◎俳句月報  2017・10月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・9月2日、東京メトロ地下鉄博物館

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

 

◎1.定例句会報  2017・9月  2017・9・24 ●37周年記念

▼入選句

 

・鉢植のけさの朝顔小紫        ミノ

・トンネルを抜けていきなり霧襖    イカ

・名月やテーブひとつ椅子ふたつ    ハイ

・秋祭運動靴を新調す         ハセ

・東京は子らのふるさと鳥渡る     イカ

・秋空へ祝砲の音吸われけり      シミ

・十月や孫の結婚招待状        ハセ

・蓮は実に夫の回忌の十三回      シケ

・どんぐりは地にころがってそびえ立つ ハイ

・葉鶏頭揺らすサンバカーニバル    ナミ

・葉鶏頭そよりと立ちし人の影     シミ

 

◆添削句 

 

・原 句 果ててなお仁王立ちする案山子かな

・添削句 用果てて仁王立ちする案山子かな

 

・原 句 十月に孫の結婚招待状

・添削句 十月や孫の結婚招待状

 

・原 句 秋の空祝砲の音吸われけり

・添削句 秋空へ祝砲の音吸われけり

 

・原 句 蓮は実に夫の回忌も十三に

・添削句 蓮は実に夫の回忌の十三回

 

・原 句 葉鶏頭揺れてサンバカーニバル

・添削句 葉鶏頭揺らすサンバカーニバル

 

●●●

 

・原 句 信号を待つ間に吹き来金木犀

・添削句 信号を待つ間の匂ふ金木犀

 

・原 句 肘上げて飲む酒は秋の暮

・添削句 肘上げてひとり飲む酒秋の暮

 

●●●

 

季語の爽やかは、季語として詠もう        

 

歳時記は、大きく、四季に分けそれぞれ、時候・天文・地理・生活・行事・動物・植物に分類されて収録され、「爽やか」は、秋の時候に分類されています。詳しくは、三秋、つまり初秋・中秋・晩秋に当てる季語です。山本健吉は、〈主観的な形容語で季語とされているもので季語となるためには、言葉としての履歴があって誰かが恣意的に決めたものではない〉

 

〈源氏物語にも爽やかさと分明さとして使われていて、共に秋の大気の特色にふさわしいので連歌以来「爽やか」を秋気清く澄明で快適な季感を示す語として季語とした。漢字「爽」も明らかな意とさっぱりした、すがすがしいの意があり熟語として爽涼・爽気・秋爽・爽籟などがありみな秋季である〉と書いています。

 

傍題に「爽やぐ・さやけし・さやか・爽気・秋爽・爽涼」などをあげていて、〈動詞としては、「爽やぐ」〉と使うとありますが、「さやか」は、傍題に挙げられていますが、解説も例句もありません。
 

字では、「明か」「清か」が当てられ、この解説文にも使われていている様に形容詞です。

 

《入場の切符にパンチ音さやか》などと形容詞として使われる例が多く、まさに「さやか」は、季語ではないと言える所以です。

 

この句、後に、推敲されて、《音たてて切符に鋏秋澄める》となり、「秋気」が感じられる句に変ったようです。

 

季語を季語として詠もう

 

●寄せ植ゑの色を万華に葉鶏頭

 

※「万華」の字に「まんげ」とフリガナを振ってありましたが、このように読みは無く、そのために振ったのかもしれません。万華鏡の様だということなのかもしれませんが、無理でしょう。句意が読み取れません。

 

「万華」は、「ばんか」と読み、多くの花。いろいろの花。

 

●尖塔のカリヨン月の石畳

 

※表現が適切ではないため、句意がよく取れません。「月」があるから「月」の句だというのでしょうか。

 

●月白の縄手や黄泉平坂か

 

※月白は、季語の月の傍題です。筆者の所持する歳時記には、「月」の解説中に月白について「月が出ようとして空が白みわたることことである」(山本健吉)と、言及しております。

 

さらに別項にも「月代(白)」が立てられていて「月が出ようとして、東の空がほんのりと白みわたるこという。月は、いわゆる雪月花のひとつで、古来から広く詩歌に詠まれ、物語にもつくられていた」とあります。

