◎俳句月報  2018・06月号

目次

1.定例句会報

2.今月の吟行・5月5日、東渕江庭園(足立区郷土資料館)

3.俳句の語句の読み方

4.今月の四苦八句

 

◎1.定例句会報  2018・5月  2018・5・27

入選句

 

水貝やどうやら雨になる気配       イカ

能登瓦続く宿場の軒瓦          イア

産土の新茶を父母に参らせむ       イケ

船籍の上海とあり夏霞          イカ

時鳥左えどみち右なりた         イカ

バス降りて夏帽被り直しけり       イケ

新緑の南京櫨の孔子廟          シケ   ← 原句 ・若葉して南京櫨の孔子廟

弾痕の穴ある寺門松落葉         イア   ← 原句 ・銃の穴残して寺門松落葉 

新発意のつむりが二十緑さす       アヒ   ← 原句 ・新発意の青きつむりや緑さす

 

 

添削例

 

原 句 一番を譲らぬ父や菖蒲の湯     → ・菖蒲湯の一番譲らぬ父なりき

原 句 山清水アルミコップのへこみけり  → ・山清水アルミコップの凹み居る

原 句 七回忌形見の念珠や花むぐり    → ・七回忌形見の念珠若楓 ※花むぐりは季語にあらず

 

 

●●●状況をしっかり把握しましょう

 

◑雪形の見えそむ山の名を知らず

 

雪形とは

 

雪形の多くは、農事暦、自然暦として、田畑の仕事や漁を行う時期の目安に用いられてきた。 季節が移るに従い、雪形は姿をどんどん変えていく。この形になれば田植を行い、この形になれば豆を蒔き、など、農民は農作業の目安にした。吾妻小富士の雪うさぎは地元では「種まきうさぎ」とも呼ばれているのがその例である。(ウイキペディアより)

 

◑雪形の見えそむ山の名を知らず

 

この句のように、雪形が見えそむと言えば、その山の雪形を知っていて(当然、山の名前を知っていることでしょう)、その山の雪形がもう出始めたのか?というような感じで受け止められます。そこでその「山の名を知らず」ということには大いに違和感が湧いてきます。

 

何故ならば、なじみのない知らない山であれば、その山に雪形などがあるかどうかさえもわからないでしょう。形もはっきり分刈らない状態で「雪形が見えそむ」と断言できるのでしょうか。

 

この句には、俳句のために俳句を詠むような態度がほのかに見えてきます。一番注意すべきことです。

 

「見えそむ」という措辞と「山の名を知らず」がこの句が作り物にしています。

 

雪形そのものが持つ「意」を無視しており、よーく、対象のありよう、状況を把握してしっかりと表現し

 

ましょう。

 

 

◎2.  今月の吟行 5月5日 東渕江庭園(足立区郷土資料館)

          
吟行と言ひて野遊とは言はず         イカ
緑さす庚申塔の寛政と
花は葉に鳴きつぐ鳥の名を知らず
人かげに鯉の寄り来る若楓
緑蔭に鎖して臨淵亭といふ

 

※別項の「山の名を知らず」の遠因は → 前掲の句の「鳥の名を知らず」からか?  

 


鯉に餌をやる嫗若葉風             チシ
薫風や芭蕉の句碑に歩を止る
博物館太鼓のひびく子供の日
たはぶれにとび石跳べる夏の朝
水面に青空映す夏の池
          


新緑を映す水面を鯉乱す            イア
青紅葉ゆれて水面をうめにけり
新樹光行き交う鳥の声高し
西阿ら井てふ道標緑さす
実桜や石臼並ぶ資料館
          


回遊の庭に水音滝の音             オミ
新緑の中に身を置く一日なり
緑蔭へ同じ道ゆく仲間たち
初夏の躍動的な庭なりし
あの声はさっきの奴か牛蛙
          


淀みなく葛西用水夏柳             シミ
陽刻の石碑の蛇体緑さす
築山の傾ぐ石段梅実落つ
滝口を分けて水落つ蓮の池
庭園の筒抜けの空夏はじめ
          


牛蛙そろそろ昼となる頃か           シケ
四阿の立夏の風を受けにけり
庭園を経回る女流夏帽子
瀧音の山の静けさ増しにけり
惜しみなく色を匂わす紫蘭かな
          


朝の日に映ゆる白壁端午かな          アヒ
実桜や庚申塔の並び立つ
池の端の紫蘭の風の清清し
泳ぐ事たのしたのしと蛙の子
葉桜や老いは脚から心から
          


目を閉じて立夏の風を受ける肌         アノ
木漏れ日を浴びる立夏のベンチかな
飛石を巡るわれらと黒揚羽
軒燕白亜の眩し郷土館
四阿を覆いておれる青紅葉
          
鯉はねる水の世界のおしゃれかな        ハセ
夏吟行友の顔見てほっとする
バス一台乗りおくれたり我曇り
池の鯉青い空にはねており
青空や杖が助手なり夏吟行
         


バス停にバラの咲きたる景色かな        ヤミ
風ややに鯉の寄り来る涼み台
牛蛙鳴きて話の途切れけり
餌をやれば錦鯉浮く夏に入る
実桜や樹下に並びし道祖神
          


一斉に嫗爆笑夏立てリ             トンボ
もう帰ろなどと言ふのか牛蛙
瀧音や三千世界あるごとし
鯉に餌をやりて燥げる端午の日
駈ける児も追いかける児も子供の日

