◎俳句月報  2017・03月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・池上本門寺・池上梅園

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

 

◎1.定例句会報  2017・2月  2017・2・26

入選句

 

クロッカス母の青春知らざりし       シケ

春や寒む鏡に映る喉の皺          イケ

どこからか聞こゆハモニカしだれ梅     イア

春怒濤流人の島の物見台          イア

保養所へ出す申請書山笑ふ         チシ

万太郎生誕の地の芽吹きかな        アノ

神頼み叶いし顔や梅の花          オミ

朧夜の三十階のレストラン         シケ

吉報の十五の春となりにけり        オミ

山笑ふ伊豆七島を従へて          ヤミ

山笑う行き交う人とこんにちは       アノ

山笑ふ村に赤子の生れゐる         アヒ

展望台行のリフトや山笑う         シケ

 

添削句

原 句 春浅し鏡に映る喉の皺

添削句 春や寒む鏡に映る喉の皺

 

原 句 春怒濤流人の島の展望台

添削句 春怒濤流人の島の物見台

 

原 句 山笑ふ保養所へ出す申請書

添削句 保養所へ出す申請書山笑ふ

 

原 句 山笑ふ村に赤子の生れゐて

添削句 山笑ふ村に赤子の生れゐる

 

 

自然観は、文化。

 

我が国における季節感や歳時感覚は、自然発生的に生まれてきたものではなく、歌会や連歌など、集団制作などにおいて制度として発生してきたものと言われています。

言い換えれば、参加した人たちが共同で認識し発展させてきたものです。

 

その一例として

 

瀧澤馬琴編の『俳諧歳時記栞草』の「梅」の項から一部抜粋

 

曰く、

 

梅に四貴あり。

 

稀なるを貴びて繁きを貴ばず、

老いたるを貴びて嫩きを貴ばず、

痩せたるをたっとび肥えたるを貴ばず

莟を貴びて開きたるを貴ばず

 

というように。

 

翻って、梅といえば、このようなことをほぼ共有していることに気づきます。

 

不易流行を繰り返して生き続け、また淘汰されていきます。

 

残って共有しているものをまとめたもののひとつが「歳時記」です。この収められてものが文化遺産。

 

共有されているものは、あれこれ言挙げする必要がないという事でもあります。

 

自然界にある目に見える「梅」とは別に、たとえ目に見えずとも、あれこれ言わずとも「梅」は、存在していることをしっかり腹に納めておきましょう。

 

 

◎2. 2月…今月の吟行…  2017・2・4        池上本門寺・池上梅園  句会・園内和室にて

          
本門寺絵馬を鳴らせる東風の吹く    チシ
三椏の咲ける寺領地歩きけり
早春や手焼せんべい買うてゐる
警備員と挨拶交す梅の園
春がすみ五重塔を透かし見る


          
上りきて境内からの春の富士      イア
紅椿硯水道ほの暗し
水温む水琴窟の音やさし
梅園は四分咲きとある人出
梅の丘かすかに聞こゆ町の音
          

 

梅の香や池上沿線寺の町        アノ
空に入る五重塔や春の立つ
総門の脇の石屋のシクラメン
のどけしや寺門に落語会案内
立春や戸口に犬の寝そべりて
          

 

梅園へひとり遅れて吟行に       ハイ
豆まきの舞台に人の叫び跡
節分の帰りに妻へ餡蜜買う
暖かさ香りも愛でる梅の枝
梅園で物知り老婆に謂れ聴く
          

 

梅の香や池上一丁目一番地       オミ
門前の髭題目や梅の花
春浅し未完の龍の由来あり
春眠を誘う日脚の座敷かな
世の中の事など忘れ梅の園
          

 

梅園にしだれ梅あり遅速あり      ミノ
四分咲きの案内ありし梅園へ

水温む池面に映る青き空
池の面梅の枝先水の音
朝市のビラの貼らるる梅の花
         

 

寺門前ひげ題目や春陽受け       タリ
芽吹き近い枝を透かして五重塔
山門への石段横に梅満開
春の寺仏教由緒拝聴す
本殿の甍の反りや春立つ日
          

 

