◎俳句月報  2018・03月号

目次

◎1.定例句会報

◎2.今月の吟行・2月3日、五條天神節分祭(うけら神事)

◎3.俳句の語句の読み方

◎4.今月の四苦八句

◎1.定例句会報  2018・2月  2018・2・25

今月の入選句

 

犬ふぐりもうすぐあの子一年生          コフ

鶯餅抓むところをためらえり           シケ

春昼やのっそりと猫現るる            チシ

糠床の天地返する春立つ日            チシ

いちにのさん春泥跨ぐ兄弟            シミ

落椿緩き蹴上の建長寺              シミ

鶯や二人で登るさざえ堂             チシ

鶯や陵へ陽のこぼれおり             シケ

 

 

添削例

 

原 句 春昼や猫のっそりと歩みけり

添削句 春昼やのっそりと猫現るる

 

原 句 春浅し天地返する糠の床

添削句 糠床の天地返する春立つ日

 

 

幼子の句を詠むことが多いようです。

一様に、いわゆる吾子俳句で、特徴は、かわいさや優しく接する大人、つまり自分の態度前面に出してを描いているようです。

結果として作品として陳腐なものになってしまいます。

 

客観的に広く目を配り、わが子・わが孫のことを含めて、幼子が持っている生命力。成長するすがたの一瞬をとらえて欲しいと思います。

 

万緑の中や吾子の歯生え初むる    中村草田男
名月をとってくれろと泣く子かな   小林一茶
雪とけて村いっぱいの子どもかな   小林一茶
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや  中村汀女
咳をする母を見上げてゐる子かな   中村汀女

子を殴(う)ちし ながき一瞬 天の蟬 秋元不死男

 

 

◎2.  今月の吟行 2月3日 五條天神節分祭(うけら神事)

          
忍ケ岡五條天神節分祭           シミ 
寒紅梅匂える五條天神社
鬼やらい待つ間を手足強張れる
方相氏出で来静まる鬼やらい
鬼やらい鬼より猛き年男
          


群衆のどよめき揺れる鬼やらひ       チシ
鬼やらひ外国人も交じりゐて
梅一輪歩巾大きく坂登る
夕暮れの上野の街や日脚伸ぶ
福豆を共に分かちて別れけり
          


早梅や上野の森の静かなる         アノ
水洟の神事待つ間の外国人
底冷えの五條天神石畳
鬼の来て床踏み叩く追儺かな
境内にうけらの煙日脚伸ぶ
          


二社並ぶ恩賜公園淑気満つ         シケ
石段を下る社殿や冬の梅
梅早し五條天神賑わえる
裃の男の子の豆に打たれけり
外人も日本人も福は内
          


忍ケ岡の空の明るき春隣          アヒ
毛糸帽脱ぎて祓はる異邦人
かしこみて居れば冷たき足と鼻
焚き足せるうけらの煙終る冬
節分の上野山から黒門町
          


冬うららパンダ商品あふれおり       オミ
冬枯れの上野公園人だかり
うけら焚く香りの中や節分祭
境内に人押し合える残る雪
神妙にやがて楽しき鬼やらい
          


早咲の梅ほころびて頭に天神社       ミノ
神主の声おごそかに鬼やらい
節分の豆を撒く人拾う人
節分や鬼面頭に外国人
豆まきの豆飛ぶ方へ押されけり
          


節分や羽織袴の年女            ハイ
豆まきの羽織袴の子等のおり
節分の豆を拾うにエキサイト
靴底を冷気じわりと節分会
薬租神あやかりたやと豆の数
          


込み合えり帽子に受ける年の豆       イア
うけら焚く煙まっすぐ節分会
鬼飾外人髪に鬼は外
上野山梅の蕾のまだ硬し
山下りそば屋に入る福は内
          


咲き初める薄紅梅でありしかな       ヤミ
節分の葦の矢放つ桃の弓
鬼の来る背後の闇をふりむかず
とどろとどろ板踏み鳴らす鬼ならむ
降りそそぐ豆を浴びゐる梅真白
          


