◎俳句月報  2017・09月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・8月5日に詠む、独り吟行

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

◎1.定例句会報  2017・8月  2017・8・27

入選句

 

いつの間にマンボに変わる盆踊        イケ

英霊の眠る社や蟬しぐれ           イア

新涼や口に広ごる薄荷糖           ミノ

新米や作務衣の中の太鼓腹          ナミ

抽斗のシャネルの五番夏惜しむ        チシ

身にしむや今際の際の無二の友        アノ

過去帳に母の名を書く夜の秋         シケ

顔拭いて頭を拭いて盆の僧          イカ

柴又の帝釈天の赤のまま           ハセ

父母よ妹達よ今朝の秋            ナミ

通り抜け禁止の札や赤のまま         シミ

はらからは妹ふたり赤のまま         イカ

埋もれし無縁の仏赤のまま          コフ

一たむろ橋の袂の赤のまま          ヤミ

 

添削句

 

原 句 盆踊曲がマンボの変りけり

添削句 いつの間にマンボに変わる盆踊

※最近は、こういう盆踊があるのでしょう。ちょっと中休みの意味でマンボの曲が流れたのか。そういう感じを出してみました。

 

原 句 過去帳に母の名書きぬ夜の秋

添削句 過去帳に母の名を書く夜の秋

※原句では、思い入れが強く出ています。こういう内容の時、そこにわざとらしい感じが出てしまいますので

あっさりと。

 

・今月は、添削をして採り上げたいと思う句がありませんせした。

・赤のままの句は、どういうところに生えている居るのか、その場所を描いた句が多くありましたが、それでは、先人句を超えることはできないでしょう。発想の転換を切に求めます。

 

 

◎2.  今月の吟行 8月 8月5日に詠む・独り吟行

 

梅雨明けぬ金町線は駅三つ      イカ
壺庭のスプリンクラー朝曇
青蜥蜴沓脱石を躱しけり
扇風機昭和の首を振つてをり
子供らの袱紗捌や夏座敷

          

 

汗拭きつ熱き珈琲飲んでをり     チシ
畑から枝豆買うて戻りけり
抽斗を全開にして土用干
          

 

朝露に濡れ居る仏花朝の市      イケ

酔芙蓉心もとなく夕せまる
秋暑し裸足の少年牛を牽く

          

 

炎天下橋に生年月日あり       ミノ
川岸の青葦光まみれなる
すがりつく空蟬に吹く風少し

          

 

青楓下野国一の宮          アヒ
蟬時雨五重塔の心柱
「眠り猫」見上げてをれば玉の汗

        

 

東照宮詣でて夏を惜しみけり     アノ
夏霧や明智平へ途中下車
滝壺の水煙浴びていたりけり

         

 

登り来て戸定が丘の蚊に刺され    オミ
徳川の御屋敷隅の花茗荷
光陰や屋根の苔むす不老門

          

 

滝しぶきかかる下草舞うごとし    イア
蟬穴を辿りて登り狐穴
ミャンマーの母子と話す百日紅
          

 

帝釈天打水されし石だたみ      ハセ
川千家に鰻食してなつかしき
炎昼の飴切る音の帝釈天

          

 

老犬の散歩を拒む花火の夜      シミ
花火果て急に寂しき下駄の音
花火見に父の後から三姉妹

          

 

灼けた砂裸足で走っていけるかな   ハイ
真夏日に働き蟻は昼寝する
涼しげな顔をしている雨蛙

          

 

子へ孫へその名教へる灸花      ヤミ
駄菓子屋へ声の届かず夏座敷
夏座敷貝を合せる遊びして
八月五日地球の草をむしりをり
瓜もみて供へて淡きたつきかな

          

 

施餓鬼会の少しく顔ぶれ変りゐる   トンボ
施餓鬼会の長短一席小袁治師
笹の葉の影に餓鬼居る施餓鬼棚
子供らや施餓鬼会法要散華かな
施餓鬼会やまた逢う顔の揃ひゐる

