◎俳句月報  2017・06月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・代官山界隈散策

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

◎1.定例句会報  2017・5月  2017・5・28

入選句と評

 

●校門はかつて城門麦の秋       アヒ

※情景はよくわかります。ただ、「かつて」とあることで景というよりもそういう場所という説明になってしまいました。説明ではなく景として詠むことが大事です。このまま、「かつて」を省いても工夫すれば、そういう一句になるように思えます。

 

●初鰹一献の談はずみけり       イケ

※作者の事であれば、これで完成。一座の誰彼などの所見であれば、そのように詠むという詠み分けをすることになります。自分の立ち位置を意識して詠むことが大事です。

 

●松の葉と書かれし新茶届きけり    シケ

※先月、<初摘みの新茶と大書宅配便>の句がありましたが、送り主の顔がそれぞれ想像されます。

上書に寸志と書く代わりに松の葉と書くことがあります。そのことに心ひかれたのでしょう。

 

●浦島草つり具自慢の太公望      シミ

※浦島草は、花穂が垂れていますので浦島太郎の釣竿が連想されて名づけられたといいます。

湿地に生えるものですからこの釣り場は、沼などと思われます。場違いな釣竿をつかっているので少しからかい気味に「太公望」と言ったのでしょう。実景ではなく、意図的に作られて句のようです。

 

●母の忌の筍ごはん澄まし汁      イア

※母の思い出の句。小難しいことは言わずにおきましょう。

 

●豆飯のの匂いただよう仲直り     ミノ

※<豆飯の炊く香ただよう仲直り>として採りました。

 

●風薫る胸にせまって一入だ      ハイ

※八方破り、初心者の何物にもとらわれない句です。いい悪いは言わずに見守っていきましょう。

いつの間のか形だけの句になっていきますがそうならぬように育ってほしいと思います。

「一入」は、「ひとしお」と読みます。

 

 ●母の日の母は眠っているばかり    シケ

※具体的で情景も事情もよく分かってしまいます。そこがこの句の欠点と云えます。この句会では、初見の句であっても多くのところで全く同じ句が蔓延していることでしょう。

作者にとっては、大事な一句のはず。捨て去ることなく、人に見せる自分の一句、作品としてまとめて欲しいと願っています。

 

●杜若無人の野菜販売所        アノ

※杜若の季節だけ設けられる無人の野菜販売所と言う事でこの句は成り立っています。そんなことは何処にも書いていない、ということなかれ、言外の言をよく聞いてほしいものです。

 

●杜若砥石をあてる花鋏        シミ

※原句は、「砥石に」でしたが掲句のようにしました。研ぐことを砥石をあてると言います。

 

兼題は、「杜若」でした。杜若と云えば在原業平と連想されますが、これは「伊勢物語」にカキツバタの名所八橋、池鯉鮒(ちりう)に立ち寄った男のことが出てくる場面があることからです。

 

伊勢物語は、一話づつ「昔、男ありけり」で始まりますが、いつの間にか、この男は在原業平だということになっています。

東下りの際に、立ち寄ったであろうという伝説から「業平」という地名が墨田区にあります。

 

5月号に

<骨董屋奥の人形梅若忌>がありましたが、「梅若忌」の梅若丸は、「隅田川物」というジャンルのものでそれを題材とするとき、その本説を踏まえていることが求められます。

その視点でこの句を見るとき、骨董屋も人形も梅若丸との本説には無縁のようです。

念のためこの点を注意しておきます。

 

 

◎2.  今月の吟行 5月 代官山界隈散策 2017・5・6

          
青葉風躯の中まで染まりけり       チシ
卯の花や不動産屋の軒低し
寄り道の猿楽塚の新樹光
風光るひとつばたごの大樹かな
葉桜の径に行き交ふ乳母車


          
ヒルサイドテラスに光る夏落葉     シミ
代官山茶房に香るリラの花
風薫る旧朝倉家応接間
若楓沓脱石のくぼみいる
夏シャツの腕の白さも代官山

         


むくり破風若葉の中にありにけり    オミ
木洩れ日の綾を織りなす若楓
樟若葉走り根の力見て居りぬ
初夏のエジプト大使館の旗
葉桜の緑風生まれ目黒川

          


夏めく日代官山の歩道橋        イア
新樹光走り根を避け坂上る
起破風旧朝倉家風光る
若者の溢れるガーデン薄暑かな
ヒルサイドテラス夏物バーゲン中

         

 
坂道の蟻塚出入忙しけり        ミノ
薫風やナンジャモンジャを突き抜けて
緑蔭に染まる清らの目黒川
重要文化財住宅風薫る
杉の間の木目おかしき薄暑光


          
歩の合わぬ石の階庭若葉       アノ
薫風や街一望の歩道橋
青葉風書院の玻璃戸開け放ち
横文字の溢れる街や若葉風
薫風やなんじゃもんじゃの咲き誇る

          


 山手道碧さし込む五月来る      タリ
開発を進める街の夏帽子
新緑の木洩れ日とどくレストラン
風薫るサンドウィッチへ口開ける
学生時よく来し街や風薫る

         