空青く社殿の豆撒き陽光光る        タリ
節分祭鬼へ豆撒く鬼は外
鬼は外だけの豆撒き五條天神
豆撒きや黄色のボール飛んでくる
節分祭帰途にそば切り江戸風味
          


うけら焚く煙の立つや春隣         トンボ
寒梅や医薬租神うけら焚く
身中の鬼にこそ打て鬼遣ひ
境内の坩堝へ打てる鬼の豆
追儺会のこどもなれども年男

◎3.俳句の語句の読み

・煤払ひ迦陵頻伽へおよびけり

 

…迦陵頻伽は「かりょうびんが」。仏教で、雪山または極楽にいるという想像上の鳥で美妙な鳴き声を持つとされることから、仏の音声の形容ともするがその像は人頭・鳥身の姿で表すことが多い。 

 

 

・冬至湯のカランへ向ける背中かな

 

…カランは、蛇口。

 

 

・十日夜筑波に月のかかりけり

 

…十日夜は、「とうかんや」。旧暦10月10日に行われる収穫祭で、稲の刈り取りが終わって田の神が山に帰る日とされる。季語。

 

 

・侘助や施僧かかさぬ旅の宿

 

…施僧は、「せそう」。僧に物をほどこすこと。

 

 

・餺飥に舌焼く旅のいろり端

 

…餺飥は、「ほうとう」。山梨の郷土料理「ほうとう」は、この字をあてて使っているようです。餺飥は、「はくたく」と言い平安時代の唐菓子の一種。粉をこねてねってつくる、だんご・すいとんなどの類にも言う。

 

 

・八十路人湯たんぽぬくし懐かしや

 

…八十路人は、「やそじびと」。「八十路」は、八十歳のこと。八十代の意で使うのは誤りです。

 

 

・重さうに下枝の水漬く枯桜

 

…下枝は、「しずえ」。
…水漬くは、「みづく」。

 

・手児奈堂僧のひとりや落葉掃く

 

…手児奈堂は、「てこなどう」。市川真間にある手児奈霊神堂のこと。

 

 

・水涸るる真間の継橋渡りけり

 

…真間の継橋は、「ままのつぎはし」。

 

◎4.今月の四苦八句   2018・02

雑詠抄

 

三味線の張替処春の宵

門冠松へ雪降る春景色

もろもろの木々の間(あわい)の春の風

古隅田川のさざ波春のくる

春の雪青竹組める筒井筒

夢のごと駄菓子屋ありて春の雪

春寒や鰻裂けるを見てあれば

芹の上勢いづいて水流る

誰それの溜息ならむ薄氷

西国の旅にゐるごと薄氷

料峭や遥かに動く人の影

春寒の箒目立てる波の紋

竹林の垂直つづく春や寒

椿事とは云へぬけれども落椿

椿落つ水沫の下は鯉の国

物の怪に応へて椿散りにけり

この道や一度ならずも春の泥

踏青のその日の気分のところまで

十キロの先の海へと青き踏む

春泥の靴のままなる廬舎那仏

青き踏む一歩づつ過去として

首筋のすこしさびしき春の宵

冴返るものの一つに身柱元(ちりけもと)

蕗の薹屈んでみれば十ほども

イヌフグリいぬのふぐりの見つからず

かつて見し今も見る夢蕗の薹

紅梅や人の往き来の影なれど

春や城敗残武者の声と影

春陰の国会図書館地下五階

文化財修繕室のクロッカス

爪切の切れのよすぎる二月かな

開け閉てのたんび春光飛び込める

春光のてつぺん仏降りてくる

人影の青むらさきの春の宵

書を売りてかくもさびしや獺祭(おそまつり)

獺祭旅の資料を厭きもせず

草餅のつめたくありしもの愛す

草餅や蝋燭灯る地蔵坂

茂吉忌や鰻の値段張るばかり

鶯やけふより若き日のあらず

うぐいすや法華経寺も禅寺も