◎俳句月報  2018・01月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・12月4日、市川真間を歩く

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

◎1.定例句会報  2017・12月  2017・12・02

入選句

 

母老いて炬燵に顎をのせにけり      シミ

娘の名忘れし夫の蜜柑剝く        ナミ

炬燵出て和やか気分生れけり       オミ

今半の弁当八つ年忘れ          アノ

船端の霜を掃き居る老船頭        シミ

故郷へトンネル十余冬木立        シケ

冬空を見上げて待てる流星群       タリ

山眠るダム湖の底の現るる        シミ

十日夜筑波に月のかかりをり       イカ

風花や齢十五の殉難碑          シケ

梟や横座に父のゐし頃も         イカ

 

 

※上記のうち添削をして採用した句の原句

 

原 句 母老いぬ炬燵に顎をのせのけり

原 句 娘の名忘れし夫や蜜柑剝く

原 句 炬燵出し和やか気分生れけり

原 句 老船頭船端の霜掃きにけり

原 句 冬空を見上げて待つは流星群

 

 

添削

 

原 句 白菜漬ける二段の重石崩れけり

添削句 白菜を漬ける重石の崩れけり

 

原 句 父母も夫も逝きけり冬銀河

添削句 父母も夫も逝きたる冬銀河

 

※表現におかしい所があるのでそれを直したものです。

 

◑俳句、上達法

 

 俳句は、発想と技術が相まって佳句と呼ばれるものが誕生しますが、もう一つ大事なことは、例えば、食べ物で云えば空腹のときは何でもおいしく感じるし、満腹ならばそれほどでもないと感じます。好き嫌いもありますがそれとと同じように俳句の好悪もそれと重なるところがあるでしょう。

 

これらは、どうしようもありませんが、どんな時でも発想と技術は作句時には外すことはできないでしょう。

 

添削と発想との関係はなかなか区別しにくい所ですが、例えば、上記の添削例に

原 句 母老いぬ炬燵に顎をのせのけり

添削句 母老いて炬燵に顎をのせにけり

としていますが、これが原句を損なうことなく手を入れたものです。

 

実は、この句発想を変えれば、

 

 老い母の炬燵に顎をのせにけり 

 

という句にもなります。一場の景が浮かび上がってきます。説明ではなく景が浮かびあがってきます。一場の景が浮かびあがれば佳句と言ってよいでしょう。

 

発想と言えば、実は、もっと大胆に題材を自分の守備範囲から抜け出してそれに挑戦するということもあります。

 

漫画家の神様手塚治虫は

 

漫画から漫画の勉強をするのはやめなさい。一流の映画をみろ、一流の音楽を聞け、一流の芝居を見ろ、一流の本を読め。そして、それから自分の世界を作れ>。

と言っています。

 

漫画と映画や芝居であれば同じ分野ですから説得力は強いと思います。

 

俳句でも言葉の後から景が立ち上ってくるものを「佳」とするならば、見方を変えれば同じような発想の句が満載されている会報の句を見るのを止めなさいと言っているような気がします。

 

他の世界に触れることによって今までとは違う世界を見ることは、大変な発想する上でのヒントになる事でしょう。

 

句会の互選で高点句を取った句に次のようなものがありました。

 

●父よりも母より生きて葛湯吹く

●濡れて着く喪中はがきや十二月

●立食ひの湯気のおやきや一茶の忌

●餺飥に舌焼く旅のいろり端

●錠剤の一粒転ぶ寒さかな

 

何れもベテランの句でしたが、説明を以て俳句とする、俳句、俳句に、毒された類想・類型の句です。こういう世界から抜け出すことが肝要です。

 

言葉の後に、景が立ち上ってくる句を「佳」とするならばこれらの句には、それがありません。内容がはっきり分かるために初心者がつい誘惑されているものと思われます。また、作り手も互選では、点を稼げるためその誘惑に勝てなくなってしまっているのでしょう。

 

発想を変えて映画で言えば、その場面を描く、その努力こそが、俳句で言えば「俳句を創る」ということです。

 

あえて言えば、手塚治虫の発言漫画を勉強するなら漫画を見るな!を読み替えて俳句を創るなら所属する会の会報を見るな!と言っておきましょう。

 

特に、作者の「自選」という形で「記録」として掲載されているものは、目的に違いがあります。

 

他の俳句を見るな、と言っても、やはり歳時記などの例句などは重要な勉強の材料になるでしょう。

その句の特長、「佳さ」を見つけてみること。そして自分の句に活かす事に徹してみましょう。

 

 

作品は、その人そのままに 

 

はっきりしていることは、その人そのままに作品となることです。

 

豊かな世界を求めて!

