◎俳句月報  2017・04月号

 

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・芝・増上寺

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

 

 

 

 

◎1.定例句会報  2017・3月  2017・3・26

入選句

 

雛の日の小児病棟灯りけり         シケ

入学児囲みてファミリーレストラン     チシ

むらさきに春あけぼのの筑波山       イカ

蜃気楼雲上人の夢の跡           ナミ

梅香る好文亭の襖の絵           オミ

三月やまた来てしまう誕生日        オミ

うららかやかいなの白さハッとする     ハイ

じゃんけんで負けてちょうちょになったのさ ハイ

さくら餠女系家族と言われても       シケ

さくら餠娘数への五十歳          アヒ

 

 

原 句 さくら餅女系家族と言われいて

添削句 さくら餠女系家族と言われても

 

 

見かけない句を入選としていますが、新人の句をあえて採り上げました。

同じような発想の句に飽き飽きしています。

 

◎やや違和感のある言葉遣いの句

 

・推し量る母の介抱鳥雲に

・春ともしとろみばかりの母の膳

 

年老いた母の介護を詠んだ句ですが、どこかに潜む違和感がぬぐえません。

 

 

◎2.  今月の吟行 3月 芝・増上寺 2017・3・4

作品抄

          
御忌近し三解脱門普請中       イカ
梅の昼寺領の鴉よく啼くよ
春日向雀来てゐる水盤舎
囀や仏足石に日のさして
春めきぬ金色の鴟尾日を返し

 

         
鳥曇り大本山の大庇        アノ
名にし負う芝の梵鐘木の芽風
大殿の地下の宝殿冴え返る
唐金の皇女の墓や桃の花
大庇の先にタワーや鳥帰る 

 

         
春昼や廟に輪袈裟の案内人     アヒ
八重椿墓に静寛院宮
春風や幣の祓へるオートバイ
春寒の闇もて篠田桃紅展
どこからもタワーの見えて木の芽風 

 

          
梵鐘の龍の彫刻冴返る       チシ
集合の三解脱門犬ふぐり
金色の鴟尾に春日の当りをり
秀忠公お江の墓や春浅し
春の昼ガイドと共に墓所歩く 

 


芝公園木々の芽吹きの始まれり     ミノ
増上寺東京タワーも木の芽風
一本の徳川墓所の紅椿
代々の将軍眠る墓所の春
三縁山広度院増上寺山門春

 

          
春の来る東京タワーの王者振り     シミ
石段の一段ごとに春の来る
御霊屋の閉ざされし門春兆す
うららかや歌碑を読む人歌う人
赤多き花壇に蝶の輝ける

 

          
増上寺ながめてあきぬ春の風      ハセ
石段をのぼって行けば梅の花
啓蟄の前日なれどざわめける
梅香る徳川譜代の寄進門
木の芽吹く人出の多き増上寺 

 

         
木の芽吹くなむあみだぶつなむあみだ  トンボ
はこべらの芝大門の膝元に
御霊屋の動く気配の春の闇
エレベーター下りゆく春の闇の中
珈琲の香りに俳句降りてくる

◎3.俳句の語句の読み

・虎落笛たれか現れ来さうなる

 

…虎落笛は、「もがりぶえ」。冬の季語。虎落とは、枝を落とした竹を互いに組み合わせ。縄で結び付けた柵で家の囲いや砦に用いた。竹矢来。海岸で海からの風を防ぐ為に植えられた物が風に鳴る。都会では、電線などが風に鳴る事にも言う。殯の宮にも通じるとは、これは、私見。

 

・箒目や九山八海虎落笛

 

…九山八海は、「くせんはっかい」。

仏教の世界説で、金輪上にある世界。これを庭園に表現したもの。

 

・浮氷浮きて此岸を離れ行く

 

…此岸は、「しがん」。
彼岸があの世とすれば、此岸は、この世。

 

・水仙や写経へ机覆面瓠

 

…覆面瓠は、「ふくめんこ」。 写経の時にするマスク状のもの。

 

・年詰まる妻の立ち日の花買うて

 

…立ち日は、「たちび」。命日。

 

・夫婦杉祀る社の六花かな

 

…六花は、「りっか」。雪のこと。

 

・初釜の客はさまざま裏表

 

…裏表は、「うらおもて」。
この裏表は、裏千家、表千家の意のようです。

 

・山門に雲水おはす初大師

 

…雲水は、「うんすい」。

 

・半襟を白と決めけり大旦

 

…大旦は、「おおあした」。元日の朝。

 

・除夜詣混じりてをりし火事羽織

 

…混じりは、「まじり」。本来この字は、いろいろの物が一つになって区別がつかなくなることを表す字。

 

・傳通院墓所の広さや梅の花

 

…傳通院は、「でんづういん」。小石川にある浄土宗の寺で寺院の名は、濁って「でんづういん」。家康の生母の家康の生母の方の墓があり、「でんつういん」は、於大の方の諡号。

 

・大黒も住持も見えぬ七福寺

 

…大黒は、「だいこく」。
この大黒は、寺の奥さんの意。

 

◎4.今月の四苦八句   2017・3

雑詠抄

 

平成も二十九年桜餅 

をのこにもゑくぼ現はる桜餅

手を挙げて背すぢを伸ばす春の風

青き踏む小草の声を聞きながら

如月や夜目には見えぬ音のする

春の風河馬の半身水を出づ

春の風キリンの首を置いてゆく

踏青の仏足石を起点とす

大空ゆ藁を咥へる雀行く

踏青や杜甫の山河にあらねども

三月の押し来る水を見送れる

波羅蜜多紋白蝶の出でませる

寒暖計湿度計にも四月来る

鳥雲に音無き大河隅田川

たんぽぽの踏まれて泪乳の色

人過ぎるたびに辛夷の傷み行く

春潮や始めも果ても見も知らず

焼海苔のぱりぱりぱりり春の来る

はこべらやしやがみて膝を地に着ける

一蝶に晴天の空拡がれり

物の怪のそろりと出る春の夕

不覚なる交める蟇の泥まみれ

逃げ水の人追ひかけ行けばそれが恋

揚雲雀二つ三つと数へゐる

何事も無き世なりけり落雲雀

花桃の童女の顔に映りをり

大根の花に埋まるホーム下

日本橋室町通りチューリップ

正論のどこか疎まし四月馬鹿

かげらふの隅田川辺の物狂

をちに犬こちに雲雀の落にけり

土筆らのをちこちにも起ちあがる

空の紺すみれの紺の峠道

馴染まざる世間を哭ける万愚節

下萌え屋幸も不幸も胸の内

風船や開かぬものに胸の内

腹からの笑ふ声出すしやぼん玉

仕舞いおくことの叶ぬしやぼん玉

しやぼん玉世間の映る七変化

折返し点を先きにし青き踏む

一吹きに百箇生るるしやぼん玉

忘るるを楽しくなりししやぼん玉

ふらここの右へ左へ八十路来る

吊橋の上を蝶々の連れのあり

歌はるる霞む故国の朧かな

門冠松に蕊立つ猛る犬

反橋から平橋渡る花まつり

音もなく汐の差しくる潮干狩

顔赤くなれば帰宅や潮干狩

亀の鳴くことを信じる戦なぞ

説得のままや叶はぬ亀の鳴く

亀の鳴くけふの予定の何やかや