 

例句が5句。全部以下に、書きます。

 

月代や膝に手を置く宵の宿      芭蕉

月代や海を前なる夕炊き(かしぎ)  大須賀乙字

月しろのしばらく間ある露葎     飯田蛇笏

月代や波のびあがりのびあがり    和田祥子

月代やほのかに酔ひて袖振りて    小坂順子

 

月代は、月の出のわずかな時間の景。

 

「月代や」というが句が多いのは頷けるところです。

 

その中に、「月しろの…」という句がありますが、当然こういう捉え方になるでしょう。

 

採り上げた句は、これらの句と比べてみて、季語が季語として扱われていない、ということがよく分るでしょう。

 

 これを分かるように解説せよといっても残念ながらムリです。

 

はっきりしていることは、俳句表現の骨法である、季語が季語として使われていると、句意がよく分かるということ、しみじみとその句の味わいが深くなることです。

 

繰り返しになりますが、季語を季語として詠むこと。

 

◎2.  今月の吟行 9月2日 東京メトロ地下鉄博物館

         
震災忌きのふに今日の葛西駅     イカ
秋の雨避けて地下鉄ミュージアム
信号の青に変りぬ秋の雨
地下鉄のジオラマ夏休過ぎて
板前の作務衣の黒や初秋刀魚
         

 

秋雨や葛西のメトロミュージアム   アヒ
音たてて切符の鋏秋澄める
博物館出づれば空の高きかな
街路樹を大きく揺らし風は秋
秋高し夫婦でひさぐ食事処
          


秋の風レモンエローの銀座線     アノ
いつみても楽しジオラマ秋の昼
表示板「うへの」とありて秋めきぬ
秋うらら初の地下鉄一〇〇一号
環七をバスに揺られて秋の空
          


復元の地下鉄構内秋の色       イア
爽やかや入場切符の鋏音
秋一日葛西行バス混んでくる
昼食のごはんおかわり秋刀魚刺
鯖雲や駅前広場バスを待つ
          


台風過葛西地下鉄博物館       シミ
料理店座卓の下の秋団扇
昼の膳先ずは色良き秋茄子
まなうらの葛西の海や秋さびし
展示車輌刻字薄れて秋さびし
          


厄日過ぐ博物館に掘削機       チシ
バス停のベンチに秋の雨の痕
シャトルセブン後部座席や街は秋
ジオラマの電車見てをり秋めく日
秋高し環七走るシャトルバス
         


博物館展示車輌に秋明り       イケ
秋うらら展示車輌に親子づれ
地下鉄に高架線あり秋高し
秋ともしジオラマのぞく親子かな
昼食の赤鯥御膳さんま刺
          


博物館切符切る人秋うらら      オミ
日本初地下鉄車輛涼新た
猫の目の様に変る日秋の空
博物館大人もとりこ秋の声
表示板うへのとありて秋うらら
          


右からの字を読む表示あ秋の声    ミノ
秋雨や博物館は児らの声
交差するジオラマ見入るそぞろ寒
防災の取り組みもあり秋の雨
台風の過ぎて青空戻りけり
          


バス待ちに雨の照り降る九月かな   ヤミ
秋うらら展示車輌へふれてみる
別珍の座席にあれば秋の声
葛西駅高架下なる秋暑し
のどぐろの塩の加減や秋半ば

          


秋風やシャトルセブンの葛西駅    トンボ
天高し高架下なる博物館
秋晴の高架を走る地下鉄線
二学期へ博物館にはしやぐ子等
涼新た地下鉄博物館を出づ

◎3.俳句の語句の読み

 

句評でないことは従前通りです

 

・孑孒のひと日を過ごす

…孑孒は、「ぼうふら」

 

・網棚の鳳梨熟睡の一家族

…鳳梨は、「ほうり」。パイナップルのこと。
…熟睡は、「うまい」。

 

・祭笛宮出しの朝修祓の儀

…修祓は、「しゅうばつ」。「しゅうふつ」。

 

