・1・22

入選句

・旧藩校廊下の訓示寒に入る     イア

 

※原 句 「藩校の廊下の訓示寒に入る」ですが、今から見れば、旧幕時代に使われていた建物の所見ですから「旧藩校」ということでしょう。

 

・大寒の川の名前の停留所      ヤミ

 

・買初の蛇の目の柄の湯呑かな    イケ

 

※原 句 「買初は蛇の目の柄の湯呑かな」でした。この「買初は」では、買ったものの報告。「蛇の目の柄の湯呑」を買った趣の句と思われますのでそのようにしました。

 

・年の酒五十過ぎたる子が二人   イカ

 

・バス待てる国際通りの初景色    チシ

 

※原 句 「バスを待つ」「国際通り」「初景色」と、三段切れの句でした。中七の「国際通り」が上五につくのか、下五につくのか曖昧です。このまま、「国際通りの」とすると中八の字余りになります。字余りを避けるためには、例えば上五につくようにしてみると上のような添削句になります。国際通りがどこか?浅草の国際通りと思われますが、横須賀とか沖縄を想像してみるとこの「初景色」にある意味が出てきそうです。

 

・梅の香や灯籠続く段葛       イア

 

・夫婦杉祀る社の六花(りっか)かな アヒ

 

※原 句 「夫婦杉祀る社の六花(むつのはな)」。

六花は、雪のことで確かに「むつのはな)という読みもありますが、…?

 

・しあわせやいつもの目覚めお元日  イア

 

・四捨五入すれば九十初湯殿     イカ

 

・かるた取るいろはにほへと美しく  ヤミ

 

※原 句 「かるた取りいろはにほへと美しき」ですが、締まりのない句になっています。「かるた取る」と上五で切って二句一章にしてみるとメリハリのある句になります。

 

・図書カードもて買初の易の本    アヒ

 

◆常識を踏まえて

常識を踏まえて常識を超えましょう。

 

日常生活では、常識を踏まえることが大切。奇矯な振る舞いは人から後ろ指をさされますね。

日常生活を俳句に詠もうとすると、そのせいで、どうしても常識が頭によぎります。

ここで注意しなければならないことは、常識は、どなたにも共通することで、当たり前のことです。実例です。下の2句は、二人の人が同じような句が偶然揃いました。

 

  一つ終へ一つ忘れる年の暮  

  一つ成し一つ忘るる年の暮

 

先月の句会に投句されました。

 

同じような生活環境であれば、同じような発想をすることも不思議ではありません。

誰かが同じものを作っていると思って間違いがありません。そして今までどれほどそのように詠まれいるかもしれません。

句が出来たときは、誰にでもない、「これが私だけの思いだ」ということ、そのような目でに見直すことが求められます。

 

今月の句から、その点を意識してその幾つかの句を見てみましょう。

 

・作業衣の折目くっきり初仕事

 ※初仕事と云えば、新しい気持ちで迎え、着るものも、おろしたてか、旧年からのものであっても洗濯をし、アイロンをかけるなど、場合によっては、折目がくっきりしと見えるものを身につけます。「初仕事」という季語を置けば、その様なことが連想されます。

敢えて、あれこれと云わずとも季語が語ってくれます。たとえば、「朝礼をもって始まる初仕事」などとすることで、「初仕事」という季語の力で、立ち働く、折目のくっきりとした 作業衣を着た人たち、それがが見えてくるでしょう。そして、その職場の雰囲気までも見えてくるでしょう。季語の力を信じることを学びましょう。季語には、日常生活のあれこれやや仕来り、常識などなど、あらゆるものを抱え込んでいる魔法の言葉です。

 

・襲名の子役華やかお正月

 ※正月というハレの日には、華やかなイメージがついてはなれません。子役の襲名という華やかな場面を取り合わせていますが、屋上屋を重ねています。襲名した子供か、正月の句なのか?どちらにせよ「華やか」は、どちらにも含まれています。なお、「お正月」・「お元日」などの「お」は、俳句では、この句で見る通り、避けることが好いということも分ることでしょう。

 

・半襟を白と決めけり大旦

 ※正月を機に新しく新調した白い肌着などを身につけます。正月に白の半襟を新調することは、今までは、ごく常識的な事だったのではないかと思われます。

それは古い常識で、今では、柄もの、あるいは、赤などそういうものを用意するのでしょうか。「決めけり」とありますから、決断してその中から白と決めたという事なのかもしれませんね。発想を大きく飛躍していて、どうも馴染みません。

伝統的な仕来りを楽しく享受することをテーマに詠むことは決して悪いことではありません。

いわば常識を踏まえて作句する、これも一つの態度です。そういう自分の内面をを描いたらならば、格調高い句になるように思えます。

 

・ひもじさを群れて分かつや寒雀

 ※雀たちにとってこの大寒という時期は、食べ物の少ない時期ですが、その時期だからこそ群れをつくります。その通りに、この句には、そう言う事が説明されています。この句も「寒雀」の季語を説明しているようです。「ひもじさ」とは作者の把握です。そういわずに、読者の読む楽しさを残すことも残してほしい所です。

 

・餌台に寒雀待つ爺と婆

※この時季の雀であれば、餌を撒けばすぐにやってくる事でしょう。餌場をつくって来る鳥を待つことはよくあります。「寒雀」に注目し、この句では、この爺と婆は、自分たちの自画像とも思われますからその観点からもう一度挑戦してみてください。

 

 

・初夢の枕の下の宝船

・宝船枕の下に敷きにけり

 ※前述の「年の暮」の句と同じ状況です。あるがままに、あるがままのものを安易に組み合わせることから早く抜け出て欲しい所です。古典的な素材を敢えて取り組ことはある面貴重です。

