◎俳句月報  2017・07月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・堀切菖蒲園

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

 

◎1.定例句会報  2017・6月  2017・6・25

矢車草卯建の続く海野宿       いあ

泣き笑いせしはむかしよ紅録忌    いけ

夏帯を解きて大役果たしけり     こふ

夏足袋や上り下りの神楽坂      なみ

園児らの近所へ配る枇杷実る     おみ

中土手に蛇も遊びにいでしかな    はせ

百日紅角の銭湯いまは無く      いけ

花茣蓙の終の住処となりにけり    おみ

花茣蓙や這い這いの子を見守て         しけ

花茣蓙の部屋に集まりごろ寝かな   ちし

おほまかに盛りて朝市さくらんぼ   あひ

母の忌やかの日の田植野辺送り    おみ

 

<感想>

・原 句 夏帯を解いて大役果たしけり

・添削句 夏帯を解きて大役果たしけり

※「解いて」は口語。「解きて」は文語。こういう格調の求められる句には、文語が似合います。 

 

・原 句 夏足袋や登り下りの神楽坂

・添削句 夏足袋や上り下りの神楽坂

※主語がない句は、その主人公は先者ということになります。実際には、場所が神楽坂ですからそこでの嘱目吟でしょう。添削では「登り」を「上り」としました。「登り」には、その人の意識、「上り」は見た感じぐらいの差がありそうに思えます。

 

・原 句 園児たち近所に配る枇杷実る

・添削句 園児らの近所へ配る枇杷実る

※不自然な言葉遣いを正しました。特に説明はいらぬでしょう。

 

・原 句 花茣蓙の終の住処に通る風

・添削句 花茣蓙の終の住処となりにけり

※「通る風」というのは説明です。言わなくともそれは分かる事です。

 

句会では採りませんでしたが以下、追加します。

 

・花茣蓙の部屋に集まりごろ寝かな

 ※季語を踏まえた句のようです。

 

・おほまかに盛りて朝市さくらんぼ

※この句の原句は、<おほまかに盛られし市のさくらんぼ>でした。俳句らしい韻律を生かして添削しました。

 

・母の忌やかの日の田植野辺送り    

※この句の原句は、<母の忌や田植最中の野辺送り>でしたが、母の命日に野辺送りとは?何か理解できません。回想の句であれば、そういう季節の事だったとのかと、理解できます。立ち入りすぎですがそのようにしてみました。

 

兼題 花茣蓙

 

花茣蓙は、色で染めた藺を横糸に綿糸や麻糸を縦糸にして、模様を負った織った茣蓙のことで無地の茣蓙に模様を捺染したものもあります。夏を涼しくするための敷物の工夫。ちょっとしたいろどりで美しく涼しいものにする夏を迎える部屋の設えです。日本の家屋の特徴は、夏を涼しく過ごす工夫がいっぱい。現在では、密封し、クーラーなどの人工的な涼に頼っています。

 

・花茣蓙に句集一冊忘れあり

 

句集の忘れ物ということなのでその状況が掴み切れません。花見のために集まった人たちの集まりならばあり得るかなと思いました。季語から外れた句のようです。

 

残念ながら季語の「花茣蓙」から多くの句が外れていました。

 

歳時記をしっかり押さえて作句してください。

 

◎2.  今月の吟行 6月 堀切菖蒲園 2017・6・3

 作品抄

         
土手登り下りをする日傘かな        チシ
鮮やかな大きパラソル河川敷
また違ふ系に出会へり菖蒲園
サングラス外して菖蒲見定める
水無月の波を立たせてボート行く

          
豆画伯薄紫の花菖蒲            オミ
車椅子押す孝行や花菖蒲
涼しさや二つの川を越える橋
土手登り夏の扉を開けにけり
風薫る水辺公園スカイツリー

          
杜若菖蒲の区別様々に           ハセ
遠き日の楽しかりけり菖蒲園
菖蒲園幼なじみの顔うかぶ
遠き日は休み茶屋など菖蒲園
句作りの思い出多し菖蒲園

          
表装の色と決めいる花菖蒲          シミ
コーラスを欠席届菖蒲園
菖蒲園傘立にある杖一本
東北へ旅ごころつく花菖蒲
名は火の国出自は肥後の花菖蒲


         
白無垢の立姿とも白菖蒲           ヤミ
つぼみなる吾が膝丈の花菖蒲
巡礼のやうに歩める菖蒲園
荒川の空の広さや菖蒲風
水門を見上ぐ川辺や車前草

          
道なりの小旗たどれば菖蒲園         イケ
菖蒲園スカイツリーも景として
綾瀬川水門開くを土手に見る
荒川や白きボートの疾駆して
荒川の向う岸より夏の雲

         
花菖蒲むらさき色の風通る          アノ
菖蒲園八つ橋渡る風の音
菖蒲田の木陰に猫の目を閉じて
愛犬をバギーに乗せて花菖蒲
浮世絵の江戸の堀切菖蒲園

          
こちらへとぞろぞろぞろと夏帽子       トンボ
老人の徐々に集まる木下闇
囲はれてその先を見ず菖蒲園
白といふ絶対感の花菖蒲
あの世にてまた逢ふ顔や花菖蒲

◎3.俳句の語句の読み

 句評ではないこと従前どおりです。

 