 
夏立つ日代官山を逍遥す       ハイ
たんぽぽの綿毛飛び翔つ店仕舞い
緑なす横文字ばかりの青葉台
新緑に姿堂々赤シャツ爺
目切坂根上がりばかりの夏の風

          


 下闇の猿楽塚とふ古墳かな      トンボ
夏めけるナンジャモンジャのある書店
若者の声無く騒ぐ椎の花
夏はじめ前にも横も若人ら
ロックなど聞こゆる街の薄暑かな

◎3.俳句の語句の読み


 ・ふらここの右へ左へ八十路来る

 

…ふらここは、鞦韆、ぶらんこのこと。春の季語。
…八十路は、「やそじ」。八十歳のこと。
 

・をちに犬こちに雲雀の落ちにけり

 

…をちに犬こちに雲雀は、「おちにいぬこちにひばり」。おちは、「遠く」。こちは、「近く」。
 

・青饅を二つ徳利をまづ二本

 

…青饅は、「あおぬた」。
…徳利は、「とっくり」ですが、こういう場合は、「とくり」とよめばよいでしょう。
 

・二杯目もブラックが良し三鬼の忌

 

…三鬼の忌は、「さんきのき」。西東三鬼の忌日。
 戦時中、新興俳句の拠点「京大俳句」のメンバーは危険思想の持ち主として治安維持法違反の容疑で特高警察は、メンバー十五人を次々と検挙。いわゆる京大俳句事件が起こりました。その中に三鬼もおりましたが一人起訴猶予となったことから特高警察の協力者と見なされていて今なお、その疑いは晴れていないようです。そのことを重ね合わせて読むという読み方もあります。
 

・彼岸会の声明流る石畳

 

…声明は、「しょうみょう」。 三頁・幾何の戦に堪えて花の雲…幾何は、「いくばく」。
 

・此の道の花盗人や水温む

 

…花盗人は、「はなぬすびと」。ある男が桜の枝を盗みに入り捕らえられるが、和歌を作って許され、酒をふるまわれる、という狂言があり、晩春季語として使われています。水温むと、季重なりです。
 

・春の夜を満艦飾の遊歩道

 

…満艦飾は、「まんかんしょく」。
 

・種蒔きもジャガ植うる日も日読かな

 

…日読は、「ひよみ」。暦のこと。
 

・植木市老爺の腰に豆絞り

 

…老爺は、「ろうや」。
…豆絞りは、「まめしぼり」。豆粒ほどの小さな円を並べあらわした絞り染のこと。ここでは豆絞りの手拭のことでしょう。『広辞苑』でも「豆絞り」と「り」と送り仮名をつけていますが、名詞なので「豆絞」。

 

◎4.今月の四苦八句   2017・4

雑詠抄

 

杜若コロポックルは住まねども

潜りきて紫陽花色に染まりけり

雷鳴や出入り口否出入口

板の間を歩きて性根生れけり

蠅の出て騒ぎ大きくなるばかり

蚊遣豚探してをれる神楽坂

蠅の来て止まって去らぬ蠅叩

卯の花や捨て去るものに心置く

近隣の耳目集まる更衣

蛇の衣梁に掛かれる家毀す

水馬ふはりと地球踏へゐる

季語の汗季語にはならぬ汗のあり

清水の舞台の下の氷水(こおりすい)

冷さうめん真直ぐのみど通りけり

六月の博物館に遊びけり

下闇の博物館の暗さかな

大仏の疲れ溜りて五月果つ

家毀す音聞き五月果てにけり

六月の始まる日なり暦剝ぐ

流水の石の上行く朴の花

人呼んで鶴亀庭園朴の花

落ちゐしを馬穴に拾ふ朴の花

身を引きてやうやく見ゆる朴の花

くちなはの騒ぎ納まる気配出る

金魚みて己の見ゆる金魚玉

花石榴家系繋がる気配なく

黒雲も吹き来る風も蟻地獄

箱庭を如雨露の雨の襲ひけり

寄せる波引く波ありて灼ける砂

サーファーの浜昼顔を跨ぎけり

湘南の浜昼顔の眠さうに

経めぐれる回覧板の夏めける

ギバ決まるやうに雷雨に遭いにけり

似て非なるものに阿呆馬鹿七変化

戸を揺らす風の来てゐる七変化

くちなはの旧遊郭の跡に出づ

七変化哀しきものにはなだ色

根元から揺れて紫陽花色こぼす

国道にアイスクリーンを売れる婆

団扇など入れてあるなり天袋

物置の在りし跡なり夏めける

六月の雨の降る降る浄土池

著莪の花観音さんへ詣でけり

あの世へと続く井戸あり著莪の花

著莪の花著莪の俳句の溢れゐる

ののさんと僧を呼ぶ子や著莪の花

くちなはや騒ぎ鎮まる彼の一人

一時間ほどの散歩や走り梅雨

六月の風の吹き来る歩道橋

見えねども青葉の中の阿弥陀池

花菖蒲ベストを尽くすこと好けれ

大広間一畳湿る梅雨の入り

わい談ををみなもなせる団扇かな