目次
◎1.定例句会報
◎2.今月の吟行・11月4日、樋口一葉を歩く
◎3.俳句の語句の読み方
◎4.今月の四苦八句
入選句
大玉や夫の在所の富有柿 イケ
立冬や夫八十の隠居顔 ナミ
大杉はパワースポットしぐれ来る アヒ 原 句 大杉の
紅葉の全山映すダム湖かな イア
紅葉宿男湯女湯入れ替る チシ 原 句 入れ替る男湯女湯紅葉宿
ゴンドラの吸い込まれ行く紅葉谷 イア
冬空の青を映じて川一本 タリ
百年の南部曲屋干大根 シミ
大根をお供えするは聖天さん ハイ
なんのその太き大根抱え居り オミ
今月は、かなり低調でした。
次の句
木枯や稽古帰りの裾乱す
と
木枯の稽古帰りの裾乱す
では、内容がまるで違ってしまいます。
秋うらら賽銭箱に於福面 シケ
残る虫路地の奥なるポンプ井戸
坂下りてまた坂ありて草の絮
行く秋や東大前の古本屋
一葉の終焉の地や夕紅葉
つじ風の本郷追分落葉降る オミ
余念なく準備進める酉の市
歩きたる一万七千歩の秋
一葉の登りし坂の落葉かな
遊郭のありんす言葉秋深し
一葉の居た町辺り秋闌くる ミノ
一葉の使いし井戸や秋温し
吉原の跡の通の小春かな
菊坂の小春日和の中に居る
酉の市の準備に暮れる人あまた
訪う家の山茶花垣の小路かな ハイ
つむじ風枯葉舞いあげ街おおう
鳥たちの冬の木の実のうばいあい
柊のかおりて白き花こぼす
赤門の銀杏落ち葉の風に舞う
坂多き文京の地や秋日濃し シミ
蔦からむステーキハウス山猫軒
銀杏紅葉赤門前の古書の店
菊坂の小さき魚店秋の蠅
秋没日文字をかすかに一葉碑
行く秋や本郷菊坂炭団坂 アヒ
鉢植の蜜柑と手押し井戸路地に
一葉の通ひし小路実紫
日輪の淡し下見に蔦枯るる
一陣の風や紅葉の散り急ぐ
この秋思佳人一葉よりきたる アノ
メトロ降り三ノ輪界隈鰯雲
一の酉待つ境内のひっそりかん
一葉を辿る坂道榠櫨の実
赤門に古文書店に御銀杏散る
吉原の大門の跡冬近し ヤミ
熊手揚げる人集まりぬ市用意
行く秋やベンチの何か払ふ友
菊の香やたどる菊坂真砂坂
一葉の終焉の地か冬近し
北洲と呼ばれし地なる冬近し トンボ
小春日のいまを千束四丁目
山茶花や樋口一葉生きる町
冬隣樋口一葉生家の地
小鳥翔つやうに枯葉の散らばれる
※句評では無いこと従前どおりです。佳句とはいえぬ句であっても句の中の語彙の読み方として取り上げています。
・信州や鹿のルイベの夜の更ける
…ルイベは、サケ・コマイなどの魚を凍らせたまま薄く切った刺身状の食べ物ですが、山国の信州では山 肉と言われる鹿をこのようにして食します。
・菊日和拈華微笑のほとけ様
…拈華微笑は、「ねんげみしょう」。
・蛇穴へ豊旗雲を残したる
…豊旗雲は、「とよはたくも」。旗がなびいているように空にかかる美しい雲。
万葉集巻一の十五の中大兄皇子(のちの天智天皇)が詠んだという「わたつみの豊旗雲に入り日さし今夜の月夜さやけかりけり」があります。結句「さやけくありこそ」など、訓み方に十数説あり、いまだに定まっていないようです。
・水澄める二位尼御前見ゆるまで
…二位尼御前は、「にいのあまごぜ」。平清盛の妻。壇ノ浦の戦に安徳天皇を抱いて海に身を投じた。名は、時子。
・愛子とふ名のつ駅や宮城萩
…愛子は、「あやし」。仙台と山形駅を結ぶ仙山線にある無人駅。所在地は、宮城県 仙台市青葉区愛子中央一丁目。
・わわしきはをみななりけり男郎花
…わわしきは、狂言に出てくる言葉で、「わわしい女」は、「騒がしい、うるさい女」という意味。口うるさいが夫想いでしっかり者の妻として登場する。
・まだ誰も返つてをらぬいなつるび
…いなつるびは、いなずま。いなびかりのこと。つるびは、交尾のことで稲の結実期に多いところから。
・開け閉ての音を静かに虫籠かな
…開け閉ては、「あけたて」。
…虫籠は、「むしこ」。
・寄せ植ゑの色を万華に葉鶏頭
…色を万華に、と形容詞として使われていますが、万華は「ばんか」。多くの花。いろいろの花」。
・尖塔のカリヨン月の石畳
…カリヨンは、教会などの塔に設置されているベル(鐘)組み合わせたもの。
・月白の縄手や黄泉平坂か
…月白は、「つきしろ」。月代とも書く。月の出の時、空の白んで、見えること。
…縄手は、「なわて」。
…黄泉平坂は、「よもつひらさか」。
雑詠抄
大根を食うてほどよき日なりけり
大根の去りたる穴の並びをり
まつすぐな道こそ寂し石蕗の花
聖護院大根や蕪冬のくる
懐かしく首に来ている隙間風
信じるも信じぬもなし返り花
裸木の筋骨縛す電飾燈
帽子屋寄つて見てゐる冬初め
蔦枯れて家の没落見せにけり
荒ぶれる神の宿りて冬の濤
襟立てて行くぞ丸吉生菓子店
句座一度きりの縁や風鶴忌
区を跨ぐ千住大橋翁の忌
六十年俳句に遊ぶ十二月
なるやうになると枯野やケセラセラ
小春日の美術館からデパートへ
オム焼きそば買うて重たし小六月
小春日や猫のポーズを猫のする
小春日心臓あるを忘れゐる
忘れゐるものに心臓わが齢
落葉籠覗きて去れる男かな
もがり笛宝篋印塔あるばかり
飛天女の笛の音なりきもがり笛
考へる人へ落葉の降りかかる
残菊と枯れの仲間へ加はれる
木の葉降る誰と知らねど墓碑ありき
木の葉降る羅漢の口の五百ほど
目を離す隙に消えたる冬の蝶
口開けば綿虫どつと飛び込める
初冬の鳥獣草木みな仲間
三の酉ごろの陽気と値踏みする
そばえする山茶花垣へ行きあたる
行き交へるだけの人達冬の町
冬の蠅よろけながらも打たれけり
こがらしや太郎と三郎眠る町
一枚のはがき舞い込む十二月
からころとこがらしの駆け出せる
太陽を浴びて大根白くなる
父母の声のしてゐる返り花
料理屋の料理屋らしき隙間風
十二月来るから腹式深呼吸
恐竜の骨のからだへ冬のくる
釣書と書ける折紙神の留守
裘市の人出を分け行ける