◎俳句月報  2017・08月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・入谷・小野照崎神社のお山開き

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

 

 

◎1.定例句会報  2017・7月  2017・7・23

入選句

 

・一陣の風に蓮の騒ぎけり       ちし

※原句は、一陣の風に蓮葉の騒ぎけり

蓮葉はくどいでしょう

 

・片陰を拾いて辿る坂の町       けい

 

・鬢の香のほのかに母の籠枕      けい

※回想の句。甘くなっても仕様がないですね。

 

・網戸して世帯といふも男のみ     いか 

※「世帯」ではなく、「所帯」とも書きます

 

・寺町の朽ちし土塀の時計草      あの

 

・サングラス八頭身とはほど遠く    こふ

※原句は、サングラス八頭身とはほど遠し

「遠し」と「遠く」の違いを感じ取ってください

 

・籐椅子に碁会所閉じし夫の居て    なみ

※原句は、籐椅子や碁会所閉じし夫の居て

「や」と「に」の違いをよく吟味してみてください

 

・白絣母の名入りの鯨尺        しみ

※以前でしたら、類句が溢れているといわれる句ですが、そういう時代を知らないのでしょう。また、さらに材料を揃えすぎている欠点もあります…

 

・お母さん冷しそうめん紫蘇きゅうり  こふ

※今は亡き母親追慕の句でしょう。そういう風に読めます

 

・ポマードは父の匂ひや籠枕      あひ

※原句は、ポマードは亡父の匂ひや籠枕

「亡父」と書いて「ちち」と読ませる句ですが、亡き父親であることが分かります。あえて書くことはないでしょう

 

・籠枕祖母の煙管と煙草盆       あの

※眼前にあるのは、「籠枕」で、そこからの祖母と祖母愛用の煙管と煙草盆を思い浮かべているのでしょう

 

 

添削句

 

原 句 潮騒の遠退く真昼籠枕

・添削句 潮騒の音の遠退く籠枕

※原句の意は、なにかよくは分かりませんが、気持ちよく、寝入っていく状態としてみました 

 

・原 句 夏蝶や静けしさまに母逝きて

・添削句 夏蝶や静かに母の逝きにける

※「静けしさまに」とは?こう言う言葉があるのでしょうか?

このような場面を描くことには、他人が立ち入ってあれこれ言うことはできません。とはいえ、不自然な言葉遣いは何とかしなければならないことでもあります。「静」の字がありますのでこれを使って置き換えてみました

 

・原 句 老鶯の声聞きとめる札所寺

・添削句 老鶯の間近なりけり札所寺

※季語の「老鶯」は、春過ぎて鳴く鶯のこと。声に「うぐいす」を感じているところが季語の意です。老鶯の声とはおかしな表現です

 

・原 句 納戸から籠枕出す里の家

・添削句 納戸から出でます里の籠枕

 ※、言葉で描くのではなくリズムを生かしましょう 

 

・原 句 孫の来て温み残りし籠枕

・添削句 孫の来て孫の温みの籠枕

 

・原 句 姿見に前後うつして夏帽子

・添削句 姿見に前後うつせる夏帽子

※原句では、夏帽子が主役で夏帽の前後をうつしているようにも思えます。夏帽としか言っておりませんが主役は「私」。被っている自分が姿見を使っているように思える表現を意識してみましょう

 

◎2.  今月の吟行 7月 小野照崎神社お山開き 2017・7・1

         
富士塚の熔岩濡らす半夏雨        チシ
雨上る欅若葉の勝りけり
神官の清しき所作も山開
半夏雨朱印頂く列長し
小野照崎神社水菓子供へあり

          


大やかん麦茶振舞う紙コップ       オミ
山開き溶岩の径巡り居て
富士塚の一歩一歩の梅雨深し
鉢の花自由にどうぞ山開き
御朱印へ列の長さよ汗ぬぐう

          


傘持ちて下谷坂本富士詣         シミ
富士塚の匂える巌青時雨
富士塚のお山開きや青年団
富士塚の紙垂の湿れる山開き
かたつむり役行者の祠の上

          


この富士も彼の富士山も山開き      アノ
列なして雨の富士塚山開き
山開き今日の入谷の賑わえり
渇きたる喉に麦茶のお摂待
仕舞屋の一角更地百日紅


          
青梅雨や小野照崎神社訪ふ        アヒ
富士塚の鉄扉開かれ富士詣
男梅雨宮に木花開耶姫
接待の冷し麦茶の大薬缶
梅雨最中空の重さを木々支へ

          


世話人の印半纏山開き          イア
境内に花八鉢貰う山開き
苔茂る溶岩たどり富士山頂
富士塚の登拝叶う山開き
まず始め富士講の人山開き

          