目を丸く語る子供等梅蕾        シミ
観梅の男同士の缶コーヒー
梅の寺乳鋲のひとつ欠けており
梅園の紅濃き方へ向かい行く
紅椿大坊坂の多宝塔
          

 

山門を抜ける春風富士見ゆる     ヤミ
知らねども奉納絵馬のうららかに
紅梅の照らす一隅あかず門
のどけしやたんぽぽ入りの菓子食べて
座布団を晒す廊下へ春日かな
          

 

梅香る平成二十九年も        トンボ
白梅や水輪拡げる水の音
紅梅や昆布茶一杯いただける
池上も二丁め辺りしだれ梅
梅園や味噌汁海苔の握飯

 

◎3.俳句の語句の読み


・数え日のふとの声耳もとに

 

…考は、「こう」。亡父。

 

螺髪ひやりと冬の月

 

…銅は、「あかがね」。

…螺髪は、は、「らほつ」。仏像の頭部の髪の様式。

 

・雪吊やつまびく風の五重奏

 

…つまびくは、①「爪引く」弓弦を指先で引く。②「爪弾く」。弦楽器の弦を指先で軽く弾いて鳴らす。

 

の手水に透けり時雨雲

 

…陵は、「みささぎ」。

 

・念仏や白寿の父の暮の葬

 

…白寿は、「はくじゅ」。百の字から一をとれば白となる所から九十九歳のこと。
 
・風冴える生田の森の赤鳥居

 

…生田の森は、「いくたのもり」。生田神社の境内北側にある鎮守の森。 平安時代の『枕草子』に出てきます。特に源平合戦の戦場になったことは有名で寿永三年(1184)2月には平知盛を大将とする平家軍が生田の森に陣を構え、一の谷から生田の森へかけて一帯が戦場となるなど、歴史的に由緒のある森として知られています。主祭神は、稚日女尊。

 

・枝折れて近道ふさぐ枯

 

…櫟は、「くぬぎ」。

 

・一葉忌不折旧居に小庵あり

 

…不折は、「ふせつ」。
中村不折。明治・大正・昭和期に活躍した洋画家で書家。

 

籠耳や折合いつける熊手市

 

…籠耳は、「かごみみ」。
聞いたことをすぐに忘れること。

輪灯に油つぎたす冬至かな

 

…輪灯は、「りんとう」。
仏前に灯火を献ずるために天井から吊るした輪形の灯器。   ➡一例として

◎4.今月の四苦八句   2017・2

2月・雑詠抄

  

かげろふの向う側へは行けぬなり

かげろふの形に歪む二重橋

料峭や眼下にもの食ふ明り点く

春寒と云へば春寒確かなる

露座仏にまみえる膝や春寒し

春寒へ寝起きの顔を晒しけり

老木の白髪のごとく梅の咲く

池上線走れる町の梅香る

春寒や下車せし駅に人消える

あは雪の両手に受けて何もなし

沫雪や意味を問うても詮もなし

一つ見え徐々に見えくる蕗のたう

箒目のきびしく立てる余寒かな

小流れを古隅田川とぞ猫柳

あは雪の隙間だらけの土の色

きさらぎの夕べを光る一つ星

中天に太白星や沈丁花

春寒をなぜかしらねど心浮く

春寒の八〇年を迎へけり

剣玉とべいごまおはじき沈丁花

鏡には知らぬ自分や春寒し

何待ってゐるにはあらじ春の来る

晩鐘を聞きとめをれる沈丁花

恋猫の首尾をしらねどほぞ落す

年輪を一つ加へる春の雪

木偶の首置かるる畳春の闇

はこべらや生れし地はた終の土地

半生を春の寒さとあるばかり

半生のこの日の春の寒さなる

冴返るものに家人の留守の家

春水の石の高さを越え行ける

茹で玉子剝かれて光る春や寒

茹で玉子食へる紅唇春の雪

手から手へ抱かる赤子山笑ふ

山笑ふ育てられゐる七面鳥

春の雲夢まぼろしの茫茫と

うすらへる徒然草を読むやうに

京西陣小川通の薄氷

目薬の眼にとどく春や寒

白梅の花咲きつげよとこしなへ

白梅の中に紅梅壺中天

佐保姫に愛に出かける新幹線

風船の後をつき行く上野山