 

 

◎3.俳句の語句の読み

先ず留意。

 ここで示す読みなどを参考に句の判断は各自で。毎号未完成と言ってもよい句も採り上げています。
 

・東風吹かば羅宇屋の笛の懐かしき

 

…羅宇屋は「らうや」。煙管の火皿と吸口の間をつなぐ竹管をらう竹と言い、詰まってきたヤニを取ったりすげかえをしてくれるのが羅宇屋。蒸気で笛を流しながら町に来た。

 

・相輪を動かしてゐる春の雲

 

…相輪は「そうりん」。

 

・春風やモヒカンの靴履きもして…

 

モヒカンの靴は「もひかんのくつ」。ネットにて検索

 

・父の忌のひとりの逮夜猫の恋

 

…逮夜は「たいや」。忌日の前夜。

 

・上臈といふ語ありけり西行忌

 

…上臈は「じょうろう」。「広辞苑」では、五つの意を挙げておりますがいろいろな意味を持つ語です。そのどれかは「西行忌」から読み取って呉れ、という句です。

 

・初雲雀天井川に高き土手

 

…天井川は「てんじょうがわ」。河川の運搬した砂礫が堤防の間を埋めて、川床が周囲の平野面より一段高くなったもの(広辞苑)。

 

・坪庭は日かげばかりよ落椿

 

…坪庭は「つぼにわ」。屋敷内の庭で部屋と部屋とをつなぐ間にある中庭。一坪ほどの小さい庭などの意ではない。

 

・冴返る道行の場の紙吹雪

 

…道行の場は「みちゆきのば」。単に道行と言えば、道を行くこと。旅をすること。また旅して行く道々の光景と旅情とを叙し韻文体の文章で軍記物‣謡曲・浄瑠璃などにでてきます。

この句では「道行の場」ですから浄瑠璃や歌舞伎狂言の中の舞踊による旅行場面。主に相愛の男女が連れだつところから駆落ちの場面でしょう。

「仮名手本忠臣蔵」の「道行旅路の花聟」など特に有名です。

「冥途の飛脚」の新ノ口村の段では、雪の降る中、忠兵衛と梅川は人目を忍びながら新口村へ辿り着くという場面があり、紙を切って作った雪を降らせ太鼓の雪音を重ねて盛り上げます。このように舞台で紙を切ったものを降らせるのは雪とか落花を表わす場面としてあります。

 

・連立てる御礼参りや道真忌

 

…道真忌は「みちざねき」。二月二十五日が菅原道真の忌日。さて、お礼参りの行き先は?。これを読者に任せるという俳句表現。

 

・春萌す藤代峠笹の道

 

…藤代峠は「ふじしろとうげ」。駒込の六義園にある築山の名が藤代峠です。和歌山県に悲劇の皇子有馬皇子所縁の藤白峠がありそれを連想させます。和歌の庭と言われる六義園の目玉の一景。

 

◎4.今月の四苦八句   2018・04

雑詠抄

 

下闇やおのろけ豆といへるもの

雨蛙毒持つ声をひびかせる

猿山へぽつりと梅雨の始まれり

下闇へギター持込む二人組

着到の囃子はじまる夏芝居

散松葉一意直倒めざしゐつ

散松葉ひとつは己がこころへも

雷や八岐大蛇知らぬと言ふ

明日といふ未来の梅雨へ入りにけり

根津にある八重垣町会梅雨に入る

走り梅雨映画の画面を生きつづく

浅草の祭の来れば猫のゐず

歳月や皺もて笑ふ夏帽子

だんまりの場面へ変る夏芝居

草笛も土鈴の音も頼りなし

芍薬や泥人形へ泥絵の具

虹立当ちて千住大橋古びたる

救急車止まれる家や虹立てる

阿字観の足を崩して夏の雨

風薫る角館町文学館

青嵐齢しづかに進みゐし

国分寺跡へきりなく竹落葉

散松葉門跡院の塀の上

病葉の風に遊んで楽しげに

函館市青柳町や椎若葉

全身に満ちくる力椎若葉

ひるがへる葉のゆれやめば青蛙

息吐きて青葉若葉の風を吸ふ

千手千眼仏堂包む青葉かな

振り撒ける力ぞ神ぞ瀧しぶき

瀧落ちて水の柱となりて消ゆ

流れ来て水の飛び込む瀧の音

えんやこりゃはたらく蟻の姿見る

笑ふ子も泣けるも汗の顔なりし

新樹光かの人来たる道なりし

新緑へ交りて老樹緑さす