 

がんばりましょう。

 

◎2.  今月の吟行 12月04日 市川真間を歩く

          
落葉掃くボランティアの女子大生       アノ
冬の青池へ映して手児奈堂
弘法寺へ角の八百屋の冬苺
庭一面黄金の海や散り紅葉
真間の井の真間四丁目冬紅葉


         
冬紅葉真間川傍の小学校           オミ
黄落や大蛇に見ゆる藤の幹
冬の空目の前真間の大地あり
真間の井戸覗き込んでる十二月
弘法寺の呼び名確かむ師走かな

         

 
文人等住みにし真間の枯葉散る        イア
手児奈堂僧のひとりや落葉掃く
校庭の声の賑やか黄葉舞う
文学碑続く真間川水澄みて
杜鵑草真間の継橋小さくて

          


落葉踏むこの辺真間の三丁目         シミ
落葉道行く手に浮島弁財天
古池の枯葦匂う手児奈堂
真間の井に手児奈の気配冬桜
水涸るる真間の継橋渡りけり

          


真間川の弁財天の小春空           ミノ
冬晴や幟はためく手児奈堂
冬の日の手児奈の井戸は水たたえ
弘法寺の伏姫桜冬枯れて
小春日の静けさ破る鹿威し


          
十尺に満たぬ継橋石蕗の花          イケ
歳晩の真間の古井戸のぞきおり
冬日和ハートの型の絵馬あまた
急磴を横目に杖の落葉道
枯るるまま家屋も真間の一軒家

          


手児奈堂の池黒々と冬に入る         ヤミ
冬晴れや御僧明るく声を張る
継橋の虫麻呂の歌碑石蕗の花
たなびくや鐘楼堂の冬紅葉
裸木の伏姫桜影絵めく

          

 

手児奈井戸ありしかつ散る紅葉かな      トンボ

紅葉かつ散れる手児奈霊神堂

石段の上に弘法寺落葉降る
真間川の流るる先や小六月
短日や小学校も真間川も

◎3.俳句の語句の読み

・ 毘楼博叉秋冷至る東大寺

 

…毘楼博叉は、「ビルバクシャ」。広目天のこと。梵語の音写で、通常ならざる目を持つ者の意という。

 

・やや寒や日月星辰過ぎ行ける

 

…日月星辰は「じつげつせいしん」。

 

・誰に遣ろう将門山の鬼胡桃

 

…誰に遣ろうは「たれにやろう」

 

…将門山は、「まさかどやま」。千葉県佐倉市にあるようです。

 

・阿字池の水沫のさはぐ初紅葉

 

…阿字池は、「あじいけ」。浄土庭園の池。

 

…水沫は、「みなわ」。

 

・コスモスの路地の奥なるお富士様

 

…お富士様は、「おふじさん」。浅間神社で5月と6月の最終土曜日・日曜日に催される植木市のことで「お富士さん」と呼ばれて親しまれています。 

 

・こぼれ萩猫の迎える蚶満寺

 

…蚶満寺は、「かんまんじ」。秋田県・にかほ市に所在する曹洞宗の寺院。山号は皇宮山、本尊は釈迦牟尼仏。元禄2年6月、俳聖松尾芭蕉が訪れて『奥の細道』のなかで、「九十九島」と呼ばれた当時の象潟の景観を絶賛し「象潟や雨に西施がねぶの花」(雨にけむる象潟は、あたかもまぶたを閉じた西施のように美しい)と詠んでいる。「干満珠寺」として登場する。

 

手鋏の紅絹の目印秋灯下

 

…紅絹は、「もみ」。

 

・手捻の織部に盛らむ菊膾

 

…手捻の織部は、「てびねりのおりべ」。粘土を手でひねって作られた織部焼。今は、織部焼は、趣味で作る人が多い。

 

・ビリケンの足裏の摩滅暮の秋

 

…ビリケンの足裏は、「ビリケンのあうら」。ビリケンは、尖った頭と吊り上がった目が特徴の子供の姿をしている幸運の神の像。大阪の通天閣 5階(展望台)にあるビリケン像が有名で、「ビリケンさん」の愛称で親しまれ、特に足を掻いてあげるとご利益があるとされているという。

 

・家一軒呑み込み過疎の露葎

 

…露葎は、「つゆむぐら」。

 

・参道の露天を漁る秋日和

 

…漁るは、「あさる」。露天をひやかすなどという人もおりますが、ともかく露店や道具屋など、昔から漁るといっています。

 

◎4.今月の四苦八句   2017・12

雑詠抄

 

塩の中新巻鮭の目のありき

雪しづり潜りてゆけば弥彦山

雪の隙新潟平野空の瑠璃

雪中の温泉街の灯の入る

冬眠の熊へつながるパスワード

歳末や物を買ふにも」パスワード

雪の上雪を重ねる平野かな

雪晴やしみじみ暗く洋食器

雪しづり弥彦神社へ響きけり

売込みの電話の続く冬至かな

十字軍広小路には未だ見ず

落葉降る軒の庇を猫渡る

己が影己に見えず冬のくる

又雪となるべき雪の香りくる

冬眠に入りたるは蟲狸亀

家猫にあらぬ猫ゐる十二月

返り花誰それ逝きしことばかり

茶の花の蕊りんりんとありにけり

むしられて鳥の丸まる十二月

印刷の名画なれども年の暮

温泉の湯船込み合ふ年の暮

焼藷ののぼりの立てる店へ入る

家猫にあらざる猫もクリスマス

冬至湯のカランに向ける背中かな

枯木立行くも帰るも枯木立

年の瀬の飴の切られて売られゆく

待つとなく下仁田葱の待たれる日

煤払ひ迦陵頻伽へおよびけり

煤払ひついでついでに及びけり

事始めなんどと言うて逃げてをり

窓圧す夜のとばりや冬薔薇

カーテンの重たく垂れる冬薔薇

縄文の甕や埴輪も日の短

短日や博物館の暮ゆける

白菜を干せば太陽いつぱいに