お山開あかずの門の錠の錆び       ヤミ
五合目は庇の辺り富士開き
五月闇大樹の雫とめどなし
合歓咲きて下谷坂本ろ組の碑
お富士様下山は人の手を借りて

◎3.俳句の語句の読み

・くちなはの旧遊郭の跡に出づ

 

 …くちなはは、新仮名遣いで「くちなわ」。蛇の異名。

 

・緑さす祖師像歩き出しさうに

 

 …祖師像は、「そしぞう」。仏教の各宗派の開祖の尊敬語。なお、「お祖師様」というと、特に、日蓮で

 の称となる。

 

・誕辰のかの日もかくや杜若

 

 …誕辰は、「たんしん」。

 

・杜若傘傾げして行き交へる

 

 …傘傾げしては、江戸しぐさの一つ、「傘傾げ」の意のようですので、「傘、傾げ」ではなく

「かさかしげして」と、一つの言葉として読むのが良いでしょう。

 

・杜若コロポックルの住まねども

 

 …コロポックルは、蕗の下に住むというアイヌの伝説に出てくる日本列島の先住民。

 

・松の葉と書かれし新茶届きけり

 

 …松の葉は、「まつのは」。寸志の意を松の葉のようなものですと、このように贈り物などの包み紙に書

 くことがあります。

 

・朝な朝な仏に花香夏来たる

 

 …朝な朝なは、「あさなさな」。

 

・忌明けや紫陽花うつる長屋門

 

 …忌明けは、「いみあけ」。
 …長屋門は、「ながやもん」。江戸時代の武家屋敷などで、両側に家臣や使用人の住む長屋を

 備えた門(広辞苑)

 

・山間の真青なる空田植歌

 

 …山間は、「やまあい」。よく間違える人がいます。また、幕間ならば「まくあい」です。

 

・蜘蛛の囲をたれがし避けて雨雫

 

 …たれがしは、「誰某」。たしかにそのひとと指ささないでいう人称代名詞。

 

・風薫る胸にせまって一入だ

 

 …一入は、「ひとしお」。

 

・青梅やいい塩梅の酒となれ

 

 …塩梅は、「あんばい」。

 

・夏木立枯山水の双樹庵

 

 …双樹庵は、「そうじゅあん」。千葉県流山は江戸時代白みりんの里として栄えていました。財を成した

 その一人が俳諧を楽しむ秋元双樹。小林一茶がたびたび訪れたと言われています。双樹の住宅を移築復元

 したのが一茶記念双樹庵で一般に公開されている。

 

・起破風旧朝安倉家風光る

 

 …起破風は、「むくりはふ」。上方に凸形に湾曲した破風。

 

◎4.今月の四苦八句   2017・7

雑詠抄

 

炎熱の仏足石に掌を焦がす

すずめ来て猫来て夏の朝の来る

竹皮をしきりに脱げるすずめ来て

磨ぎ汁の目当てのすずめ増えにけり

夕立の去りてすずめの集まれる

清水の舞台見上ぐる氷水

話に間生まれはじめるかき氷

炎帝の威のまざまざと光りけり

夏草や声無き声のとよもせる

古戦場跡へ夏草攻めよせる

夏草を悪漢倒すやうに切る

夏草や名もなきままの数多の死

蟲干の何やら知らぬものばかり

夏氷飛び出す角の角々し

水中花甲論乙駁果てもなし

祐山といふ山ありし涼しかり

夏蝶のうきうき通る浮き浮きと

夏と秋行きかふ空の真青なる

のこりをるものに一箇の水中花

夕焼の消えにし町の残りをる

夕焼を見上げて叫ぶさようなら

土用入訃報ふたつに始まれり

背負いゐる荷物の重さ蟻の列

一灯に翳がうしろへ夏の宵

うすもののひとの両手の堅結び

近づきてとうすみ蜻蛉と口に出す

いふならば起承転結雷雨来る

舌出して犬の寝そべる氷茶屋

睡蓮の花を数へて向うまで

三上の一つに馬上蟬のこゑ

ときどきを舌ののぞける祭笛

炎天やバス停鴎外住居跡

向日葵の踏切電車通過中

向日葵の迷路の中へ歿しけり

殺し場の見せ場となりし夏芝居

焼鮎を串から外し頭から

天道虫羽ををさめる装甲車

くきくきと蜥蜴の進む後を追ふ

汗どつと身体髪膚を襲ひけり

角海老に清掻かぶる美術館

泡一つ吹きて金魚の土用入

歳時記を昼寝の枕壺中天

山墓を飛び出てきたる黒揚羽

甲冑を纏うてをれる黒揚羽