・柝の入りて遠見修羅場の夏芝居

…遠見は、「とおみ」。歌舞伎の背景画で遠景を描いたもの。
…修羅場は、歌舞伎などで激しい戦闘場面。

 

・富士塚の熔岩濡らす半夏雨

…溶岩は、「ようがん」。昔は、これは「ラバ」と読んでいました。

 

・かたつむり役行者の祠の上

…役行者は、「えんのぎょうじゃ」。

 

・渇きたる喉に麦茶のお摂待

…お摂待はおせったい」。接待とも書く。うるさく言えば、春の季語。

 

・男梅雨宮に木花開耶姫

…木花開耶姫は、「このはなのさくやびめ」。浅間神社の御祭神。コノハナノサクヤビメ(ヒメ)は、日本神話に登場する女神。一般的には木花咲耶姫と記される。また『古事記』では木花之佐久夜毘売、『日本書紀』では木花耶姫と表記する。広辞苑では「ひめ」の読みを採用しています。

◎4.今月の四苦八句   2017・9

雑詠抄

 斧をもつ男降りくる秋の山

この年の中華饅頭秋の来る

馬の尻よくよく揃ふ秋の空

蟷螂の熔岩(ラバ)ふんがけて澄しゐる

松風は死者の声なり城の秋

鬼の子と云はれ鬼門を守るのか

眼にて 持つて帰りし葉鶏頭

信州や鹿のルイベの夜の更ける

刮目すかのししカントの目に似居る

丁寧な料理いただく菊日和

菊日和銀行ならぬ吟行へ

菊日和拈華微笑(ねんげみしょう)の仏様

菊の鉢提げて羽化登仙を夢にみる

白菊やなんでもかんでもよきやうに

嵯峨菊の中の堂宇の大覚寺

菊の香や昔たどれば西王母

秋声や一つは謡一触り

夕されば秋刀魚求めて猫の来る

木の実落つはねて逃げたり転んだり

簡単に相槌ありぬ秋の暮

戸を叩く秋の音信(おとずれ)宅配夫

胡桃割り指打つこととなりにけり

会者定離金金木犀の匂ひくる

蛤に雀の斑ありわが身にも

上下に雲の行き交う秋の空

川に名の思川あり思ひ草

天がける馬の出で来よ濃竜胆

めいめいが思ひ思ひの牧の馬

筒井筒風を捉へる秋海棠

ちぐはぐに首を下げゐる馬の秋

おかしいと何となく云ふ秋の風

八千草の中をそよろと吾亦紅

野良猫に心を尽くす暮の秋

銭湯の釣瓶落としに歿しける

思はざる吾身の映る秋深し

蓑虫よ仏に線香許されよ

秋の夜を京都の地図へ溺れけり

そよそよと一本きりの男郎花

わわしきはをみななりけり男郎花

駄菓子屋へ子供も大人秋祭

一本といふといへども秋桜

わつと来てどつと飛びゆく小鳥かな

鳳仙花島倉千代子いま亡き

台風過電信柱残り居る

蛇穴へ豊旗雲の残りゐる

秋空の日々に大きくなるばかり

月読のひかり捉へる葉鶏頭が

愛子(あやし)とふ駅の名の付く宮城萩

ひぐらしの夢の続きを繋げをり

めぐり合ひ見しやそれとも虫の声

指させば人の寄りくる臭木かな

ひぐらしやひそひそ飲食すすみ行く

踏切を荒れ地野菊の囲みけり

猿田彦以下はだらだら秋祭

三つ目の秋の祭に出会ひけり

父母の遊んでをはす秋祭

水澄める二位の尼御前(にいのあまごぜ)見ゆるまで

手拭のよきこときくや菊日和

捨てられるものに田畑葉鶏頭

 

※読売新聞に歌人の種村弘の書いている「蛸足ノート」。電車で書く理由。ここに短歌を作るときの方法が書かれています。筆者もほとんどこれと同じ作業ですがその中から10句を選ぶのに四苦八苦。

ご一読あれ!!

いい歌を作ろうとするのは最悪だ!!!