◎俳句月報  2018・05月号

目次

1.定例句会報

2.今月の吟行・4月7日、北十間川とスカイツリーでランチ

3.俳句の語句の読み方

4.今月の四苦八句

◎1.定例句会報  2018・4月  2018・4・22

入選句

 

今月は参加者14名、84句が対象ですがこれという句が無かったのは残念でした。

 

東京に人の増えたる四月かな          シミ

 

春笋や初物好きは父ゆずり            シケ

 

壁面のアンモナイトや春深む        アヒ

 

ふらここに腰を下ろして誰も居ぬ      ミノ  

  (原 句 誰も居ぬふらここに腰下ろしけり)

 

花筵ピザを持込む若人ら          アノ

  (原 句 若人のピザを囲みて花筵)

 

行く春やオーストラリアへ孫発ちし     ナミ

   (原 句 行く春とオーストラリアへ発ちし孫)

 

春風や公園にぎやか午後三時        ハセ

 

春深むパックの支度して居れば       シケ

  (原 句 念入りに美容のパック春深し)

 

土踏まず在るうち歩く春深し        ナミ

 

山城の長き坂道花菫            オミ

 

 

添削例

 

引越の荷積み始まる朝桜    →  朝桜引越荷積み始まれり

葛飾は終の住処や春深し    →  葛飾は終の住処や春深む

笹鳴きの杖を頼りの遍路道   →  桜咲く杖を頼りの遍路道 ※笹鳴は、冬の季語です

妹と母を介助の花衣      →  妹と介助の母の花衣  

ローカル線運行終了花吹雪   →  花吹雪運行終了電車来る

春の雨田も畑も待ちわびにけり →  春の雨田圃も畑も待ちいたる

春深し崩れしままの砂防ダム  →  砂防ダム崩れしままや春深む

一つづつ和菓子を選び日永かな →     あれこれと和菓子を選ぶ日永し

 

 

◎2.  今月の吟行4月7日 北十間川とスカイツリーでランチ

           
指さして我が家を探す遠霞        オミ
花吹雪北十間川を越えて行く
多国から人を集める桜かな
天空の予約の席や春うらら
シャッターを手振りで頼む花の昼

 


晩春へ人の流れに押されゐる       チシ
待ち合はす友を見つける花の中
入学児らしき親子やレストラン
春がすみ中華会席予約席
落花舞ふスカイツリーに来てをれり

          

 


首都高も水辺ラインも霞おり       シミ
大川を船足止まる花見舟
スカイツリー右へ左へ桜蕊
天空の春限定のランチかな
花の道時計回りの先に駅

          

 


春の雲動きて塔の動き出す        アヒ
春光の中直行の昇降機
天空のレストランにて春惜む
残花なほ怺へてゐたる風の午後
永き日やどこに佇ちても塔見えて

          

 


桜見て作る俳句や里ごころ        ハセ
遠き日を北十間川に遊びたる
行き来する人の姿や夏近し
緑さす傍に人欲しざわざわと
着付する紬の着物春深し

          

 


風眩し電波塔より見る故郷        ヤミ
桜蘂避けて歩きぬ人ごみに
仰ぎ見るスカイツリーや鳥雲に
そぞろ行く北十間川の残花かな
業平と名のみ残りし八重桜

          

 


イラン人アメリカ人も馬酔木咲く     トンボ
花筏北十間川を埋めにけり
押上駅スカイツリー駅花の中
花は葉に業平橋を思ひつつ
煎餅の音にも春の盛りなり

◎3.俳句の語句の読み

句評でないことは従前どおり

 

・古隅田川のさざ波春の来る

 

…古隅田川は「ふるすみだがわ」。旧国名の武蔵国と下総の国境となった川。そのまま、現在では葛飾区と足立区の境となっている。

 

・春泥の靴のままなる廬舎那仏

 

…廬舎那仏は「るしゃなぶつ」。毘盧遮那とも。華厳経の教主。代表的なものとして東大寺の大仏。

 

・門冠松へ雪降る春景色

 

