◎俳句月報  2018・07月号

目次

1.6月定例句会報

2.今月の吟行・7月2日、上品寺の閻魔さんと立葵の道

3.俳句の語句の読み方

4.今月の四苦八句

◎1.定例句会報  2018・5月  2018・6・24

入選句

 

露店の灯金魚影ごと掬はるる          アヒ

青簾朝の勤めの天理教             アノ

水打って祥月命日暮れにけり          シミ

湯の町の坂道石段合歓の花           オミ

青葉風今を昔に九十九折            ヤミ

茗荷汁夫の望郷満たしけり           ナミ

序破急の噴水急をもて終る           アヒ

連山にわきつぐ雲や水芭蕉           アヒ

頼家の墓の清しや花菖蒲            ヤミ

鮎つりの立ち位置きめて静かなり        コフ

 

 

<評>

 

●金魚の句……影ごと掬うというところ、ひと時流行った技巧。見えないように使うように使うのが技巧の

      極意です。

●連山の句……臨場感が欲しい。例えば、連山に雲の湧きつぐ水芭蕉。

 

 

◆◆◆添削してみました

 

●茄子洗うきゅっきゅっきゅうと音たてて ⇒茄子洗うきゅっと忍び音漏らしけり

●ゆきずりの人とふれあひ花わさび ⇒ ゆきずりの人ふれあふ木下闇

●更衣帯きつく締め教室へ ⇒ 更衣済みし帯締め教室へ

 

※茄子洗うの句は、茄子の出すきゅっという当たり前の音を思い切って転換してみました。

発想を転換してみるということで、思わぬ心情吐露をしてみるということも一つの道です。

 

※ゆきずりの句、更衣の句は、原句では句意が全く取れません。推敲は綿密に行えばこのことはわかる筈です。

 

◆◆◆どうとでもなる句

 

●夏わらび村里見ゆる峠茶屋

※どういう季語を持込んでも一句の形になります。

 

●緑蔭や読んで聞かせる「グリとグラ」

※どの季語を使っても一句になりますし、グリとグラという絵本でなくても一句になります。

 

こういう句が出て来ますから、十分に注意!注意!。

 

◎2.  今月の吟行 6月2日 上品寺の閻魔さんと立葵の道

当日作品抄

 

          
花は葉に閻魔堂前停留所         イカ
参磴にシャッター押されゐて青葉
青葉風柄杓の閼伽の飛沫けり
立葵さかのぼる船見え隠れ
風薫るパスタの店の三色旗
         


上品寺みどりの木々の風涼し       ハセ
風涼しえんま大王地蔵尊
初夏や空は水色足軽く
風涼し都下をいくらかはなれしか
立葵白赤ピンク鳩遊ぶ
          


奥戸橋越えて中川葵咲く         チシ
夏がすみ東京湾へ向ふ水
中川土手行けども尽きぬ立葵
雲の峰スカイツリーとハープ橋
夏河の水上バイク波しぶく
          


ウニの香のパスタのランチ句の仲間    フチ
ことさらに赤きが好きとふ立葵
白靴の足を揃へてえんま堂
緑蔭の土匂ひたり木のベンチ
緑蔭や泉石亀の子もたれ合ふ
         


薄暑かなバスに乗りくる車椅子      アヒ
初夏の雲の行方や鶴の懸魚
川風に色を揺らして立葵
川風とスカイツリーと蛍草
往還の川の辺の径立葵
        


平和橋水道橋も薄暑かな         アノ
蛇行する中川堤薫る風
空荷船下る中川梅雨近し
コンクリの割れ目に確と立葵
直ぐなるものスカイツリーと立葵
        


去り難く甍見上げて夏の空        オミ
世話の数気持の数の立葵
下町の心意気咲く立葵
対岸も咲いてる気配立葵
街薄暑冷製パスタ注文す
          


緑さす汐入公園亀あまた         イア
鈍色に光る甍や初夏の空
緑蔭や小さき祠の大師像
中川土手百ほどの色立葵
薄暑光急ぎて戻る長き土手
          


夏服を着こなす老爺上品寺        シミ
中川の舟人達の影涼し
中川の両岸競う立葵
亀の子の潜む汐入庭園池
喉越しの冷製パスタ汗の引く
          


立葵空と橋とを彩れる          ヤミ
待人の姿を隠し立葵
閻魔棲む堂へさはさは青葉風
ジェラードの色きわやかに立葵
六月やちらり葛飾ハープ橋
          


夏めける鶴の懸魚上げ上品寺      トンボ
閻魔堂釘抜懸かる涼しげに
閻魔堂木の下翳に在りにけり
川風や一本道の立葵
太陽の百ほど見ゆる立葵

 