◎3.俳句の語句の読み

・夏座敷香煙馬手から弓手へと

 

 …夏座敷は、「なつざしき」。六月になると蔵からすだれや籘むしろよしずの戸などをだして家中を夏の設えに。西陣などでは、この作業を「たてかえ」などと云っているようです。
 …馬手は、「めて」右。
 …弓手は、「ゆんで」。左。「たてかえ」られた夏座敷を右から左へ風が流れていることが見えてきます。

 

・抽斗に鳴らぬムックリ夏の雲

 

 …ムックリは、「むっくり」。アイヌの口琴(広辞苑)。

 

・花茣蓙の終の住処となりにけり

 

 …終の住処は、「ついのすみか」。

 

・花菖蒲迦陵頻伽の名札さげ

 

 …迦陵頻伽は、「かりょうびんが」。仏教で極楽にいるという想像上の鳥で妙なる声を響かせるようです。雅楽に「迦陵頻」があり美しい舞です。そういう麗しい名をもつ花菖蒲。

 

・甚平の親子揃ひの納戸色

 

 …納戸色は、「なんどいろ」。色名の一つ。福田邦夫著の『日本の伝統色・色の小事典』に〈濃い青というより、いくらかくすんだ青としたほうが適当な色に、納戸色という色名があてられる。…納戸を管理する役人の衣装の色だとか、その部屋の幕の色だったとかさまざまな解説がある。… 〉。

 

・歯舞を指呼に納沙布夏の霧

 

 …歯舞は、「はぼまい」。
 …納沙布は、「のさっぷ」。

 

・菖蒲園八つ橋渡る風の音

 

 …八つ橋は、「やつはし」。八橋とも書き、「湿地などに幅の狭い橋板を数枚、折れ折れに継ぎ渡した橋(広辞苑)」。伊勢物語には、〈水ゆく河の蜘蛛手なれば橋を八つわたせる〉と《伊勢物語》にあります。蜘蛛は八本の足があるところから蜘蛛手というようです。現在、多くの庭園に様式化した形の八橋があります。京都の名菓に八橋がありますが、その名の由来は、この八橋の橋の形からとも八橋検校の筝の形からとも言われています。

 

◎4.今月の四苦八句   2017・8

雑詠抄

 

赤のまま伊呂波四十八文字

見上げゐる高きに登る日なりけり

百㌔の先は宇宙や登高す

戸を開けて朝を迎へる秋の風

バスの来るまでひぐらし百万遍

ひぐらしの歴史民俗博物館

五人ゐる前へ葡萄の届きけり

一房の葡萄の重さ受けにけり

涼新た染付皿の触れあへる

留守番といふ役割の秋暑し

涼新たたまさか食事五観文(じきじごかんもん)

玉砂利を踏む音涼の新たなり

倒るるはスローモーション桐一葉

暮らしぶりスロースローや桐一葉

人来る気配の風の秋はじめ

ありありと人影ありぬ秋はじめ

秋口の駅前広場がらんだう

初秋の下枝上枝へと栗鼠渡る

蓑虫や悪にも善にも垣根無し

釣糸を抛り投げゐる秋の雲

むさぼれる心うとまし秋の雲

指を入れ割りて無花果むさぼれる

稲雀そんなに嫌うて逃げぬなよ

呼応して吾が行くさきざきへ稲雀

口惜しきことのあれこれ西鶴忌

赤のままむかしはありし赤のまま

蜩や別れし人とゐるごとし

新松子貰うて行く気はなけれども

物置へ赤とんぼを入れやうか

桔梗のむらさき色の夕べくる

初秋の人の恋しくなりにけり

蜩や森の中なる美術館

初秋の身に添ふ風に包まれる

馬追いをつかんでみればあな柔はし

秋茄子をがぶりと食うて安眠す

鬼女狐とびでて来さう芒原

色づける柿の三つの美しく

ポケットを財布代わりに西鶴忌

木の膚の温み楽しく齢過ぐ

百日紅美人と美人予備軍と