…門冠松は「もんかぶりまつ」。門の上を右から左、または左から右へ門の上を這うように枝を伸ばして仕立てられた松。その景色。

 

・黄水仙希臘神話と言はれても

 

…希臘神話は「ギリシャしんわ」。
 ナルキッソスに想いを寄せたアメイニアスという女性は、ナルキッソスに冷たくあしらわれて絶望し、自ら命を絶ちます。これを知った女神メネシスは激怒し、ナルキッソスに自分だけしか愛せない呪いをかけます。彼は水鏡に映った自分の姿に恋をして、水を飲むことも忘れ、やがてやせ細って死んでしまいました。彼のいたところに咲いたのが水仙の花。
 

これがこの神話の内容。ギリシャでは「水仙」のことをナルキッソスと言うそうですが、和名では「(日本)水仙、又は雪中花」。英名では「ラッパスイセン」。この句は、この物語を思い浮かべながら黄水仙を見ているところでしょう。ナルシスト(ナルシシスト)の語源。

 

・蹇を託つほかなし冴返る

 

…蹇は「あしなえ」。 

 

・うぐひすや法華経寺も禅寺も

 

…法華経寺は「ほけきょうでら」。法華経の寺の意と思われます。

 

・ラジオから鶯神楽咲くを聴く

 

…鶯神楽は「うぐいすかぐら」。スイカズラ科の落葉低木。向島百花園で見られるようです。

 

・方相氏出で来静まる鬼やらい

 

…方相氏は「ほうそうし」。追儺のとき悪鬼を追い払う役。四つ目の仮面をかぶり、黒い衣に朱の裳を着、矛と盾を表わす弓と矢を持って四方の鬼を追い出す。  

 

・境内にうけらの煙日脚伸ぶ

 

…うけらの煙は「うけらのけむり」。
うけらは、おけらと同じで漢字で朮と書く。うけら神事で炷れた煙が漂っている。

 

◎4.今月の四苦八句   2018・03

雑詠抄

 

穴出でし蛇とぞ先へ行かしめる

先々のことを思へば亀の鳴く

落角塀の崩るる戒壇院

落角この道行けば白毫寺

馬の子の脚組み立てて立ち上がる

末黒野へ帽子空から飛んでくる

焼野から逃れて雉の降り立てる

海を見て遠足児童駆け出せる

いつの間に春闘時期の過ぎてをり

春怨の現るる眦見てしまふ

われとわれ会話のつづく春の午後

花蘇芳越しに男女の睦まじく

日の入の伸びにしことも花蘇芳

かの人の生まれ変わりし蝶ならむ

老松の毀誉褒貶や緑さす

春眠の捨身飼虎てふ厨子の前

浮いたかへうたん軽くて風船

この先の行方をまかす春の雲

手を打てば魚の集まる花の昼

固まりておたまじやくしの国を為す

蝌蚪飼はれサラダとナポリタンの店

変な人ばかり集へるフェスティバル

春霞奈辺に仙人出でませる

投網にて掬うてみたし春霞

佐保姫の体温ほどの日なりけり

天丼の腹に重たき菜種梅雨

黄砂降る地球の上のきな臭し

よなぐもり関帝廟へ人絶へず

春塵や避けて過ごせぬものばかり

この頃やバイタルサイン春愁ひ

花散つてロックンロールババンとバン

枝張つて残花と指をさされをり

話すほど誤解深まる巣立鳥

夕霞テールランプの点点点

春眠の能俊寛の席にゐる

たんぽぽの絮を飛ばして生きつづく

俳句なら天から降りる揚雲雀

道化師の記憶はいつも春の闇

春の闇汐汲人形玻璃の中

小田原と国府津辺りの遅桜

松は松竹は竹なり遅桜

残花とは言へど見事なへたれ幹

遅桜報徳神社尊徳像

かたくりのそつくりかえつて固まれる

暗闇の春の気配の林かな

口に出すほどにあらねど春深し

春深し靴の響けるカテドラル

古書店の裸電球春深し

春深し人の気配の古本屋

只今の牡丹の色を尽くしけり