 


◎3.俳句の語句の読み

・春眠の捨身飼虎てふ厨子の前

 

…捨身飼虎は「しゃしんしこ」。捨身飼虎とは釈迦の前世、飢えた虎に自らの身体を与えて喰われたこと。玉虫厨子にこれが描かれていてこの厨子は寺にあります。国宝。

 

・落角この道行けば百毫寺

 

…落角は「おとしづの」。
鹿の角は毎年春に自然に落ち、そのあと4月から5月にかけて新しい袋角が生えてきます。毎年十月に行われる奈良の角切は参拝者の安全のために発情期を迎えた鹿の角を切るという神事で古くから行われています。
…百毫寺は、「白毫寺」のミスプリ。奈良市白毫寺町392にある寺。

 

・揚雲雀墳と伝へて丘ひとつ

 

…墳は「ふん」ですが「つか」または「はか」と読めばいいでしょう。

 

・朧夜や京通名のわらべ唄

 

…京通名は「きょうとおりな」。京都の人達は子供ころから例えば丸太町通り~九条通りまでの東西の通りの名をその順に「丸太町通りをまる、竹屋町通りをたけ、夷川通りをえびす:」と頭の部分をつなぎ「まる たけ えびす おし…」 と歌って覚えているようです。「おし」は押小路通り。

 

・花むぐり藤の下なる車椅子

 

…花むぐりは「はなむぐり」。昆虫の名の一つ。

 

・春深し岸に空船神田川…空船は「からふね」。

 

・春深し靴のひびけるカテドラル

 

…カテドラルは。キリスト教で、司教の座席(カテドラル)が設けてある、司教区の中心となる聖堂。目白にある関口教会が有名。

 

・蒼穹の針の穴より雲雀落つ

 

…蒼穹は「そうきゅう」。あおぞら。

 

・海牛のひとゆらぎする磯遊び

 

…海牛は「うみうし」。

 

・春笋や初物好きは父ゆずり…春笋は「しゅんじゅん」。春のたけのこ。

 

・鶯や水涌く洞に垂ありて

 

…垂は、「しで」。四手・紙垂とも書く。これは昔は木綿を用いており後には紙を用いたことによる。神前に供する玉串・注連縄などに垂れ下げるもの。垂は以前は木綿で「広辞苑」に「楮の皮をはぎ、その繊維を蒸し、水に浸して糸としたもの。主として幣とし、祭の時に榊につけた」とあります。万葉集巻九・十七九0の歌に「…斎箆に木綿取り垂でて斎ひつつわが思ふ吾子真幸くありこそ」。原文は「木綿取り垂でて」の部分「木綿取四手而」です。

 

 

◎4.今月の四苦八句   2018・06

雑詠抄

 

梅雨寒とばかりと言へぬもののある

来し方の歴史の一つ紙魚の跡

蟻毛虫蝶の姿の見えぬ日々

六月のややに寂しき肌触り

緑蔭へ吸ひ寄せられて入りにけり

六月や壺中の天といふ銭湯

六月のまさに銭湯一壺天

野良猫の家を放れず梅雨深む

ひそひそと話声する蛇の闇

打座即刻梅雨の一句を応へけり

電柱のかげに人ゐる梅雨の夜

くちなしやオートドアへ人消ゆる

いつの間にパジャマの下の黄金虫

わが前の蜥蜴の思案待待つてゐる

この頃の見かけぬ蠅と見れど打つ

紫陽花のむらさきいろの水を飲む

学童の並ぶ蛇口へ天道虫

泰山木見上げて転ぶところまで

箱庭へ本当の雨の降り続く

半夏生半分ほどを生きもして

朴の花道を塞げる人だかり

祭笛幽庵焼のいでませる

夏の夜や蝶の群舞の列なれる

金魚玉地図には載らぬ道探す

藍納戸花いろもめん鉄線花

家付の重さを見せる祭髪

六月や梁に下がって煎じ薬

梅雨晴れの人垣路上ミュージシャン

千切木の役にも立たず雲の峰

如是我聞三遍書ける夏書かな

夏椿心置きなく遊びつつ

地球儀や遠くヨットの帆の過ぎる

蚊遣香サンフランシスコを地球儀に

蚊遣香腰に下げゐる男達

苔の上へ一花加へる夏椿

夏椿流るる水へ応へ落つ

竹皮を脱ぎては今年八十と一