 

当たり前にあるものの中の、そこに新しいものを見つけること、それが作品をつくるということ。

 

見慣れた旅先を、新しい見方でその地を見ること。そんなことを心がけてみましょう。

 

◎2.今月の吟行 2017・1月… 2017・1・7       小石川七福神めぐり

          
蹲に蠟梅一片浮かびをり       チシ
冬麗や東京ドーム福禄寿
駅員にマップを貰ひ福詣
初参り師の待つ駅は茗荷谷
咳止めの地蔵のおはす福詣
冬麗の善光寺坂歩きけり
傳通院墓所の広さや梅の花
          
坂多き小石川なり福詣        イア
冬うらら禿坂てふ裏通り
冬日差布袋の腹の影つくる
墓地抜けて布袋尊あり福詣
すれ違う善男善女七日かな
凍土を踏みて探せる於大の墓
冬麗の千姫の墓静かなり
          
山内に馬琴の墓や冬の梅       アノ
人日の日本晴れなる坂の町
閻魔大王祀る本堂注連飾る
千姫の墓に詣でる七日かな
ビル谷間八百屋に香る七種菜
縄暖簾メニューにありし七日粥
          
にぎやか来てはにすぐ去る福詣    シミ
息切らす禿坂すぐ初弁天
坂多き小石川なる七福神


七福神めぐり巡って身も軽く     ハイ
ご朱印にあられ付いてる伝通院
初詣お願いするより頭垂れ
病み上がり運をとらまえ寺めぐり
寒空に七福神への人の列
          
人日や七難除へ行くとせむ      トンボ
七種の粥を頂き七福神
大黒も住持も見えぬ七福寺
福詣列が伸びたり縮んだり
七福神参りの冥加茗荷谷
次の福その次の福松の内
日本晴遠くに標旗七福神

◎3.俳句の語句の読み

・円相の窓の向うの冬紅葉

 

…円相は、「えんそう」。円形の窓のこと。禅で、悟りの境地として描く円輪が此処から連想される。禅寺の窓。

 

・緞通に靴の沈める冬薔薇

 

…緞通は、「だんつう」。

…冬薔薇は、「ふゆそうび」。

 

・こがらしや松の騒げる行在所

 

…行在所、「あんざいしょ」。天皇の行幸の際の仮の住まい。行宮とも。「行」を「あん」と読むのは、唐音。

 

・御門跡門にはじまる敷松葉

 

…御門跡は、「ごもんぜき」。
…敷松葉は、「しきまつば」。霜よけ、または趣をそえるために寺に敷く松葉。冬の季語。

 

・氷頭膾弟の忌のひとり酒

 

…氷頭膾は、「ひずなます」。鮭の頭部の軟骨を膾にしたもの。

 

・木枯やかかりてをりし八日月

 

…八日月は、「ようかづき」。月齢八日の月のこと。旧暦の七日~八日の夕暮れ時、真南に右半分が輝いて見える月。上弦の月。

 

・亥の子餅母のひと日の始まりぬ

 

…亥の子餅は、「いのこもち」。陰暦十月の亥の日に餅を食えば万病を除くことが出来るといわれている。その亥の子祝いに食う餅。

 

・十六夜のスーパームーンを拝しけり

 

…十六夜は、「いざよい」。旧暦十六日の月。 十五夜よりは少し遅く、ためらいがちに出てくるのでこの名があります。季語でいう「十六夜の月」は、陰暦八月十六日の月のこと。この句は、内容から月齢十六夜の月と思われます。

 

・心地よく脳に傳はる落葉踏む

 

…傳はるは、「つたわる」。「伝」の旧字。

 

・天地のあはひ冬日のモノレール

 

…天地は、「あめつち」。
…あはひ、は「間」。

 

・末枯や役行者の天駆くる

 

…役行者は、「えんのぎょうじゃ」。山岳修行者、修験道の祖と云われる伝説的な人物。

※役行者像・品川寺

◎4.今月の四苦八句   2017・1

雑詠抄

 

風花や無言の町の動き出す

初能のくさめをもつてはじまれり

物置へ物を持ち込む霜の道

花びらを三片乗せる浮氷

浮氷浮きて此岸を離れ行く

一声に一声応ふ寒烏

一羽来てにぎはい出せる寒雀

鮟鱇のくるりと皮のめくらるる

鉢巻の魚屋店主鼻坐る

大鼓(おおかわ)の一打めでたきはつ能会

箒目や九山八海虎落笛

頬被ほどきて正体見せにけり

着ぶくれる中身の人へ用のある

此岸から解き放さるる浮氷

足遣い見せずに二羽の鴛鴦行ける

末吉といふもめでたし寒雀

白息の息の争ふ男女かな

身を寄せてひとは集へる寒雀

冬眠の亀も蛙も愛をしき

人間に冬眠の無き恨みかな

下仁田の葱呉るる人居ずなりぬ

太幹の表は温し裏の凉

はらいそとこの頃聞かぬ虎落笛

虎落笛たれか現れきさうなる

寒水の貫く棒のごときもの

一文字味文字の今朝の温きもの

早々と雨戸の枢落し冬

掻き出して落葉の湯気の立ちにけり

をさなごの遊ぶを見れば虎落笛

水仙や写経の机覆面瓠(ふくめんこ)

冬空に鐘が鳴る鳴る蓮生寺

わが影の淡くも濃くも冬灯

寒餅や壺中の天地あるごとく

焼藷の車の後を寒行者

冬濤の上の朝日のくづほるる

冬の日の瞼の裏のあかあかと