◎俳句月報  2017・05月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・すみだ北斎美術館

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句  

◎1.定例句会報  2017・4月  2017・4・23

入選句

 

単線の一番線の燕の巣        アヒ

踏青のモンゴル人と言う親子     オミ

駅前の料理教室水温む        シミ

昼酒の谷中寺町花曇         アヒ

北国の花は一気に呼びかける     ハイ

初摘みの新茶と大書宅配便      アノ

桜咲く兵どもが夢の跡        タリ

伽羅の香のただよう花の寛永寺    イケ

梅若忌塚へ案内の新発意       アヒ

いつの世も母の思いは梅若忌     ハイ

大川を行き交う船や梅若忌      ミノ

惻々と川の匂へる梅若忌       ヤミ

墨堤の風ふと止みぬ梅若忌      ナミ

 

※1 

 兵どもが夢の跡の句

かの芭蕉の句のパロディですが、この勝者は、勝ち組かな?

そんなところが面白い。

 

※2

 踏青のモンゴル人と言う親子

季語の「踏青」は、自分自身がそうしているという状況で使うもの。そうするとあいまいな表現になります。連れだってそういう境涯を聞いた句だとするとさらのその意が伝わるように工夫しましょう。例えば、<踏青や連れ立つ親子モンゴル人>など。

 

※3

 駅前の料理教室水温む        

料理教室に通っている自分自身が水道の水がちょっと変わったな、感じたのであればこの句はこれでよいでしょう。駅前にある料理教室のことを詠むのであれば、それに見合う季語を斡旋しましょう。

例えば、<駅前の料理教室朧月>など。

 

この二句のように自分の立ち位置をはっきりわかるように詠むことを心がけましょう。

 

●ボツの句から

 

・甘茶仏つま先立ちの児の先に

※この句は、つま先立ちの児のに前に甘茶仏があるという内容で単なる説明です。

 

 これを

  甘茶仏つま先立ちの児が前に 

 

「甘茶仏」とここで切れて「つま先立ちの児が前に」

と、上5と中七と下五の12文字の合わせて17文字で出来上がった句になっています。こういう形の句を2句1章の句といいます。特徴は、この二つの関係を意味付けしていません。これが切れ字の効果で、言われていないけれどそうだろうと分かります。

 

内容は、自分の前でにつま先立ちをしながら甘茶をあげている子供がいる様子を詠んだ句に変わっています。甘茶仏の位置を詠んでいる句から子供の愛らしい情景に句の焦点が移りました。これがこの句のポイントです。

 

歳時記の例句をひとつずつ見ながら、上五は次の中七と下五12文字と意味のつながり持っていない、つまり切れ字を使っている句を見つけてみましょう。沢山見つかることでしょう。言わないで必要なことが言われていることに気づくはずです。

 

甘茶仏つま先立ちの児が前に

 

が、形の見本のひとつです。

 

この機会に、上五(多くは季語)に、中七+下五の12文字を添えて17文字にする、という形をしっかり学びましょう。この形をこの逆の下五にすれば、これもまた、有力な武器になります。

 

 

 ・駄菓子店に屯しにける梅若忌

※梅若忌に子供や駄菓子屋を配することは正解ですが、なんとも窮屈です。

<駄菓子屋に屯すこども梅若忌>とでもすればごく自然でわかりやすく味わい深くなります。

 

・木の芽風きざはし登り古戦場

※この句は言葉を盛り込みすぎです。

 

  木の芽風登りて行けば古戦場

 

でよいでしょう。

 

この作者の句は、言葉を盛り込みすぎて肝心の内容が希薄になっています。「きざはし」を削ったことでその場面が大きく広がってくることに注目してください。言葉少なくして含意を生かす工夫をしてみましょう。おのずと中身の濃いものになることでしょう。

その方法は、甘茶仏の句のところで書いてあります。

 

◎2.  今月の吟行 4月 すみだ北斎美術館 2017・4・1

          
野見宿禰神社を飾る白椿       チシ
花三分北斎たずね美術館
いとをかし北斎漫画万愚節
花冷の北斎通りといふをゆく
万愚節外国人と乗りあはす

 

          
春の夢時間不足を託ちおり      シミ
北斎の仕掛け見ぬけぬ万愚節
足止めて富嶽一景うららなり
画狂老人遊びし花のすみだ川
春の夜北斎ブルーのエアメール

 

          
春寒の相撲聖地の駅に降り      オミ
花咲くや墨田区北斎美術館
錦絵の色の鎮まる万愚節
亀鳴くやおばけ妖怪北斎展
力士たち巡業先よ留守桜

 

