◎俳句月報  2018・10月号

目次

1. 9月定例句会報

2. 9月句楽吟行 旧安田庭園・震災記念堂

3. 俳句の語句の読み方

 

◎1.定例句会報  2018・9月  於・2018・9・23

入選句

 

競い合うビルや秋灯丸の内       ヒタ   ← 原 句 競い合うビルの秋灯丸の内

菊日和テント連ねる陶器市       アノ   ← 原 句 菊日和テント連ねて陶器市

本土寺家康の 側室の墓と伝へる昼の虫  イカ

夕さりて雨となりたる厄日かな     イカ

晩学のはげみに句あり獺祭忌      イケ 

厄日過ぐ後期高齢検診へ        チシ   ← 原 句 厄日過ぐ後期高齢検診日

秋茄子の煮浸しをまづ仏さま      イカ

竹に姫桃に太郎や夜の長し       アヒ

異国から深夜のメール敬老日      シケ   ← 原 句 異国より深夜のメール敬老日

夢ごはんと呼んで我家の栗ごはん    ヤミ

秋澄むや尺八の音の何処より      ヒタ   ← 原 句 秋澄むや尺八の音は何処より

 

 

 

その他の添削句

 

・原 句 白河の関址に降り昼の虫 → 添削 白河の関址踏めば昼の虫

 

◎2.  今月の句楽吟行 旧安田庭園・震災記念堂 於・9・1

          
木歩忌の有情を流す隅田川         ヤミ
震災忌風の止まつてしまひけり
秋園の州浜の見ゆる峠かな
人に倦み朝顔の花手につつむ
江東のビル群けふの震災忌
          

 


鯉跳ねて拡がる波紋百日紅         イア
一陣の涼風来る池の面
関取の手形手をあて秋一日
晴れておる二百十日やちゃんこ食う
震災忌焼香の列長々と
         

 


水澄める蓬莱島のさかしまに        シケ
草の穂や水門跡と立札に
玉砂利の踏む音続く震災忌
老人に深き礼ある震災忌
ふるまいの冷水甘し震災忌
          

 


力士像飾る駅中秋めける          チシ
秋暑し軒を並べてちやんこ茶屋
台風に引き落されし木の実かな
震災忌遺品並べる記念館
太鼓橋渡る真際や虫の声
          

 


すだ椎の大樹色なき風の中         アヒ
木洩れ日の園に色増す柘榴の実
日の高き被服廠跡秋の蟬
慰霊堂の手荷物検査秋暑し
秋めくや横網町といふところ
          

 


苔むせる築山の岩百日紅          アノ
鰯雲稲荷神社に鬼ごろし
振舞いの蜂蜜レモン震災忌
秋場所を間近に町の静かなり
皇族の警備の厳し震災忌
         

 


草木の名教へてもらふ秋日和        フチ
秋蝶の彼方へ双つ空白し
太き根の岩裂く庭や秋暑し
洲浜へと水輪近寄る秋涼し
宮内省の大釡展示震災忌
         

 


鶴亀の島へ飛び交ふ赤蜻蛉        トンボ
被服廠跡地なりけり木歩の忌
木歩忌の東京恙なく晴れる
木歩忌や相撲甚句の腹声す
震災忌皇族警備へ人だかり

 

 ※〈木歩忌〉二つの富田木歩句碑
 明治三十年四月十四日生まれの富田木歩は誕生の翌年、高熱のため両足が麻痺し生涯歩行不能となる。歩行不能、肺結核、貧困、無学歴の四重苦に耐えて句作に励み、心打つ句を遺し、関東大震災で焼死した。二十六歳の生涯であった。
 句碑は、①墨田区向島ニ丁目、三囲神社境内に。震災から一周年に、全国の俳人有志六十人が浄財を出して、木歩の慰霊の為に建てたもの。「夢に見れば死もなつかしや冬木風 木歩」、裏面に「大正拾参年九月一日震災の一周年に於て木歩富田一君慰霊乃為建之友人一同」と刻まれている。一は、本名。
 ②平成元年三月に、木歩終焉の地である枕橋近くに、「かけそくも咽喉鳴る妹よ鳳仙花 木歩」との句碑が墨田区によって建立された。

◎3. 俳句の語句の読み

 読みの他若干の見解を加えています。
 

・眠たげに魚鼓のかかれる餓鬼忌かな

 

…「魚鼓」は「ぎょく」。禅寺などで吊るし、諸事の知らせに打ち鳴らすもの。魚板。

 

・警策をいただく首を伸べ涼し

 

…警策は、「けいさく」。坐禅のとき、修行者の肩ないし背中を打つための棒で、臨済宗では「けいさく」。曹洞宗では「きょうさく」。

 

・今身を蟬の数多の声に置く

 

…今身は、「こんしん」。今生の身体。うつしみ。

 

・見上ぐるは爛柯図ならむ谷崎忌

 

…爛柯図は「らんかず」。四人の童子らが碁を打っているのを見ていて時の立つのを忘れ、気が付いたらその間に斧の柯(え)が爛(くさ)り、村に帰ってみれば当時の人は誰もいなかっという故事がありそれを画題とした図。谷崎潤一郎の「細雪」にこの故事を語る登場人物が出ています。

 

・羅の二人目くばせするを見し

 

…羅は、「うすもの」。絽や沙等の薄絹を用いて作った単衣。

 

・それらしくそれらしからぬ浮巣かな

 

…浮巣は、「うきす」。夏の季語。

 

・梅雨明けや男のエステ疣を取る

 

…疣は、「いぼ」。

 

・過去帳の箔の飛び散る曝書かな

 

…曝書は、「ばくしょ」。書物の紙魚などの害を防ぐために虫干を行う。和紙で書かれた過去帳などもその日に行うことが多い。夏の季語。

 

・町騒の途絶える午後の溽暑かな

 

…溽暑は、「じょくしょ」。むしあついこと。

 

・寄り合いて従妹の夜伽明易し

 

…夜伽は「よとぎ」。夜伽を「広辞苑」には①警護や看護のため、夜寝ずに付き添うこと。又それをする人。②女が男の意に従って共に寝ること。③死者を葬る前の通夜、とでています。③の「通夜」は、死者を葬る前に家族・縁者・知人などが遺体の側で終夜守っていること、と出ています。
「寄り合いて」とありますから①の意と取れます。

「通夜」の意ならば、遺体とその一夜を共にすることですから例えば〈従妹らと過ごす夜伽の明易し〉。この句に欠けている、吾(私)もはっきりと出てきています。

 

・七月や母の小祥忌となりて

 

…小祥忌は、しょうしょうき」。辞典を引くと一周忌のこと。「夜伽」の句も同じひとの句ですがこれらの言葉を特に使ってみたかったのでしょうが言葉に使われているようです。