・御忌近し三解脱門普請中

 

 …御忌は、「ぎょき」。浄土宗の開祖法然上人の年忌を修する法会。春の季語。
 … 三解脱門は、「さんげだつもん」。

 

・春日向雀来てゐる水盤舎

 

 …水盤舎は、「すいばんしゃ」。

 

・唐金の皇女の墓や桃の花

 

 …唐金は、「からかね」。

 

・春昼や廟に輪袈裟の案内人

 

 …首にかけて胸に垂れるようになっている袈裟。


・春眠の帯解駅へ着きにけり

 …帯解駅は「おびとけえき」。JR西日本桜井線にあります。奈良市にある帯解寺へはここが下車駅。

 

・冬青の花栗の花咲く大地かな

 

…冬青の花は、「もちのはな」。

 

・青葉風千手千眼観世音

 

 …千手千眼観世音は、「せんじゅせんげんかんぜおん」。

 

・秋篠の薬師のんどりつつまれり

 

 …秋篠のは、「あきしのの」。奈良、「秋篠寺の」の意でしょう。ここのご本尊が薬師如来。「伎芸天」を目当てに多くの人が訪れます。


  …のんどりは、のどかなさま。

 

・虫だしや梢をつつむ闇ありぬ

 

 …虫だしは、「むしだし」。虫だしの雷のことで春の季語。

 

・藪巻を解かれし芭蕉日の色に

 

 …藪巻は、「やぶまき」は冬の季語。「解かれし」とあるので春季の句。

 

・野見宿禰神社を飾る白椿

 

 …野見宿禰は、「のみのすくね」。相撲の神を祀っている神社。

 

・画狂老人遊びし花のすみだ川

 

 … 画狂老人は、「がきょうろうじん」。葛飾北斎は、三十回ほど改号したうちのそのひとつ。

 

・割下水跡の道ゆく桜かな

 

 …割下水は、「わりげすい」。排水路のことで、この句では、江戸・本所南割下水のこと。

 

・春のそばへ北斎通りてふ通り

 

 …春のそばへは、「はるのそばえ」。春の日照雨の意でしょう。

 

・そばへるはこれぞわれらへ咲ける花

 

 …そばへるは、「戯える」。ふざける様に降る日照雨のこと。

 

◎4.今月の四苦八句   2017・6

作品抄

 

転びいで止まるボールの炎暑かな

膝行す南無阿弥陀仏涼しかり

越しかたもいまも炎暑の中にゐる

をのこらにをみな近付く炎暑かな

老鶯やこの世の果てのあるやうに

落ちてゐるもの美しき夏椿

誰それも彼の人も老ゆ百合の花

能舞台白洲の光る夏となる

神仏に礼して這入る木下闇

たらちねの母ぢやの笑まふ木下闇

黒揚羽武将の形(なり)のやうに見ゆ

蚊の来つつありし声見てをりにけり

百日は見てはをらねど百日紅

竹植うる日なり物置小屋の建つ

竹植ゑて二三人から声掛かる

水草生ふ川を一歩に飛び越える

水草の花やこころを置き忘れ

あの世にてまた逢う顔や花菖蒲

虹立ちてわが身の映るショーウインドー

冷房や凹面鏡にわがあ短躯

素気なく生きる生き方釣忍

人買のことなど重ね金魚買ふ

それぞれに値段のついてゐる金魚

生きてゐるままに値のつく金魚かな

夕刊にミサイル発射金魚玉

大仰な名をもつ竹を植うるなり

ほどのよき竹酔日の日なりけり

なめくぢの確かな軌跡として光る

囲はれてその先を見ず菖蒲園

白といふ絶対感の花菖蒲

ナポリタンカルボナーラや釣忍

動かねば蜥蜴居るとは知らざりし

良寛の風の字うごく夏座敷

ついついと脚を使うて水馬

横切れる翡翠色を残しけり

釣り上げる鮎の一閃一刹那

釣り上げし鮎や一山静かなり

黒南風や出入鎮まるマーケット

堰を越す鮎へ飛沫のきりもなし

鮎の腸(わた)箸先舐めてをりにけり

鮎に串刺して藻の香の立ちにけり

この町の動き始める走り梅雨

足袋処めうが屋なりし走り梅雨

十字軍十薬ともに名の高し

老人の徐々に集まる木下闇

此の世には木下闇とふ浄土かな

犬連れる人の集まる木下闇

鵜飼舟此の世の闇を曳づれる

人それぞれ己の影の中にゐる

もの捨てて涼しき日々のあるばかり

担ぎ持ち何を語りて蟻の行く