         
桜道ずんぐりむっくり家康像     イア
割下水跡の道ゆく桜かな
力士の名並ぶ神社の青木の芽
花冷や錦絵見入る北斎展
花曇北斎通り湯屋のあり


          
北斎を訪ねすみだへ春の雨      アノ
花三分昔大名屋敷跡
碁盤目の北斎通り四月来る
この道は元割下水花の昼
花三分静けさ極む国技館

 

          
春のそばへ北斎通りてふ通り     アヒ
胴に吹く蕾にしとど花の雨
野見宿禰の社に詣づ花の昼
すみだ春モダン・シャープな美術館
先頭も殿も老青木咲く

 

          
四月馬鹿明日まで北斎企画展     トンボ
そばへるはこれぞわれらへ咲ける花
花の雨相撲の神の眠る杜
桜咲くスマホに魂吸はれゐる
花の雨ひつそり閑と国技館

 

◎3.俳句の語句の読み

・はこべらや生れし地はた終の地も

…終は、「つい」。
 

・紅梅の中に白梅壺中天

…壺中天は、「こちゅうてん」。壺中の天とも「一壺天」とも言う。日本大百科全書に、〈中国、後漢の費長房がかつて市の役人をしていたとき、薬売りの老人が店をしまうと、店先に掛けておいた壺の中に跳び入るのを、だれ1人気づかなかったが、費長房ははるかに楼上からこれを見、老人に頼み込んで壺の中に入れてもらったところ、中にはりっぱな建物が建ち並び、美酒佳肴がいっぱいあり、費長房は、老人とともに歓を尽くしたと伝える、『後漢書』「方術伝」の故事による。[田所義行]〉とあります。その故事を踏まえた句。
 

・とつおいつはがき一枚春めきぬ…とつおいつを「広辞苑」では、「(取リツ置キツの転)あれこれと。特にあれやこれやと思い迷う事」とあります。
 

・花つらね吾が誕辰の白椿…誕辰は、「たんしん」。
生れた日。
 

・描きかけの龍ををろがむ春寒し…をろがむは、「拝む」。
 二頁・ややもすれ介護一年山笑う…ややもすれは、「広辞苑」によると「動もすれ」。ともすれば。どうかすると。

・葱鮪鍋熱燗チロリほろ酔いに

…葱鮪鍋は、「ねぎまなべ」

 

…チロリは、「銚釐」。火床の灰や湯の中にさし込んで酒を温める容器。趣のあるチロリは時代劇の映画などでみられます。右の写真は、一例。

 

・家刀自も歌も世につれ春の雷

…家刀自は、「いえとじ」。「いえとうじ」とも。一家の主婦。
 

・ティツィアーノ描きし裸体画人の春…ティツィアーノは、ティツィアーノ・ヴェチェッリオ。盛期ルネサンスのイタリア人画家とのこと、よく知りません。

◎4.今月の四苦八句   2017・4

雑詠抄

 

春眠の帯解駅へ着きにけり

春暁の騒ぎ納まる車去る

長屋門門前飾る花蘇芳

門冠松のぞろりと芯の立つ

大海へ身を乗り出せる松の芯

松に習ふことのありける緑立つ

猛犬に注意の札ある松の芯

緑立つ松の向うの太平洋

登らずに見てゐるばかり松の芯

老松の身の程知らず緑立つ

百千鳥欅の大木伐られゐる

般若心経六百巻や豆の花

豆の花八十歳になりにけり

この先は海へつづける豆の花

一日にバスが三本豆の花

次の世にをのこがよろし豆の花

青葉風千手千眼観世音

青葉風身体髪膚貫ける

新緑の色に眼の染まりけり

新緑の真只中を水流る

大井川八十八夜の茶摘唄ふと誰か八十八夜と云ひにけり

藤の花揺れ止みしかば乙女来る

ぽんせんべい跳ね出て藤の浪生る

筍の赤子のごとく香りけり

到来のたけのこごろりと出でませる

また一つ歳を加へる五月来る

夏立つや八〇歳はもうすぐに

愛鳥週間吾が八〇歳のはじまれり

物はこぶありを見てゐる夕べかな

見るべきは見つといへぬ朴の花

冬青の花桐の花咲く大地かな

明日伐らる欅大樹の芽吹きをり

チェンソーの音の鎮まる青葉山

この頃や人を思へば匂ふたちばな

乳房のゆさゆさ春の行きにけり

橘の匂へえる日々の恋しかりけり

あの辻に見えて懐かし桐の花

有耶無耶な消息ばかり遅桜

遭いたるは峠の余花の花の空

三四郎池に今年の蝌蚪生る

向う行くは彼の人蝶の行く

向うには蝶の道行春の闇

彼の国に泣ける母ゐる梅若忌

笹一本持てる人あり梅若忌

語られる萎の様も梅若忌